以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

中堅メーカーの営業課長、M・Yさん(44)。大の検査嫌いで、まだ40代の自分は大丈夫だろうと1度も健康診断を受けていませんでした。しかし、実はこの時すでに彼の体内ではある恐ろしい病が発症し、タイムリミットがあと9年後に迫っていました。

病の発症から8年後、食後にみぞおち辺りに鈍く痛みを感じるようになったM・Yさん。しかし、痛みは軽く、しばらくすると消えたため、彼は病からの警告を完全に無視してしまいました。症状としては、具体的には以下のようなものがありした。
1)食後にみぞおち辺りが鈍く痛む
食事をした後、心窩部(みぞおちの胃の辺り)にシクシクとした痛がみられるようになりました。食後にこの痛みがみられるようになり、数ヶ月が経過しました。再三、「病院で胃カメラ(上部消化管内視鏡)の検査をしてもらったら?」と勧められましたが、「大変な思いをしたくない」と拒否してしまいました。
2)みぞおちの痛みが消える
心窩部の鈍痛が続いて3ヶ月後に、今度は痛みが消えました。そのため、胃潰瘍かなにかが治ったのだろう、と軽視して病院にも行かずじまいでした。
3)胃が張っているような膨満感
さらにしばらくして、今度は胃が張っているような膨満感に悩まされるようになりました。以前の胃の痛みがあったこともあり、奥さんが検診をさらに強く勧めました。それでようやくM・Yさんは病院に行って上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受けることにしました。
検査の結果、医師から告げられた疾患名は、「胃癌」でした。

胃癌により、年間約5万人が死亡しているといわれています。 死亡数は、最近では肺癌に次いで2位になっておりますが、依然として胃癌は癌全体の約20%を占めています(減少の原因としては、食生活の欧米化などによる環境の変化や集団検診などにより根治可能な胃癌が多数発見されるようになったことが挙げられています)。しかしながら、日本における胃癌の死亡率は依然世界の第1位にあります。早期発見・早期治療が求められます。

胃癌は、自覚症状による胃癌の早期発見は難しいです。ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからと言われています。そのため、放置されてしまったり、逆に内視鏡検査などで早期発見されるケースもあります。

胃癌は比較的進行が遅い疾患です。発症からおよそ9年間は、早期の状態で留まっています。ほとんど自覚症状がないのですが、この9年の内に適切な治療を受ければ、5年生存率は97%、ほとんどの人が完治できると考えられます。M・Yさんも、44歳の時すでに胃癌を発症し、最初は全く無症状でしたが、この時内視鏡検査を受けていれば、早期発見の可能性もありました。

ですが、検査嫌いが癌の進行を許してしまいました。残された時間は、あと1年。ここで幸いにもM・Yさんは、数少ない胃癌の症状に襲われます。食後に生じた、心窩部(みぞおち辺り)の鈍い痛みです。これは、胃癌が作った潰瘍が原因。癌細胞は脆いため、一部が崩れると、そこが潰瘍になることが多いのです。食後にだけ起きた鈍い痛みは、食べ物が入ってきた時に胃散が一気に分泌され、それが潰瘍を刺激したものでした。

このように症状としては、腹痛や腹部〜胸部の不快感、吐き気や嘔吐を伴ったり、食欲減退、食事後の胃部膨満感や急激な体重減少などが起こってきます。症状を有した例では腹痛が最も多いようです。他にも、下血や黒色便(血液中のヘモグロビンが胃酸によって酸化されて黒くなる)がみられることもあります(これらの症状は消化性潰瘍と同様で、症状だけでは両者の鑑別は困難)。

局所症状として潰瘍を伴っていれば、心窩部痛や吐血・下血を生じることもあり、噴門や幽門に通過障害が生じれば、嚥下困難、嘔吐、上腹部膨満感などが生じてきます。

また、胃癌の潰瘍のもう一つの特徴として、2〜3ヶ月すると痛みが治まってしまうことがあげられます。実は潰瘍ができたところに、再び癌細胞が増殖し、潰瘍を埋め尽くすことで、痛みが治まります。

