年齢を重ねるにつれ、ひざ関節の軟骨がすり減り、痛み出す「変形性ひざ関節症」。運動で筋肉を鍛え関節にかかる負担を和らげることが大事だが、痛みがひどく歩行が困難になった場合、手術という選択もある。主な手術は「関節鏡」「骨切り」「人工関節」の3種類だが、手法や狙い、適した患者、体にかかる負担などの特徴は異なる。
変形性ひざ関節症は女性に多く、全国の患者は700万人を超すとも言われる。ひざ関節の骨は、クッションの役割をする軟骨に覆われているが、これが次第にすり減り、軟骨のカスなどが関節内を刺激して炎症が起き、痛む。
日本人はO脚傾向で、ひざの内側に体重がかかり、内側からすり減るケースが多い。すり減りが少なく、骨の角のとげも小さいうちは軽度。軟骨がすり減って薄くなり、O脚が進行すると中等度。軟骨が完全になくなり、骨同士がぶつかり合うと重度。曲げ伸ばしが制限されることもある。
関節鏡
炎症を引き起こす関節内の軟骨のカス(破片)や切れた半月板を取り除き、痛みを和らげるのが目的。ひざに直径5ミリ程度の穴を3か所開けて行う。一つの穴から、関節鏡という小さなカメラを入れ、関節内の様子をみて、別の穴から挿入した器具で、破片や半月板を取り除く。
体にかかる負担は比較的軽い。ただし、変形を治すわけではないので、痛みが再発することはある。変形の軽い患者に向いている。
骨切り
O脚気味の人は、内側の軟骨がすり減り、ますますO脚が進む、という悪循環に陥りやすい。
この手術は、すねの骨の一部をくさび形に切り取ってO脚を矯正し、体重がひざの外側にもかかるようにする。変形を治す方法。切った骨が完全につくまでに生活が制限されるのが難点。入院は1か月〜1か月半程度。元の生活に戻るまでには3か月前後かかる。60歳代ぐらいまでの元気な人に向いている。
人工関節
軟骨がほとんどなくなった人にも対応できる方法。変形し傷ついた関節を切り、金属と高分子ポリエチレンの人工物に取り換える。骨切りよりは、回復が早く、1か月程度で元の生活に戻れる。70歳以上の高齢者でも、治療できる。
ただし、関節に人工物を入れるので、違和感を感じる人もいる。また、長年の間にゆるみが出たり、転倒などで破損したりすることもあり、10年で5%、15年で10%の人が再手術になるという。再手術は骨を壊さずに古い人工物を取り外すなどの作業が難しく、より経験豊富な医師を探す必要がある。
進行度によって適した手術は異なるが、日本人工関節学会会長、勝呂徹さん(東邦大大森病院整形外科教授)は、「画像検査だけではなく、患者さんの苦痛の程度が重要」と言う。画像から変形がひどく見えても、本人が支障を感じていなければ、手術の必要はない。また、「悪化させないためには、適度に運動して血行を良くし、筋力を維持して欲しい」と話す。
(変形性ひざ関節症)
変形性膝関節症とは、関節軟骨を中心とした膝関節の構成体が徐々に退行性変性を来たし、疼痛、腫脹、変形などが生じる疾患です。簡単にいえば、膝関節の2つの骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨がすり減り、骨が削れて変形し、周りの組織に炎症が起きて、発症すると考えられています。
60歳以上(平均71.1歳)の住民調査(受診率70%で対象319例638膝)では、25.5%にX線所見ならびに症状を認め、X線所見に変形性変化を認めるが症状のない変形性膝関節症予備群を加えると50%を超えるといわれています。
明らかな原因がなく加齢に伴って徐々に進行する一次性変形性膝関節症と、以前に受けた外傷や膝関節の炎症性疾患などに引き続いて発生する二次性変形性膝関節症に分けられます。一次性変形性膝関節症は女性に多く、日本人の場合には内側を中心に変性が進みO脚を呈する内側型のものが圧倒的に多いといわれています。
初期は膝関節の疼痛、特に歩行時や歩行後の疼痛が主症状となりますが、通常は安静により軽快します。また、内側型のものが圧倒的に多いため、疼痛も膝関節の内側部に訴えることが多いです。一方、主病変が膝蓋大腿関節にある場合には、階段の昇降や立ち上がり動作など屈曲位で荷重する際に疼痛を訴えることが多いです。
病期が進むと疼痛も増悪し、炎症症状が強くなると関節水症も出現してきます。さらに進行して骨や軟骨の変形が進むと、内反変形(O脚)、可動域制限などの形態変化も明らかになります。
膝内側部,膝蓋骨部の痛みは、歩行など荷重時・動作開始時が痛く、継続により痛みは軽減します。進行すると歩行困難となり、安静時も痛みます。治療が必要な変形性膝関節症の80%以上は、内反変形により荷重が内側に集中し軟骨磨耗が生じ発症します。
重症度の指標としては、歩行能力(何分ぐらい持続して歩けるかなど)、階段昇降能力(膝蓋大腿関節の症状の参考になる)、歩行時の杖の使用、階段昇降時の手すりの必要性などが挙げられます。
