中学時代は小学生に「はげ、はげ」とはやし立てられ、同級生には「頭をさわらせろ」とからかわれた。東京・新宿区で針きゅう院を営む男性Cさん(37)には、つらい記憶がいくつもある。
小学校5年の時、円形の脱毛が見つかり、半年で前後左右に増え、世界地図のようになった。「なんとか毛が生えないか」。テレビで中国の育毛剤が話題になり、一人で中国に買いに行ったのは高校1年の時だ。あまり効果はなかった。
正確なデータはないが円形脱毛症は、半数が20歳前に発症するといわれるほど子供に多い。北里大病院(神奈川県相模原市)皮膚科毛髪外来の医師斉藤典充さんは「子供の治療法は限られる。有効な治療手段の一つであるステロイドの内服や注射は、通常は行わない」と話す。
円形脱毛症は、免疫細胞のリンパ球が毛根を攻撃して起こる。ステロイドは免疫の働きを抑える作用を持つが、長く大量に使えば肥満や糖尿病、骨粗しょう症など様々な副作用が出る。大人でも慎重に使う必要がある薬だが、体内での成長ホルモンの合成を妨げるため、特に子供では、成長を抑える恐れも加わる。
Cさんも子供のころから病院に通っていたが、ステロイドは使わず、抗アレルギー剤の服用や紫外線照射療法を受けていた。ただ、効果は不十分だった。会社員になってステロイドの内服治療を受けると、確かに髪は生えた。しかし、量を減らすと抜けた。
「生えたことには感激しました。でも、副作用があるので、続けられません」とCさん。自分自身で円形脱毛症を治す仕事に取り組もうと決意し、針きゅう師になった。
愛知県の中学1年生D君は、2歳で発症し、小学1年生の時には、頭髪がほとんどなくなった。その時、病院からステロイドを処方された。飲むと髪が生えてきたが、副作用で体重が10キロも太り、顔がまん丸になった。やめると毛が抜けるため、服用を続けてきた。今、身長は140センチと低い。
今年6月、母親が患者会のセミナーに参加し、子供のステロイド服用に初めて疑問を持ち、減らしていこうと決心した。だがD君は「背が低くなってもいいから飲みたい」と言う。
日本皮膚科学会は、ステロイドの使用など医師によって治療法にばらつきが大きいため、現在、診療指針の作成を進めている。
(円形脱毛症−ステロイド服用に注意)
脱毛症とは、毛髪が異常に脱落する状態だけでなく、毛は抜けないが毛の質や太さ、色調などが変化し、毛がまばらに見える状態も含まれます。分類としては、先天性か後天性か、誰にでも起こるものか病的なものか、他病の一症状かどうかなどによって分けられます。代表的なものには、円形脱毛症や男性型(壮年性)脱毛症があります。
円形脱毛症は、前駆症状がなく突然に境界明瞭な脱毛斑を生じる疾患です。その数と病変の広がりによって、限局性の円形脱毛巣が生じる単発性ないし多発性通常型、頭髪の生え際が脱毛するophiasis型、頭髪全体が脱毛する全頭型、全身脱毛の汎発型に分類されます。小さな単発の円形脱毛斑のみの軽症例から、脱毛斑が全頭部に拡大し、さらに全身の体毛も脱毛する重症例まであります。
どの年代でも発症しますが、その半数が30歳までに発症し、1/4が15歳以下で発症するとされます。就学前の幼児に発症することもあり、男女間に性差はありません。約20%の家族内発生があり、一卵性双生児では2人とも発症する確率が高いといわれています。本症になりやすく重症化と関連する、HLAタイピングの存在も知られます。
病巣部では、成長期毛球部にCD4陽性T細胞の浸潤や、免疫グロブリンの沈着がみられるため、自己免疫の関与が考えられます。また、甲状腺疾患、尋常性白斑、悪性貧血、糖尿病、Addison病、潰瘍性大腸炎など自己免疫性と考えられる疾患にかなり高率に合併するといわれています。
小児の半数では、アトピー性皮膚炎の合併がみられます。家族内発生は10〜20%にみられ、こうした場合アトピー素因と円形脱毛症の合併も注目されています。特に汎発型では、アトピー性皮膚炎の合併率が高いといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