このように胃癌の潰瘍は、出来ては治ることを繰り返していきます。ついに9年という期限を踏み越えた癌は、胃壁の深い層にまで侵入してしまいました。こうして発症から10年、ようやく検査を受けて発見されたガンは、すでに中期の段階に達していました。その結果、M・Yさんは胃の4分の3を摘出する大手術が必要となり、しかも術後の5年生存率は、75%という厳しい現実が待っていました。

本例ではありませんでしたが、さらに転移をする可能性もあります。胃癌の転移には、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種があります。胃壁内での深達度が進むほど転移率は高くなり、血行性転移では肝や肺、さらに骨、脳、皮膚、腎などへ転移します。リンパ行性転移は所属リンパ節から始まり、遠隔リンパ節へ転移をきたしていきます。腹膜播種は、漿膜を越えて胃壁を浸潤した癌細胞が、腹膜に播種して癌性腹膜炎を起こして腹水を生じます。

肝転移すると肝腫大、黄疸などが起こってきます。腹膜に転移すると腹水、後腹膜に転移すると強い背部痛を認めます。その他、左鎖骨上窩リンパ節転移(Virchow転移)、Douglas窩への転移(Schnitzler転移)、卵巣転移(Krukenberg腫瘍)などがあります。

高度な進行胃癌となると、体重減少、食思不振、貧血、腹部腫瘤触知、嚥下困難などの所見を認めることがあります。

検査としては、内視鏡検査、X線検査が診断に重要です。内視鏡検査は多くの施設でスクリーニング検査として行われています。X線検査は、その後に病変の拡がりを客観的に捉えるための精密検査として行われていることが多いようです。

内視鏡検査では、進行胃癌の内視鏡診断は比較的容易で、早期胃癌では隆起型、平坦型では色調の変化、粘膜表面の不整凸凹などがみられます。最も多い陥凹型では、色調の変化、粘膜ひだの不整集中が認められます。凹凸をより明確にするために,インジゴカルミンなどの色素散布法が行われることもあります。

確定診断には内視鏡下における胃生検組織診が必要となります。胃生検診断は胃生検組織診断分類(Group分類)に基づいて5群に分類されます。胃生検の正診率は一般に早期癌で高く、進行癌でやや低いといわれています(進行癌の表面に壊死物質がみられ、病理学的診断に耐える組織標本が採取されないことがあるため)。生検結果が癌陰性であっても、内視鏡検査で癌が疑われる場合には繰り返し生検を行う必要があります。

X線検査(バリウムを飲んで撮るレントゲン検査)では、隆起型病変(0I型、0IIa型、1型など)では陰影欠損像や透亮像を示します。病変により造影剤が押しのけられて抜けたところを側面像としてとらえられたのが陰影欠損像であり、正面からとらえたものが透亮像です。

病変が大きいときには充盈像でもとらえられますが、小さくなるに従い圧迫法が描出に有用となります。表面が凹凸不整なために大小のバリウム斑を伴います。また隆起の立ち上がり部分には不規則な凹凸がみられます。早期のものでは表面の凹凸が顆粒状・結節状を呈します。進行するにつれて腫瘤表面に付着した白苔や出血によりバリウムののりが不良になります。

治療としては、以下のようなものがあります。
胃癌の治療方針は、「胃癌治療ガイドライン」などにより、腫瘍の大きさ・部位・拡がり、病期、全身状態、あるいは患者の希望など様々な要素を勘案し決定されます。

深達度がM(粘膜内)で、N0(リンパ節転移なし)、分化型、2cm以下、潰瘍形成なしであれば、内視鏡的粘膜切除術を行います。StageIIもしくはIIIAなら、2群リンパ節郭清を伴う胃切除術(これが標準的な手術法であり、定型手術と呼ばれます)を行います。StageIV(遠隔転移を伴う)なら、姑息的手術を行ったり、化学療法などを行います。

