読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
しゃべると自分の声がこもります。うつむいたり横になったりすると症状は治まります。耳管開放症と診断され、漢方薬を勧められました。治療法や日常の心がけについて教えてください。(60歳女性)
この相談に対して、金沢市立病院耳鼻咽喉科の石川滋先生は、以下のようにお答えになっています。
「耳管」は、鼻の奥と鼓膜の裏側をつなぐ管状の器官です。ふだんは閉じていますが、鼓膜の内と外の圧力が変化すると、耳管が開いて圧力差をなくします。

耳管開放症は、耳管が開きやすい状態になる病気です。自分の声や呼吸音が聞こえたり、低い音が聞こえにくかったりするほか、めまいや低い耳鳴り、耳の痛みなどの症状が出ます。

耳管が開きやすくなる原因には、急激に体重が減るなどして耳管周囲の脂肪組織が少なくなることや、耳管周囲の血流が悪くなって耳管の粘膜が薄くなることなどが考えられています。

うつむいたり横になったりすると症状が治まるのであれば、耳管周囲の血流不全が原因である可能性が高いと思われます。うつむくなどすると、頭部(耳の周囲)への血流が増し、血流が改善するからです。
耳管とは、鼓室から咽頭に至る長さ30〜40mmの長円錐形の管で、耳管鼓室口から前下方に出て、耳管咽頭口に終わります。

通常、耳管は安全管を除いて閉鎖されていますが、嚥下運動をすると口蓋帆張筋の収縮によって内腔が開き、鼓室内圧と外気圧の平衡が保たれます。また、耳管の粘膜は咽頭鼻部および鼓室の粘膜の続きで、多列または単層の円柱線毛上皮からなっており、その線毛の運動は鼓室から咽頭の方へ向かっています。

耳管開放症とは、耳管が平常状態でも開放している状態を指します。急激な体重減少などで耳管周辺の軟部組織や筋群の萎縮により生じます。耳閉塞感や自声強調などの症状が出現します。

耳閉感は「耳がつまった感じ」であり、同時に「自分の声が響く」自声強聴を訴える場合もあります。耳管開放症においても、自分の声や呼吸音が耳管を通して中耳に伝わるために、同様の症状が認められます。

耳垢栓塞などの外耳疾患、鼓膜穿孔や耳管狭窄症、耳管開放症などの中耳疾患、メニエール病などの内耳疾患、聴神経腫瘍などの後迷路疾患で起こりえます。頻度が多いのは耳管機能障害によるものです。

臥位で症状が軽減し、耳管カテーテル通気音が低圧でも聴取可能で、耳鏡下に鼓膜の呼吸性移動や、ティンパノグラムで深呼吸に同期した変化がみられることなどが診断で有用です。

治療としては、以下のようなものがあります。
血流を改善させるには、横になって足を高くする姿勢をとったり、スカーフやネクタイを苦しくならない程度に少し強めに巻いたりするという方法があります。また、脱水症状になっても血流が悪くなりますので、こまめに水分をとることを心がけてください。

さらに過度の緊張状態も血流不全につながります。規則正しい食事をして十分睡眠をとり、リラックスすることも効果的です。

漢方薬には血流改善、精神安定作用があるものがあります。はりやきゅうなどの理学療法が向いているという方もいます。自分に合った予防法、治療法を選択することをお勧めします。
耳管開放症の治療法としては、体重減少に対しては体重増加をはかったりします。また、耳管咽頭口へのルゴールの噴霧、鼓膜への3Mテープの添付、耳管ピンの挿入などが行われています。

耳鼻咽喉科の医師とご相談の上、自分にあった治療法を選択することが望まれます。

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