日本人の死亡者数が多い三大疾患は(1)ガン、(2)心疾患、(3)脳血管疾患。死亡者数は年間約30万人、約15万人、約13万人だが、年間の患者数となると同じ順序ではない。脳血管疾患が第1位となり、約150万人で、次いでガンが約130万人である。
脳血管疾患は、わかりやすくいうと脳卒中のことだ。脳卒中は「脳梗塞」「脳内出血」「クモ膜下出血」の3つに分けられる。この中で最も患者数の多いのが脳梗塞で、食生活が豊かになるにつれて増加し、逆に脳内出血は減少している。
ほとんど変化はないが、多少増えているのがクモ膜下出血だ。患者数は年間約15万人で、全脳卒中の10%を占めている。脳卒中の中で最も死亡率が高かったが、今日では死亡率が30%にまで低下してきた。治療法が進んできたからである。そのため、クモ膜下出血といえども、適切な対応、適切な治療で助かるようになってきた。
クモ膜下出血は脳の血管でも比較的太い動脈にできたこぶ、いわゆる「脳動脈瘤」が破裂することで起こる。サインは何時何分に起き始めたと特定できるほどの激しい頭痛である。「ハンマーで後頭部を叩かれたような激痛」と表現されることも多い。
クモ膜下出血、あるいは脳動脈瘤の時点で行う治療の中心は「クリッピング法」と呼ばれるものだ。これは開頭してこぶの根元をチタン製のクリップではさんでしまう方法である。当然、クリップは頭の中に残したままとなるが、身体に悪影響をもたらすことはない。
日本ではクリッピング法が85%行われており、残り15%の治療法が「コイル塞栓術」となっている。コイル塞栓術では、太ももの付け根の動脈から細い管のカテーテルを入れて、破裂、もしくは大きくふくらんだこぶに通し、カテーテルから白金製のコイルを出してこぶに詰める。コイルは形状記憶なので、こぶの中で自動的に丸くなる。そこに血液が入ると凝固し、壁のようになるので血流の影響は受けなくなるという仕組みだ。
コイル塞栓術は開頭を必要としないので、患者の身体にとってはよりやさしい治療法である。そのため、米国ではコイル塞栓術が30%を占めるようになっており、ヨーロッパにおいては60%をも占めている。日本でも今後、コイル塞栓術が中心治療になっていくと思われる。
また最近では、クモ膜下出血自体を減らすために、脳ドックの利用が勧められている。破裂する前に脳動脈瘤を発見すれば、生死の境で苦しむことはない。その場合でも、専門医と十分に話し合って納得して治療法を選ぶようにする。納得がいかないときには、他の専門医の意見を求める「セカンド・オピニオン」を忘れてはならない。
(クモ膜下出血)
脳と脊髄を覆う3層の膜を髄膜といい、脳・脊髄の表面に密着した軟膜、その外側にあるくも膜、最外側にある硬膜からなります。この髄膜のうち、くも膜と軟膜との間に存在するやや広い空間のことをくも膜下腔といいます。くも膜下出血とは、くも膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。
原因のほとんどは脳動脈瘤の破裂で、まれに血管奇形やもやもや病、出血傾向など脳動脈瘤以外の原因もあります。人口10万人に対して、10〜20人程度が発症するといわれています。
発症年齢としては、脳動脈瘤の破綻によるものは40〜60歳の間に多く、脳動静脈奇形によるものは20〜40歳の間に多いといわれています。多くは脳動脈瘤の破裂(約70%)によるもので、約5〜10%が脳動静脈奇形によるものであるといわれています。
最近では、脳ドックを受けられる方も多くなり、未破裂脳動脈瘤の発見頻度が増加して、約2%の発見率(未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられている)といわれています。そうした場合、破裂してくも膜下出血を起こす前に手術を行うことができます。
