特に何もしなくても通常の生活を送ることができる人には信じられないような病気が世の中には多くありますが、騒音を聞くなどの突然大きな衝撃を受けると死んでしまうという病気があるそうです。

水泳などスポーツも禁止されていて、運動は厳しい管理の下、Wiiを使って行っているとのこと。

9歳と11歳になるChurch姉妹は毎朝ものすごく注意しながら起こされるそうです。2人は「QT延長症候群」と呼ばれる病気で、突然アドレナリンが分泌されたり、血圧が急激に上がり死に至る症状が出るそうです。

また、スポーツなど心臓に突然激しい影響与える可能性のある運動は禁止され、エクササイズは誰かの管理している時にWiiを使って行うとのこと。

QT延長症候群は遺伝性の病気で7000人に1人ぐらいの割合で発症するとのこと。父方の祖母も同様の病気であったため、除細動器を付けていたそうです。

母親のSamanthaさんは「時限爆弾を抱えて生活しているようなもので、いつ娘たちがいなくなってもおかしくないという事実が私の心をしめつける」と話しています。

幸いChurch姉妹の場合は心の準備さえしていれば大きな音を聞いても大丈夫ということで、友達と花火に行く計画も立てているそうです。
(騒音を聞くと死んでしまう姉妹)


心電図のQ波の開始点から、T波の終了点までの時間をQT時間(間隔)といいます。心筋細胞のイオンチャネルをコードする遺伝子の異常や薬剤などで、このQTが異常に延長すると、心室頻拍や細動が生じやすくなります。そのような病態を、QT延長症候群といいます。

QT延長症候群には、先天性と後天性があり、発症年齢は様々です。先天性では非発作時の心電図でQT間隔が延長し、突然死・失神の家族歴を認めることが多いです。先天性QT延長症候群では、多くの遺伝子異常が発見されています(先天性QT延長症候群と考えられる症例でも、実際に遺伝子異常が発見されるものは多くない)。Romano-Ward症候群はLQT1〜LQT8、Jervell and Lange-Nielsen症候群はJLN1、JLN2に分けられています。

Romano-Ward(ロマノ-ワード症候群)とは、QT延長症候群の中で常染色体優性遺伝で先天性聾のないものを指します。先天性聾を伴う常染色体劣性遺伝のJervell and Lange-Nielsen症候群(イェルヴェル-ランゲ=ニールセン症候群)や遺伝性の認められない散発例よりも頻度が高いです。

後天性ではQT延長をきたす原因があります。たとえば、内服(抗不整脈薬や向精神薬、抗菌薬、抗ヒスタミン薬など)、電解質異常、心筋虚血、高度徐脈、脳血管障害などが関係して生じます。

発作時の心電図は、QT延長と特徴的なQRS波形(1拍ごとに変化して捻れているようにみえる)を呈する多形性心室頻拍(torsades de pointes)です。発作時の心電図でQT延長とtorsades de pointesを認めれば、QT延長症候群と診断できます。先天性の場合は、詳細な家族歴、家族の心電図、遺伝子解析で診断がより確実となります。後天性の場合は、QT延長の原因の検索が重要で、原因除去によりQT延長は正常化します。

QT延長症候群では、失神が初発症状であることが多いです。QT延長症候群では、運動負荷やストレス、緊張などで交感神経過緊張となると、多形性心室頻拍(torsades de pointes トルサード・ド・ポアント)が誘発されやすいです。

治療としては、以下のようなものがあります。
上記のケースでは、家族歴もあるようですので、先天性QT延長症候群であると考えられます。先天性QT延長症候群で遺伝子異常の型がわかっているものは、それぞれに応じて治療を行います。

たとえば、LQT1ではβブロッカーやKチャネルオプナー、メキシチレチンなどを用います。LQT2ではβブロッカー、カリウム摂取、LQT3ではメキシレチン、ペースメーカーなどを用います。

タイプがはっきりしない場合には、β-遮断薬が第一選択となります。徐脈に伴いQT延長を認める例では、メキシレチンなどを併用します。薬剤で全くコントロールが不良で、失神を繰り返す症例では、ICDを植え込むこともあります。

torsades de pointesの治療としては、直流除細動(心室細動移行時)、硫酸マグネシウム(マグネゾール:1mg/kg/分を停止まで)、一時ペーシング(LQT3など徐脈に伴う症例:心拍数を100以上に)などを行います。血清カリウムは、正常の上限に保ちます。

ほかにも、プロプラノロール(インデラル:0.1mg/kg静注)、ベラパミル(ワソラン:0.1mg/kg 静注)、メキシレチン(メキシチール:2mg/kg静注→LQT3では第一選択)、リドカイン(キシロカイン:2mg/kg静注)、イソプロテレノール(プロタノール:LQT3など徐脈に伴う症例で0.1〜0.5μg/kg/分)を行います。

後天性QT延長症候群では、QT延長の原因の除去(薬剤中止、電解質補正、一時ペーシングなど)を行います。

LQT1では運動、特に水泳や精神的ストレスが誘因となりやすく、運動規制が必要となります。神経質な例では、QT延長をあまりきたさない精神安定薬などを投与することも必要となります。

上記のように、LQT2では大きな音が発作の誘因となることがあり、目覚まし時計や電話の着信音を小さくするなどの注意が必要です。また、カリウム製剤やカリウムを多く含む食物の摂取、スピロノラクトンなどのカリウム保持性利尿薬の投与なども有効と考えられます。

生活を送る上でも、かなりの制約や気を付けることが多そうです。こうした中で暮らしているということも、少し念頭においていただけたら、と思われます。

【関連記事】
仰天ニュース系の症例集

ファロー四徴症の男性が心臓発作で亡くなった理由