原因としてはまず肥満が原因としてあげられます。体重が重いと、どうしても負荷が大きくなってしまうわけです。軟骨は加齢とともに減っていくので、年齢も要因となります。
診断は、こうした臨床症状とX線検査が参考になります。単純X線写真は、正面像、側面像、膝蓋骨の軸射像の3枚に加え、立位正面像(または立位屈曲45度の正面像)を撮影します。これにより、関節裂隙の狭小化(軟骨の摩耗を示す)の所見が確かなものとなります。
内外側の大腿脛骨関節の狭小化が出現する関節リウマチと異なり、内側型では内側の、外側型では外側の大腿脛骨関節の狭小化が特徴的です。軟骨下骨の硬化や骨棘の形成もみられます。
CTは、複雑な骨変形を伴う場合の病態の把握、手術療法を行う場合の骨切りなどのプランニングに用いられます。MRIは、半月板や靱帯など軟部組織の病態の把握、滑膜炎の程度の判定などに用いられます。
治療としては、以下のようなものがあります。
変形性ひざ関節症は女性に多く、全国の患者は700万人を超すとも言われる。ひざ関節の骨は、クッションの役割をする軟骨に覆われているが、これが次第にすり減り、軟骨のカスなどが関節内を刺激して炎症が起き、痛む。
日本人はO脚傾向で、ひざの内側に体重がかかり、内側からすり減るケースが多い。すり減りが少なく、骨の角のとげも小さいうちは軽度。軟骨がすり減って薄くなり、O脚が進行すると中等度。軟骨が完全になくなり、骨同士がぶつかり合うと重度。曲げ伸ばしが制限されることもある。
関節鏡
炎症を引き起こす関節内の軟骨のカス(破片)や切れた半月板を取り除き、痛みを和らげるのが目的。ひざに直径5ミリ程度の穴を3か所開けて行う。一つの穴から、関節鏡という小さなカメラを入れ、関節内の様子をみて、別の穴から挿入した器具で、破片や半月板を取り除く。
体にかかる負担は比較的軽い。ただし、変形を治すわけではないので、痛みが再発することはある。変形の軽い患者に向いている。
骨切り
O脚気味の人は、内側の軟骨がすり減り、ますますO脚が進む、という悪循環に陥りやすい。
この手術は、すねの骨の一部をくさび形に切り取ってO脚を矯正し、体重がひざの外側にもかかるようにする。変形を治す方法。切った骨が完全につくまでに生活が制限されるのが難点。入院は1か月〜1か月半程度。元の生活に戻るまでには3か月前後かかる。60歳代ぐらいまでの元気な人に向いている。
人工関節
軟骨がほとんどなくなった人にも対応できる方法。変形し傷ついた関節を切り、金属と高分子ポリエチレンの人工物に取り換える。骨切りよりは、回復が早く、1か月程度で元の生活に戻れる。70歳以上の高齢者でも、治療できる。
ただし、関節に人工物を入れるので、違和感を感じる人もいる。また、長年の間にゆるみが出たり、転倒などで破損したりすることもあり、10年で5%、15年で10%の人が再手術になるという。再手術は骨を壊さずに古い人工物を取り外すなどの作業が難しく、より経験豊富な医師を探す必要がある。
進行度によって適した手術は異なるが、日本人工関節学会会長、勝呂徹さん(東邦大大森病院整形外科教授)は、「画像検査だけではなく、患者さんの苦痛の程度が重要」と言う。画像から変形がひどく見えても、本人が支障を感じていなければ、手術の必要はない。また、「悪化させないためには、適度に運動して血行を良くし、筋力を維持して欲しい」と話す。
(変形性ひざ関節症)
変形性膝関節症とは、関節軟骨を中心とした膝関節の構成体が徐々に退行性変性を来たし、疼痛、腫脹、変形などが生じる疾患です。簡単にいえば、膝関節の2つの骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨がすり減り、骨が削れて変形し、周りの組織に炎症が起きて、発症すると考えられています。
60歳以上(平均71.1歳)の住民調査(受診率70%で対象319例638膝)では、25.5%にX線所見ならびに症状を認め、X線所見に変形性変化を認めるが症状のない変形性膝関節症予備群を加えると50%を超えるといわれています。
明らかな原因がなく加齢に伴って徐々に進行する一次性変形性膝関節症と、以前に受けた外傷や膝関節の炎症性疾患などに引き続いて発生する二次性変形性膝関節症に分けられます。一次性変形性膝関節症は女性に多く、日本人の場合には内側を中心に変性が進みO脚を呈する内側型のものが圧倒的に多いといわれています。
初期は膝関節の疼痛、特に歩行時や歩行後の疼痛が主症状となりますが、通常は安静により軽快します。また、内側型のものが圧倒的に多いため、疼痛も膝関節の内側部に訴えることが多いです。一方、主病変が膝蓋大腿関節にある場合には、階段の昇降や立ち上がり動作など屈曲位で荷重する際に疼痛を訴えることが多いです。
病期が進むと疼痛も増悪し、炎症症状が強くなると関節水症も出現してきます。さらに進行して骨や軟骨の変形が進むと、内反変形(O脚)、可動域制限などの形態変化も明らかになります。