くも膜下出血は、特徴的な症状である「(バットで殴られたような)突然起こる激しい頭痛」で起こる、といったことでも有名です。さらに悪心・嘔吐を伴い、頭痛は持続性です。約半数が意識障害を起こすといわれています(一過性のことが多いようですが)。約20%が初発で亡くなってしまいます。重症なものでは5分以内に急死することもあります。上記のように、いつもとは感じの異なる頭痛(突然の激しい頭痛)や、持続性の頭痛があった場合、やはり受診されることが望ましいと思われます。
出血が激しければ意識障害を伴い、昏睡や呼吸停止となり即死する場合もあります。意識障害は約半数近くにみられますが、多くは一過性で、数分ないし1時間以内で回復します。しかし錯乱や健忘が1〜2日持続することもあります。発症時は昏睡でも、救急車の中であるいは入院後に意識が清明となることもあり、刻々と症状は変化したりします。軽微な出血では軽い頭痛のために歩いて受診することもあり、感冒や緊張型頭痛、片頭痛などと診断されてしまうこともあります。
診断や治療としては、以下のようなものがあります。
脳血管疾患は、わかりやすくいうと脳卒中のことだ。脳卒中は「脳梗塞」「脳内出血」「クモ膜下出血」の3つに分けられる。この中で最も患者数の多いのが脳梗塞で、食生活が豊かになるにつれて増加し、逆に脳内出血は減少している。
ほとんど変化はないが、多少増えているのがクモ膜下出血だ。患者数は年間約15万人で、全脳卒中の10%を占めている。脳卒中の中で最も死亡率が高かったが、今日では死亡率が30%にまで低下してきた。治療法が進んできたからである。そのため、クモ膜下出血といえども、適切な対応、適切な治療で助かるようになってきた。
クモ膜下出血は脳の血管でも比較的太い動脈にできたこぶ、いわゆる「脳動脈瘤」が破裂することで起こる。サインは何時何分に起き始めたと特定できるほどの激しい頭痛である。「ハンマーで後頭部を叩かれたような激痛」と表現されることも多い。
クモ膜下出血、あるいは脳動脈瘤の時点で行う治療の中心は「クリッピング法」と呼ばれるものだ。これは開頭してこぶの根元をチタン製のクリップではさんでしまう方法である。当然、クリップは頭の中に残したままとなるが、身体に悪影響をもたらすことはない。
日本ではクリッピング法が85%行われており、残り15%の治療法が「コイル塞栓術」となっている。コイル塞栓術では、太ももの付け根の動脈から細い管のカテーテルを入れて、破裂、もしくは大きくふくらんだこぶに通し、カテーテルから白金製のコイルを出してこぶに詰める。コイルは形状記憶なので、こぶの中で自動的に丸くなる。そこに血液が入ると凝固し、壁のようになるので血流の影響は受けなくなるという仕組みだ。
コイル塞栓術は開頭を必要としないので、患者の身体にとってはよりやさしい治療法である。そのため、米国ではコイル塞栓術が30%を占めるようになっており、ヨーロッパにおいては60%をも占めている。日本でも今後、コイル塞栓術が中心治療になっていくと思われる。
また最近では、クモ膜下出血自体を減らすために、脳ドックの利用が勧められている。破裂する前に脳動脈瘤を発見すれば、生死の境で苦しむことはない。その場合でも、専門医と十分に話し合って納得して治療法を選ぶようにする。納得がいかないときには、他の専門医の意見を求める「セカンド・オピニオン」を忘れてはならない。
(クモ膜下出血)
脳と脊髄を覆う3層の膜を髄膜といい、脳・脊髄の表面に密着した軟膜、その外側にあるくも膜、最外側にある硬膜からなります。この髄膜のうち、くも膜と軟膜との間に存在するやや広い空間のことをくも膜下腔といいます。くも膜下出血とは、くも膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。
原因のほとんどは脳動脈瘤の破裂で、まれに血管奇形やもやもや病、出血傾向など脳動脈瘤以外の原因もあります。人口10万人に対して、10〜20人程度が発症するといわれています。
発症年齢としては、脳動脈瘤の破綻によるものは40〜60歳の間に多く、脳動静脈奇形によるものは20〜40歳の間に多いといわれています。多くは脳動脈瘤の破裂(約70%)によるもので、約5〜10%が脳動静脈奇形によるものであるといわれています。