小学校5年の時、円形の脱毛が見つかり、半年で前後左右に増え、世界地図のようになった。「なんとか毛が生えないか」。テレビで中国の育毛剤が話題になり、一人で中国に買いに行ったのは高校1年の時だ。あまり効果はなかった。
正確なデータはないが円形脱毛症は、半数が20歳前に発症するといわれるほど子供に多い。北里大病院(神奈川県相模原市)皮膚科毛髪外来の医師斉藤典充さんは「子供の治療法は限られる。有効な治療手段の一つであるステロイドの内服や注射は、通常は行わない」と話す。
円形脱毛症は、免疫細胞のリンパ球が毛根を攻撃して起こる。ステロイドは免疫の働きを抑える作用を持つが、長く大量に使えば肥満や糖尿病、骨粗しょう症など様々な副作用が出る。大人でも慎重に使う必要がある薬だが、体内での成長ホルモンの合成を妨げるため、特に子供では、成長を抑える恐れも加わる。
Cさんも子供のころから病院に通っていたが、ステロイドは使わず、抗アレルギー剤の服用や紫外線照射療法を受けていた。ただ、効果は不十分だった。会社員になってステロイドの内服治療を受けると、確かに髪は生えた。しかし、量を減らすと抜けた。
「生えたことには感激しました。でも、副作用があるので、続けられません」とCさん。自分自身で円形脱毛症を治す仕事に取り組もうと決意し、針きゅう師になった。
愛知県の中学1年生D君は、2歳で発症し、小学1年生の時には、頭髪がほとんどなくなった。その時、病院からステロイドを処方された。飲むと髪が生えてきたが、副作用で体重が10キロも太り、顔がまん丸になった。やめると毛が抜けるため、服用を続けてきた。今、身長は140センチと低い。
今年6月、母親が患者会のセミナーに参加し、子供のステロイド服用に初めて疑問を持ち、減らしていこうと決心した。だがD君は「背が低くなってもいいから飲みたい」と言う。
日本皮膚科学会は、ステロイドの使用など医師によって治療法にばらつきが大きいため、現在、診療指針の作成を進めている。
(円形脱毛症−ステロイド服用に注意)
脱毛症とは、毛髪が異常に脱落する状態だけでなく、毛は抜けないが毛の質や太さ、色調などが変化し、毛がまばらに見える状態も含まれます。分類としては、先天性か後天性か、誰にでも起こるものか病的なものか、他病の一症状かどうかなどによって分けられます。代表的なものには、円形脱毛症や男性型(壮年性)脱毛症があります。
円形脱毛症は、前駆症状がなく突然に境界明瞭な脱毛斑を生じる疾患です。その数と病変の広がりによって、限局性の円形脱毛巣が生じる単発性ないし多発性通常型、頭髪の生え際が脱毛するophiasis型、頭髪全体が脱毛する全頭型、全身脱毛の汎発型に分類されます。小さな単発の円形脱毛斑のみの軽症例から、脱毛斑が全頭部に拡大し、さらに全身の体毛も脱毛する重症例まであります。
どの年代でも発症しますが、その半数が30歳までに発症し、1/4が15歳以下で発症するとされます。就学前の幼児に発症することもあり、男女間に性差はありません。約20%の家族内発生があり、一卵性双生児では2人とも発症する確率が高いといわれています。本症になりやすく重症化と関連する、HLAタイピングの存在も知られます。
病巣部では、成長期毛球部にCD4陽性T細胞の浸潤や、免疫グロブリンの沈着がみられるため、自己免疫の関与が考えられます。また、甲状腺疾患、尋常性白斑、悪性貧血、糖尿病、Addison病、潰瘍性大腸炎など自己免疫性と考えられる疾患にかなり高率に合併するといわれています。
小児の半数では、アトピー性皮膚炎の合併がみられます。家族内発生は10〜20%にみられ、こうした場合アトピー素因と円形脱毛症の合併も注目されています。特に汎発型では、アトピー性皮膚炎の合併率が高いといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
円形脱毛症の治療としては、単発性通常型や多発性でも数か所に止まるものは自然治癒することもありますが、全頭型、汎発型では難治であり、治療に抵抗することが多いといわれています。その場合、外用療法はほとんど無効であり、液体窒素療法や局所免疫療法である程度の有効性が得られるといわれています。
