読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
中学3年の娘の相談です。半年前に「胸郭出口症候群」と診断されました。痛み止めの薬を処方されていますが、右肩辺りに痛みが続いています。対処法はありますか。(40歳母)
この相談に対して、藤田保健衛生大病院整形外科准教授の鈴木克侍先生は、以下のようにお答えになっています。
鎖骨と一番上の肋骨の間のすきまを「胸郭出口」と言います。

「胸郭出口症候群」は、この部分を通って腕や手指につながる「腕神経叢」という神経の束や、鎖骨の下を通っている動脈や静脈が、鎖骨や肋骨とその周辺の筋肉に圧迫される病気です。20歳代で首が長く、なで肩の女性に多く見られます。

最初は、腕や手指のしびれやだるさ、脱力感などの症状が出ます。徐々に首や肩、肩甲骨の辺りにうずくような痛みが出てきます。

神経が圧迫されるとしびれや痛みが出ます。また、動脈が圧迫されると手指の色が白くなります。静脈の場合は、手指の色が青紫色になります。

痛みやしびれを生じさせないためには日頃から、電車のつり革につかまる時のように、肩をあげて上体を後ろにそらすなど、症状を悪化させるような動作は避けてください。
腕神経叢、鎖骨下動静脈よりなる神経血管束は、斜角筋三角より現れ、次いで鎖骨・第一肋骨で作られる肋鎖間隙を下降し、烏口突起に接しながら小胸筋の下を通って上腕に至ります。

このような解剖学的特殊性に加えて、先天奇形、筋の異常緊張、特別な労作状況などによって、神経血管束が圧迫・牽引され、疼痛を主体とした症状が肩甲肢帯、頚部、上肢、背部に生じる病態を胸郭出口症候群と呼びます。

分類としては、血管原性胸郭出口症候群および神経原性胸郭出口症候群があります。血管原性胸郭出口症候群は、日本では稀であると言われています。動脈性のものと静脈性のものとに細分されます。動脈性では半数の症例に頚肋を認め、症状の本態が血栓や塞栓であることが多いです。静脈性のものの多くは、過度の運動負荷後に筋肉質の若年男子に発症します。

神経原性胸郭出口症候群は、圧迫型と牽引型とに細分されます。圧迫型は筋肉質の男性で怒り肩に多く、上肢の挙上により症状の再現と増悪を認めます。一方、牽引型はなで肩の女性に多いです。

症状としては、上肢の疼痛、しびれ感、疲労感、肩甲帯の疼痛、肩こりあるいは上肢のチアノーゼ、冷感などの神経・血管症状などがあります。頭痛,眩暈などの自律神経障害を見ることもあります。

誘発検査法としては、
1)Adsonテスト:頚を背屈させ患側へ回旋、深呼吸を行わせると患側の橈骨動脈が触れなくなる。
2)Wrightテスト:両側の橈骨動脈を触知しつつ、両上肢を外転・外旋させると患側の脈拍が減弱する。
3)Roosテスト:両上肢を外転・外旋させた状態で、手指の屈曲・伸展を3分間行わせる。3分間続けて行えなかったり、行えても症状が再現された場合を陽性とする。
4)Morleyテスト:鎖骨上窩の斜角筋上部を検者が圧迫すると、局所の疼痛と上肢への放散痛を訴える。
5)頚椎回旋側屈テスト:頚部を患側に回旋させてから屈曲させて、患側の耳を胸にできるだけ近づけさせる。左右差があれば陽性と判定する。
こうしたものがあります。

補助的診断として、最近はMRI angiographyやreconstruction CTなども血管の圧迫状態を診るのに有用であるといわれています。X線検査では、第7頚椎横突起が異常に長くなった頚肋など、頚椎・肋骨の異常の有無を確認できます。とくに牽引型の神経原性胸郭出口症候群では、なで肩のために頚椎側面像で第2〜3胸椎が明瞭に確認できます。

必要な対処としては、以下のようなものがあります。
胸を張って良い姿勢を保って腕で壁を押すなどし、鎖骨や肩甲骨が下がらないようにする体操を1日十数回、1分程度行うと効果があります。装具をつけて良い姿勢を保つという方法もあります。また、鎮痛薬、ビタミンB剤、血流改善薬などを服用すると、症状が改善する場合があります。

これらを半年間行っても症状が改善せず、日常生活に支障が出るようならば、手術の必要があります。手術は症状により、肋骨や周辺の筋肉の一部などを切除するものです。一度、この病気に詳しい整形外科医に相談すると良いでしょう。
治療としては、まず症状を誘発する肢位をとらないなどの生活指導を行い、肩甲帯の筋力増強訓練と温熱療法を併用して行います。肩甲帯装具も姿勢矯正効果があり有効であるといわれています。

薬物治療としては、対処療法として消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、ビタミン剤、抗不安薬などを処方します。ほかにも、腕神経叢ブロックが行われ、斜角筋ブロックが奏効することがあります。

保存療法に反応しなかった症例で、疼痛が強く、神経欠落症状があれば手術適応となります。頚肋が原因であれば、その切除を行います。第1肋骨切除術には経腋窩進入路が一般的であるといわれています。

整形外科の先生と相談し、まずは日常生活のなかで気を付けられることや対処療法を行うことなどについてアドバイスをもらうことが必要となると考えられます。その後、症状に改善が見られなかった場合、手術治療を考えられてはいかがでしょうか。

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