最近では、脳ドックを受けられる方も多くなり、未破裂脳動脈瘤の発見頻度が増加して、約2%の発見率(未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられている)といわれています。そうした場合、破裂してくも膜下出血を起こす前に手術を行うことができます。
くも膜下出血は、特徴的な症状である「(バットで殴られたような)突然起こる激しい頭痛」で起こる、といったことでも有名です。さらに悪心・嘔吐を伴い、頭痛は持続性です。約半数が意識障害を起こすといわれています(一過性のことが多いようですが)。約20%が初発で亡くなってしまいます。重症なものでは5分以内に急死することもあります。上記のように、いつもとは感じの異なる頭痛(突然の激しい頭痛)や、持続性の頭痛があった場合、やはり受診されることが望ましいと思われます。
出血が激しければ意識障害を伴い、昏睡や呼吸停止となり即死する場合もあります。意識障害は約半数近くにみられますが、多くは一過性で、数分ないし1時間以内で回復します。しかし錯乱や健忘が1〜2日持続することもあります。発症時は昏睡でも、救急車の中であるいは入院後に意識が清明となることもあり、刻々と症状は変化したりします。軽微な出血では軽い頭痛のために歩いて受診することもあり、感冒や緊張型頭痛、片頭痛などと診断されてしまうこともあります。
診断や治療としては、以下のようなものがあります。
まず意識レベル、運動麻痺や言語障害などの巣症状の有無を把握する必要があります。髄膜刺激症状として項部硬直は必発ですが、発症直後にはみられないこともあります。発症翌日頃より現れることが多いので、注意を要します。
脳内血腫を伴わない限り、片麻痺などの神経症状には乏しいですが、一側の動眼神経麻痺(瞳孔散大、眼瞼下垂、眼球運動障害)がある場合には、内頸動脈瘤の破裂やその前兆の可能性があります。
診断はくも膜下腔に出血を証明することで、発症当日や2〜3日以内ならCTでくも膜下腔や脳槽に出血の高吸収域を認めます。軽い出血の数日後には、CT上異常を認めない場合もありますが、くも膜下出血は否定できないので腰椎穿刺による髄液検査を行います。頭部CTの後、脳血管造影によるSeldinger法で両側の内頸動脈、椎骨動脈撮影(4vessel study)を行い、破裂脳動脈瘤を発見します。約20%の症例では動脈瘤が2個以上発見されますが、動脈瘤の大きさ、形、CT所見を総合すれば、破裂動脈瘤(責任病巣)の診断はほぼ100%可能となります。
また、キサントクロミー(黄色調)髄液ならSAHであったことを示唆します。血性(赤色)の時は腰椎穿刺による血管損傷と区別するため、遠心分離してキサントクロミーの有無を調べます。疑わしければ、脳動脈瘤を直接証明できるMRAや3D-CTAなどの非侵襲的検査を行います。
クモ膜下出血の治療法としては、手術療法が第一選択となり、Hunt & Kosnikの分類におけるgrade1、2が最もよい適応で、grade3、4は状態の改善傾向があれば適応となり、grade5は根治手術の適応となりません。
手術は、再出血が起こる前の発症後数時間以内のきわめて早期に行うことが多いです。手術法としては、直接手術法(動脈瘤のクリッピング、コーティング)、間接手術法(血管内手術として動脈瘤のコイル塞栓術)などがあります。
他にも、3H療法とよばれる高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われます。これは、血管攣縮の予防、並びに脳浮腫の状態でも動脈潅流を維持するため、高張輸液の大量投与、時には高カロリー輸液やアルブミンの投与を行います。
急性期では頭痛が強いと血圧が上昇し再破裂の誘引にもなるので、十分な鎮痛と鎮静をはかります。場合によっては完全に麻酔することもあります。セルシンやペンタジン、ロヒプノールなどを用います。