外用療法としては、塩化カルプロニウム(フロジン)や 副腎皮質ホルモン剤であるフルオシノニド(シマロン、トプシム)の軟膏やローションが処方されたりします。小範囲例は数ヶ月ほどで自然治癒するので、こうしたステロイド外用などで経過をみることが多いようです。ただし、効果のないまま外用を継続するべきではありません。
広範囲で半年〜1年以上の難治例には、局所免疫療法を開始します。これは、SADBE(squaric acid dibutyl ester)もしくはDPCP(diphenylcyclopropenone)を試薬として購入し、院内製剤として用います(保険適用外)。
方法としては、まず脱毛部において1%濃度で感作させます。1〜2週間後に濃度別に0.00001%、0.0001%、0.001%の3種類でパッチテストを行い、紅斑反応の起こった濃度の1つ薄いもの、または0.00001%の濃度のものから1〜2週間ごとに脱毛部に外用します。少しでも紅斑反応が生じている場合、あるいは紅斑がなくても発毛がある場合では、その濃度の外用を継続します。紅斑反応、発毛がなくなれば、少しずつ濃度を上げていきます。
内服療法としては、セファランチンや、グリチロンなどの内服を行います。また、全頭型など難治例では、ステロイドホルモン薬の内服である程度の効果が得られるといわれています。ただ、上記のようにステロイド内服には副作用(上記のようにムーンフェイスや、免疫抑制作用、小児であれば成長抑制など)があります。急速進行例やほかの治療法が無効な症例を対象とし、長期の内服による副作用に注意しなければなりません。
ただ、外見に関係する疾患であり、当人は非常に気になる問題であると考えられます。副作用との兼ね合いもあり、皮膚科医などの専門の医師と相談の上、適切な治療を受けられることが望まれます。
【関連記事】
生活の中の医学
脱毛症の診断や治療について−女性にも起こりうる脱毛症
外用療法としては、塩化カルプロニウム(フロジン)や 副腎皮質ホルモン剤であるフルオシノニド(シマロン、トプシム)の軟膏やローションが処方されたりします。小範囲例は数ヶ月ほどで自然治癒するので、こうしたステロイド外用などで経過をみることが多いようです。ただし、効果のないまま外用を継続するべきではありません。
広範囲で半年〜1年以上の難治例には、局所免疫療法を開始します。これは、SADBE(squaric acid dibutyl ester)もしくはDPCP(diphenylcyclopropenone)を試薬として購入し、院内製剤として用います(保険適用外)。
方法としては、まず脱毛部において1%濃度で感作させます。1〜2週間後に濃度別に0.00001%、0.0001%、0.001%の3種類でパッチテストを行い、紅斑反応の起こった濃度の1つ薄いもの、または0.00001%の濃度のものから1〜2週間ごとに脱毛部に外用します。少しでも紅斑反応が生じている場合、あるいは紅斑がなくても発毛がある場合では、その濃度の外用を継続します。紅斑反応、発毛がなくなれば、少しずつ濃度を上げていきます。
内服療法としては、セファランチンや、グリチロンなどの内服を行います。また、全頭型など難治例では、ステロイドホルモン薬の内服である程度の効果が得られるといわれています。ただ、上記のようにステロイド内服には副作用(上記のようにムーンフェイスや、免疫抑制作用、小児であれば成長抑制など)があります。急速進行例やほかの治療法が無効な症例を対象とし、長期の内服による副作用に注意しなければなりません。
ただ、外見に関係する疾患であり、当人は非常に気になる問題であると考えられます。副作用との兼ね合いもあり、皮膚科医などの専門の医師と相談の上、適切な治療を受けられることが望まれます。
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