胃の切除は、部位によって胃全摘術、幽門側胃切除術(十二指腸側2/3程度の胃切除)、噴門側胃切除術(食道側1/2程度の胃切除)などに分けられます。縮小手術では、胃の2/3未満の切除で、大網温存、幽門保存胃切除、迷走神経温存術などが行われることもあります。胃の2/3以上の切除とD2リンパ節郭清が行われるものを定型手術といいます。また、定型手術に他臓器合併切除が行われるものを拡大手術(胃の周辺臓器に直接浸潤する例や高度のリンパ節転移を認める例が適応)といいます。

胃の切除が終わったら、食物の通り道をつなぐために消化管再建が行われます。様々な再建法があり、個々の患者の状態に応じて選択されますが、代表的なものはBillroth I法(胃-十二指腸吻合)、Billroth II法(胃-空腸吻合)、Roux en Y法(食道or胃-空腸吻合)、空腸間置法(空腸で置換)などがあります。

現在では外科切除に加えて、内視鏡的治療や腹腔鏡下手術が行われるようになっています(低侵襲の治療法が行われるようになった)。内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)は、リンパ節転移の可能性がほとんどないとされる2cm以下の粘膜癌で、組織型は分化型(pap、tub1、tub2),肉眼型は問わないが陥凹型では癌巣内に潰瘍を有しないと診断される例(リンパ節転移の可能性がほとんどない例)に対して用いられます。

一方、遠隔転移がみられたり、他臓器への浸潤が強く切除不能の例に対しては化学療法が行われていますが、まだ有効性は低い状態です。

胃切除後は、その合併症として問題が生じる可能性があります。正常な胃の機能が損なわれることにより生じるさまざまな症状を総称して「胃切除後症候群」といいます。主として機能性障害によるものと、器質性障害によるものに大別されます。

機能性障害によるものとしては、消化吸収障害、貧血、ダンピング症候群、低血糖症候群、骨代謝障害、下痢などがあります。器質性障害には、逆流性食道炎、輸入脚症候群、胆石症などが挙げられます。

こうした症状としては、胃の切除範囲、再建術式、迷走神経切離の有無などにより左右されます。胃の貯蔵能、粉砕能、排泄能などの胃運動が障害されるために生じる病態として、逆流性食道炎(膵液や胆汁の逆流による)、ダンピング症候群(食物が短時間に大量に小腸に流入することによる)などがあります。

ダンピング症候群としては、胃切除術後の患者の食後に起こる種々の腹部症状と全身症状が起こります。食後30分以内の早期と2、3時間後の晩期があります。

血管運動性症状として食後 5〜30分に生じる冷汗、動悸、顔面紅潮、頭痛、めまいなど(小腸内に多量に流入した高張な食物による直接・間接的に血管作動性物質が分泌されることによる)があります。また、消化器症状として食後30〜60分に生じる悪心・嘔吐、腹痛、腹部膨満感、下痢など(同様な機序により消化管運動に影響する物質が分泌されることによる)があります。後期では食後 2〜3時間後に生じる低血糖症状(大量の糖分が急速に吸収されたリバウンド反応としてインスリンの過剰分泌による)が起こります。

胃の分泌する塩酸、ペプシノゲン、ビタミンB12の吸収に必要な内因子などの胃液分泌障害により生じる病態では、貧血(鉄欠乏性貧血およびビタミンB12欠乏性貧血)、消化吸収障害(3大栄養素、ビタミン、ミネラルなど)、骨障害(ビタミンD、Ca吸収障害による)などが起こります。

現在は、検診を受ける機会は結構あるのではないでしょうか。是非ともその機会に、検査を受けられることをお勧めいたします。

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