また、くも膜下出血後の高血圧は再出血の誘引になるので、降圧薬の持続的投与が行われます。意識障害を伴い、鎮静する場合も多いので、注射剤が使用しやすいです。ペルジピンやヘルベッサーなどが用いられます。また、脳圧を下げる浸透圧利尿薬の使用は、再破裂の危険もあり通常は控えますが、頭蓋内圧亢進による切迫脳ヘルニアで危険な場合にはグリセオールなどを使用します。
この保存的な治療法は、最重症例で症状が改善するまでの間や手術適応とならない場合にも行われます。再出血の防止、脳循環障害の改善、脳浮腫の改善などを目的に行います。
救命できても後遺症が残る例が多く、完全に治癒する確率が低いと言われているだけに、やはり予防が重要であると考えられます。特に高血圧や家族歴などがある場合は、お気を付けていただければ、と思われます。
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脳内血腫を伴わない限り、片麻痺などの神経症状には乏しいですが、一側の動眼神経麻痺(瞳孔散大、眼瞼下垂、眼球運動障害)がある場合には、内頸動脈瘤の破裂やその前兆の可能性があります。
診断はくも膜下腔に出血を証明することで、発症当日や2〜3日以内ならCTでくも膜下腔や脳槽に出血の高吸収域を認めます。軽い出血の数日後には、CT上異常を認めない場合もありますが、くも膜下出血は否定できないので腰椎穿刺による髄液検査を行います。頭部CTの後、脳血管造影によるSeldinger法で両側の内頸動脈、椎骨動脈撮影(4vessel study)を行い、破裂脳動脈瘤を発見します。約20%の症例では動脈瘤が2個以上発見されますが、動脈瘤の大きさ、形、CT所見を総合すれば、破裂動脈瘤(責任病巣)の診断はほぼ100%可能となります。
また、キサントクロミー(黄色調)髄液ならSAHであったことを示唆します。血性(赤色)の時は腰椎穿刺による血管損傷と区別するため、遠心分離してキサントクロミーの有無を調べます。疑わしければ、脳動脈瘤を直接証明できるMRAや3D-CTAなどの非侵襲的検査を行います。
クモ膜下出血の治療法としては、手術療法が第一選択となり、Hunt & Kosnikの分類におけるgrade1、2が最もよい適応で、grade3、4は状態の改善傾向があれば適応となり、grade5は根治手術の適応となりません。
手術は、再出血が起こる前の発症後数時間以内のきわめて早期に行うことが多いです。手術法としては、直接手術法(動脈瘤のクリッピング、コーティング)、間接手術法(血管内手術として動脈瘤のコイル塞栓術)などがあります。
他にも、3H療法とよばれる高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われます。これは、血管攣縮の予防、並びに脳浮腫の状態でも動脈潅流を維持するため、高張輸液の大量投与、時には高カロリー輸液やアルブミンの投与を行います。
急性期では頭痛が強いと血圧が上昇し再破裂の誘引にもなるので、十分な鎮痛と鎮静をはかります。場合によっては完全に麻酔することもあります。セルシンやペンタジン、ロヒプノールなどを用います。
また、くも膜下出血後の高血圧は再出血の誘引になるので、降圧薬の持続的投与が行われます。意識障害を伴い、鎮静する場合も多いので、注射剤が使用しやすいです。ペルジピンやヘルベッサーなどが用いられます。また、脳圧を下げる浸透圧利尿薬の使用は、再破裂の危険もあり通常は控えますが、頭蓋内圧亢進による切迫脳ヘルニアで危険な場合にはグリセオールなどを使用します。
この保存的な治療法は、最重症例で症状が改善するまでの間や手術適応とならない場合にも行われます。再出血の防止、脳循環障害の改善、脳浮腫の改善などを目的に行います。
救命できても後遺症が残る例が多く、完全に治癒する確率が低いと言われているだけに、やはり予防が重要であると考えられます。特に高血圧や家族歴などがある場合は、お気を付けていただければ、と思われます。
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