膝内側部,膝蓋骨部の痛みは、歩行など荷重時・動作開始時が痛く、継続により痛みは軽減します。進行すると歩行困難となり、安静時も痛みます。治療が必要な変形性膝関節症の80%以上は、内反変形により荷重が内側に集中し軟骨磨耗が生じ発症します。
重症度の指標としては、歩行能力(何分ぐらい持続して歩けるかなど)、階段昇降能力(膝蓋大腿関節の症状の参考になる)、歩行時の杖の使用、階段昇降時の手すりの必要性などが挙げられます。
原因としてはまず肥満が原因としてあげられます。体重が重いと、どうしても負荷が大きくなってしまうわけです。軟骨は加齢とともに減っていくので、年齢も要因となります。
診断は、こうした臨床症状とX線検査が参考になります。単純X線写真は、正面像、側面像、膝蓋骨の軸射像の3枚に加え、立位正面像(または立位屈曲45度の正面像)を撮影します。これにより、関節裂隙の狭小化(軟骨の摩耗を示す)の所見が確かなものとなります。
内外側の大腿脛骨関節の狭小化が出現する関節リウマチと異なり、内側型では内側の、外側型では外側の大腿脛骨関節の狭小化が特徴的です。軟骨下骨の硬化や骨棘の形成もみられます。
CTは、複雑な骨変形を伴う場合の病態の把握、手術療法を行う場合の骨切りなどのプランニングに用いられます。MRIは、半月板や靱帯など軟部組織の病態の把握、滑膜炎の程度の判定などに用いられます。
治療としては、以下のようなものがあります。
まず、保存的な治療としては、肥満がある場合は、減量を指示します。大腿四頭筋訓練(仰臥位で膝伸展のまま10〜40度程度下肢を上げ、5秒ほど静止して下ろします。これを30〜50回繰り返す)や股関節外転筋訓練(側臥位で下肢を上げ下げする)が症状を改善させることが証明されています。
内側型関節症では、外側楔状足底挿板(外側が8 mm程度高い靴の中敷)を処方し、下肢荷重軸の移動をはかります。薬物療法としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方します。これは疼痛の軽減だけでなく、関節水症を減少させる効果も期待できます。
関節腔内注射では、ヒアルロン酸ナトリウムやステロイド薬を用い、膝蓋骨の近位で外側から穿刺します。関節水症が強ければ排液の後、薬剤を投与します。
手術療法としては、上記のように関節鏡や骨切り、人工関節置換術などがあります。関節鏡(鏡視下デブリードマン)は、比較的早期の症例や半月症状が主体であるとき考慮します。関節鏡視下に変性半月や骨棘を切除し、関節の洗浄を行います。
高位脛骨骨切り術は、中等度までの内側型関節症が適応となります。脛骨近位部で骨切りを行い、外反膝に矯正します。
人工関節置換術は、障害されている内側または外側の関節のみを置換する単顆型と、高度の関節症に対して行われる全置換型があります。いずれも比較的高齢者に行われ、無痛性、支持性、可動性という関節機能の再建が可能で、歩行能力の改善も大きいとされています(15〜20年の良好な長期成績が報告されています)。
それぞれ長所・短所があるため、ご自身の希望、障害の程度に沿った治療法を選択することが重要です。主治医とご相談され、お考えいただいてはいかがでしょうか。
【関連記事】
生活の中の医学
本当は怖い腰・膝の痛み−変形性関節症
内側型関節症では、外側楔状足底挿板(外側が8 mm程度高い靴の中敷)を処方し、下肢荷重軸の移動をはかります。薬物療法としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方します。これは疼痛の軽減だけでなく、関節水症を減少させる効果も期待できます。
関節腔内注射では、ヒアルロン酸ナトリウムやステロイド薬を用い、膝蓋骨の近位で外側から穿刺します。関節水症が強ければ排液の後、薬剤を投与します。
手術療法としては、上記のように関節鏡や骨切り、人工関節置換術などがあります。関節鏡(鏡視下デブリードマン)は、比較的早期の症例や半月症状が主体であるとき考慮します。関節鏡視下に変性半月や骨棘を切除し、関節の洗浄を行います。
高位脛骨骨切り術は、中等度までの内側型関節症が適応となります。脛骨近位部で骨切りを行い、外反膝に矯正します。
人工関節置換術は、障害されている内側または外側の関節のみを置換する単顆型と、高度の関節症に対して行われる全置換型があります。いずれも比較的高齢者に行われ、無痛性、支持性、可動性という関節機能の再建が可能で、歩行能力の改善も大きいとされています(15〜20年の良好な長期成績が報告されています)。
それぞれ長所・短所があるため、ご自身の希望、障害の程度に沿った治療法を選択することが重要です。主治医とご相談され、お考えいただいてはいかがでしょうか。
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