読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
夫(72)の首の後ろに幼児のこぶし大の腫れ物が5年ほど前から出来ています。痛みもないようですが、脂肪でしょうか。放っておいてもよいものでしょうか。(75歳妻)
この相談に対して、川端皮膚科クリニック院長である川端康浩先生は、以下のようにお答えになっています。

ときに化膿して真っ赤に腫れ上がり、痛くなることがあります。軽い炎症なら抗生物質を内服すれば症状はおさまりますが、ひどく化膿した場合は抗生物質を内服しただけでは効果が少なく、表面を少し切開してうみを出したほうがよいことがあります。

粉瘤も脂肪腫も悪性化することはほとんどありませんが、非常に大きくなったりするものもあります。粉瘤の場合は、放っておくと炎症を起こすこともあります。このため、ある程度の大きさになったものは切除したほうがよいでしょう。巨大なものでなければ、局所麻酔の日帰り手術が可能です。
粉瘤か脂肪腫が考えられます。粉瘤とは皮膚の下に袋ができ、本来皮膚からそげ落ちるはずの垢(角質)と皮膚の脂(皮脂)が、そげ落ちずに袋の中にたまってできた腫瘍です。それに対して、脂肪腫は皮下脂肪の細胞そのものが増殖してできた良性腫瘍です。

粉瘤は皮膚腫瘍としてわれわれ皮膚科医が最も診察する機会の多いものです。良性の腫瘍ですが、たまった角質や皮脂は袋の外には出られず、どんどんたまっていくので、少しずつ大きくなっていきます。

身体のどこにでもできますが、顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。やや盛り上がった数ミリから数センチの半球状のしこりで、しばしば中央に黒点状の開口部があり、強く圧迫すると、臭くてドロドロした物質が出てくることがあります。
粉瘤(類表皮嚢腫)atheromaとは、表皮由来の嚢腫を漠然と指している臨床病名であり、大部分が毛包漏斗部由来の表皮嚢腫(正常表皮とほぼ同様の構造からなる壁により取り囲まれ、内腔に層状の角質物質を入れた嚢腫)です。

有毛部に生じますが、足底や手掌など毛包が存在しない部位に生じた表皮嚢腫は、外傷による表皮の嵌入と考えられます。毛孔の閉塞により生じた嚢胞を貯留嚢腫と呼んだり、外傷により表皮が迷入して生じた嚢腫を、外傷性表皮嚢腫あるいは外傷性表皮封入嚢腫と呼びます。また、化膿菌の侵入などで嚢腫壁が破れると異物反応を起こし、炎症性粉瘤と呼ばれます。

多くは表面に黒点状の開口部がみられ、圧するとこの小孔から粥状物の排出がみられます。整容上の問題や日常生活上、邪魔にならなければ放置してもよいですが、粉瘤(表皮嚢腫)はしばしば異物肉芽腫性炎症反応を起こし発赤、疼痛を生じるので早めに摘出するのもよいです。

摘出には、頂点の毛孔を含めて4mm径程度のパンチでくり抜き、角質を絞り出した後、眼科反剪刀などで嚢腫壁を周囲組織から剥離して摘出するいわゆる「へそ抜き法」が、後の瘢痕を最小にできるので推奨されます。炎症を起こして来院した場合も適応となります。ただ、過去に炎症を起こしたことのある嚢腫では紡錘形切除が確実です。

一方、脂肪腫は以下のようなものがあります。
脂肪腫とは、成熟脂肪細胞が増生した良性腫瘍で、間葉系腫瘍のうち最も多く(32%)みられます。身体の部位を問わず(躯幹および四肢の中枢部に認められることが多い)、皮下脂肪、筋肉間脂肪、深在性脂肪のいずれにも発生しますが、皮下脂肪に好発します。

成人、特に中年以降に多いです。発育は緩徐で、無症状のことが多いです。触診上では弾性軟、境界明瞭で、球形ないし卵形に触れることが多いです。大きさは、通常数cmですが10cmを越す巨大なものもあります。

触診から容易に診断できますが、神経鞘腫や脂肪肉腫との鑑別を要することもあり、組織学的に診断することもあります(確定診断は病理組織学的検査)。また、CTで脂肪と同濃度の陰影を呈し診断は容易であり、筋層下など部位診断にもCTは有用となります。

増大傾向、圧迫症状、美容上の問題がなければ経過観察でも良いですが、症状や見た目が気になる場合は、手術で単純摘出を行います。摘出標本は必ず病理組織検査を行い、脂肪肉腫と鑑別します。

症状が出てきたり、気になる場合は、精査を行うために一度、皮膚科を受診されてはいかがでしょうか。

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