虫歯や歯周病などの病気や歯に詰めた金属物のアレルギーなど口の中の異常と、全身の病気との関係が注目されている。歯周病が糖尿病や心臓血管病などを引き起こすとの研究が知られているが、難治性の皮膚病治療でも、口の中を健康に保つことによって症状が改善するとの報告もあり、歯科と連携した治療の試みが進められている。

藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)皮膚科では2003年から、歯科医院と連携した治療を試験的に進めている。初診の際に、虫歯や歯周病など口やのどの病気の有無を尋ね、金属アレルギーがあるかどうか皮膚にパッチをはって調べる検査や、血液検査を実施する。

問診や検査の結果から、口の病気との関連が疑われる場合、連携先の歯科医院を患者に紹介。皮膚病の治療と並行して、歯科治療を受けてもらう。保険診療で一般的に使われるパラジウムなどで、金属アレルギーが見つかった場合には、義歯や歯の詰め物を、アレルギー反応を起こさない種類の金属や非金属の材料に替える。

名古屋市の主婦(68)は足の裏が赤く腫れて、歩くたびに鈍い痛みに襲われ、手足の皮膚に膿のような湿疹が生じ皮がむける「掌蹠膿疱症」と診断された。

掌蹠膿疱症は30〜40歳代に多い。ステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬や紫外線照射が一般的な治療法だが、治りにくい。そこで同大皮膚科の治療と並行して、紹介された歯科医院で虫歯や歯周病の治療をしたところ、2か月後に腫れは治まった。

同大皮膚科との連携治療を行っている「おしむら歯科」(同市)院長の押村進さんは「治療は、歯周病や虫歯、根の治療など、歯科治療で一般的に行われているものです。金属アレルギーであれば、義歯や詰め物を、アレルギーを引き起こさない素材のものに取り換える」と話す。

発症に扁桃炎が関与することは知られているが、虫歯や歯周病を治療すると、どうして皮膚病が改善するのか詳しい仕組みは分かっていない。歯に詰めた金属へのアレルギーや口内の炎症、口の中の細菌の作るたんぱく質が、皮膚病を誘発しているのではないか、との見方がある。

新潟大病院皮膚科で、95年11月から99年6月までの約3年半に診察した掌蹠膿疱症の患者について調べたところ、虫歯や歯周病のある31人のうち、歯科治療を受けた後に4人が治り、16人で症状の改善が見られた。

藤田保健衛生大皮膚科教授の松永佳世子さんによると、「口の中の病気が全身に及ぼす影響は、じんましんやアトピー性皮膚炎など皮膚病の分野でも注目されている。歯科との連携をさらに強め、長期的な治療成績を積み重ねて、治療法の確立を目指したい」と話している。
(難治性皮膚病 完治の例も)


掌蹠膿疱症とは、手掌や足蹠(特に母指球部や土踏まず)に対称性に無菌性膿疱の集簇を生じ、軽快と悪化を繰り返す慢性皮膚疾患です。

小水疱として初発し、すぐに膿疱化します。このため、小水疱と膿疱が混在したような状態になります。膿疱は古くなると茶褐色の痂皮となり、10日前後で剥離し、鱗屑縁を残します。時期により、紅斑性落屑性局面のみのこともあります。

手掌足底が対称性に侵されるが皮疹の程度には差があります。悪化すると掌蹠全体の落屑性紅斑局面となり、肘頭・膝蓋部の落屑性紅斑や爪変形を示すこともあります。約10%の症例で胸肋鎖骨関節、脊椎、仙腸関節などの関節炎を合併します。そう痒は個人差があります。

膿疱症の中では最も頻度が高く、青壮年期に好発します。原因としては、病巣感染および歯科金属アレルギーが原因となることがあります。喫煙は皮疹を増悪させるとされています。

病巣感染では、慢性扁桃炎や、う歯、歯肉炎、副鼻腔炎、中耳炎、虫垂炎、胆嚢炎などを合併することが知られ、溶連菌やスーパー抗原に対する免疫応答異常が報告されています。

問診では、慢性扁桃炎、う歯、喫煙歴、糖尿病、関節症状の有無、季節的増悪などが重要です。病巣感染の検索には、白血球数、ASO、ASK、CRP、赤沈、血中IgA値、扁桃誘発試験や打ち消し試験(Impretol試験)が参考になります。関節炎の疑いのある例では、X線や骨シンチグラフィによる検索を施行します。金属(特に歯科用材料)アレルギーが疑われる場合、貼布試験を行います

確定診断では皮膚生検を行い、角層直下に単房性膿疱がみられ、膿疱内容は好中球で占められます。

治療としては、以下のようなものがあります。
病巣感染についての問診、検索を行い、疑わしい場合には病巣感染に応じて加療します。金属アレルギー(パッチテストほか)が存在するときには、歯科治療に用いられた金属除去が著効する場合があります。

外用療法では、very strong、strongestのステロイド外用薬、あるいは活性型ビタミンD3外用薬を用います。
デルモベート軟膏を1日2回、オキサロール軟膏1日2回などを用いて、角質増生が顕著な時ではアンテベート軟膏を塗布した後、10%サリチル酸ワセリン貼布します。また、ソラレン塗布後UVA照射(PUVA)、最近ではナローバンドUVBの有効性が報告されています。

全身療法では、病巣感染が疑われる場合や重症例ではミノマイシン錠(50mg)やチガソンカプセル(10mg)内服などを行います。

歯科治療の金属(アマルガム)などが原因になることもあります。そうした場合はパッチテストなどを行い、その上で歯科治療を改めて行うことも重要となります。

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