読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
8歳の息子。小学生になったころから、車、船、特急電車に乗ると30分で酔ってしまいます。起きていると必ず吐きます。この先、社会科見学などがあるので心配です。どう対処したら良いか教えてください。(38歳母)
この相談に対して、あいあいキッズクリニック院長の北島晴夫先生は、以下のようにお答えになっています。
車酔い(動揺病)は、車で揺られるなど、ふだんと違う平衡感覚にさらされた時、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷や汗、めまい、頭痛などの症状が起こるもので、脳からの一種の警報といえます。

私たちは、目や内耳(三半規管)からの情報をもとに、自分の位置、傾き、回転、遠心力などを感じとり、立ったり、歩いたりできます。ところが、車の不規則な揺れなど、なじみの少ない情報が目や内耳から送られてくると、脳は、通常と違う平衡感覚を危険!と判断して、“酔い”という警報を発するのです。

ですから、日ごろから、ブランコ、シーソー、鉄棒、縄跳び、一輪車、でんぐり返しなどで体をよく動かして、色々な平衡感覚のパターンに慣れておくと、酔いにくくなります。ただ、体調が悪いと、酔いやすくなるので、疲れることを避け、よく眠り、風邪をひかない注意も大切です。
乗り物酔い(動揺病、加速度病)とは、乗り物に乗ることで生じるめまいです。乗り物酔いは、船では乗船するかなりの人に生じますが、激しく酔う人と、そうでない人がいます。

車酔いの生ずる人は少ないですが、酔いやすい人もいます。特に、子供や女性で生じやすいといわれています。また、発症には内耳への刺激だけでなく、睡眠不足や胃腸障害、心理的要因(過去の経験からくる自己暗示)も内的因子として重要です。暗示にかかりやすい人もおり、乗り物に乗っただけで酔いが生じる重症例もあります。

半規管では回転運動の加速度を膨大部にある前庭感覚細胞が感知し、耳石器は球形嚢が垂直加速度、卵形嚢が水平加速度を感知するといわれています。車酔いによるめまいは、この三半規管、耳石器の過剰刺激と視運動眼反射による視覚の乱調が組み合わさって生じると考えられています(乗り物では左右の半規管と耳石器が刺激されるため、強い刺激となるわけです)。結果、前庭眼反射による眼振の出現、前庭自律神経反射による悪心・嘔吐,前庭脊髄反射による平衡失調が生じます。

症状としては、副交感神経症状が強いと考えられます。前庭自律神経反射が前庭眼反射および視運動眼振と同時に生じるため、嘔気と嘔吐が主症状となります。冷汗や低血圧、顔面蒼白なども生じます。

酔わない工夫としては、以下のようなものがあります。
乗る当日は、早めに起きて、軽い運動で眠気を取り、甘いものを軽く食べて、トイレを済まし、締めつけの少ない服で出かけます。酔い止め薬を使うなら乗車30分前に飲みます。

乗車したら、視界が広く、揺れにくい席に深く座ります。前の方の席、進行方向に向いた席が最適です。立つ時もそれに準じて、ポールをしっかり握ります。

乗車中は、涼しくし、ときどき空気を入れ替えて、遠くを眺めるようにします。好きな音楽を聴いたり、寝てしまったりするのもいいでしょう。
内的因子(思いこみ)に対して、暗示療法や自律訓練法をあらかじめ行い予防を試みることも行われています。普段から「乗り物酔いしやすい」といった思いこみを減らすことも非常に重要です。

また、内服療法としては乗り物に乗る前に行うことが重要です。抗ヒスタミン薬のなかでジフェンヒドラミン(トラベルミン)を1回1〜2錠、あるいはジメンヒドリナート(ドラマミン)1回1〜2錠を、乗り物に乗る1時間前に内服することが重要です。

乗り物酔いが乗車・船中に生じた場合も、これらの抗ヒスタミン薬は効果があり、ドンペリドン(ナウゼリン)1回10〜15mgあるいはプリンペランを1回1〜2錠内服でもよいとされています。

乗車中は、「体の動く方向に姿勢を合わせる(右へカーブするときは右へ)」「小さな文字の本など読まずに遠くを見る」「空腹で乗車しない」「好きなものを口に(ガムなど)」といったことを心がけることも効果があるそうです。

こうしたことをご参考に、出来る限り酔わない工夫をしてみてはいかがでしょうか。

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