大阪大病院(大阪府吹田市)で行われた国内初の心肺同時移植で、手術は17日午後11時50分に無事終了、患者の容体も安定しているという。院内で会見した心臓血管外科の澤芳樹教授は「手術は成功。初めての移植としてはスムーズにいった」と安堵の表情を浮かべた。

阪大によると、心肺の提供を受けた30代の男性患者は、生まれた直後から肺や心臓に重篤な疾患を抱え、5歳でアイゼンメンジャー症候群と診断された。約6年前から喀血がひどくなり、命にかかわるような場面もあった。

男性は手術前、医師団に「頑張って手術を受けます」と話していたといい、澤教授は「男性は約6年という長期間待機していた。手術に対し非常に強い意気込みを感じた」と振り返った。

男性の家族は「ドナーの方やご家族に感謝します」と話していたという。
(心肺同時移植 手術成功、患者の容体安定)


Eisenmenger(アイゼンメンゲル)症候群とは、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症などで、肺高血圧と高度の肺血管閉塞病変が合併し、右-左短絡(血液が欠損孔を通して右房や右室から、左房や左室へと流れること)を生じた場合を指します。

たとえば、心房中隔欠損症を例にとってみます。心房中隔欠損症とは、心房中隔に欠損孔があり、左房と右房の間に交通がある先天性心疾患を指します。左房側の方が圧力が高いため、左房→右房へと血液が流れていきます。

肺静脈から左房へ戻った血液の大半は、欠損孔から右房に短絡し(左-右シャント)、左房と右房の圧は等しくなります。左室から全身に送られる血液量は正常に保たれますが、右房→右室→肺動脈へと流れる血流量は正常の2倍ないし4倍に達します。そのため、右房、右室、肺動脈は拡大します。

右心系への血流量が増えるため、肺高血圧症が進行していきます。肺高血圧症が進行すると、右−左シャントとなります。そうなると全身を巡ってきた血液が再び全身に送られることになり、チアノーゼをきたすようになります。この状態が、Eisenmenger(アイゼンメンゲル)症候群です。

肺血管抵抗は体血管抵抗より高く、心室中隔欠損を通して右-左短絡が生じます(通常少量の左-右短絡もある)。全身を巡ってきた酸素化されていない血液が左房側へと流れ込むため、大動脈の酸素飽和度は低下し、代償性の赤血球増多症が生じ、チアノーゼが認められることになります。

心房中隔欠損症のEisenmenger症候群の年齢分布は、20歳より60歳に及びますが、40歳前後に多いです。心室中隔欠損では、20歳より50歳まで均等に分布します。

Eisenmenger症候群の大部分は小児期に無症状であり、成人に達して後も死亡の5年前まではわずかな労作時の呼吸困難、動悸程度の症状をもつだけです。このように、一般に軽く、60%のケースでは労作時の呼吸困難と動悸のみで、ほぼ正常の日常生活をしています。20〜30%のケースでは、労作時の左前胸部痛や頭痛、失神発作、喀血、浮腫などを生じます。ただ、中には乳幼児期に心不全や頻回の呼吸器感染の既往を持つ症例もあります。

治療としては、以下のようなものがあります。
心房中隔欠損症や、心室中隔欠損症など、欠損孔を手術で閉鎖すると肺高血圧のために手術台上で死亡したり、手術後数年で死亡したりするので、手術は禁忌となっています。

循環動態に対する治療としては、慢性安定期は在宅酸素療法と内服薬が中心となります。在宅酸素(経鼻カニューラにて1〜4L/min)は、動脈血酸素化の改善とともに肺血管拡張や赤血球増多を遅らせる効果があるといわれています。

内服薬としては、肺血管拡張薬(ベラプロスト 0.5〜2μg/kg/日)を少量から開始し漸増していきます。また、抗心不全薬(ジギタリス 0.01mg/kg/日、ACE阻害薬 エナラプリル 0.1〜0.2mg/kg/日)、利尿薬(フロセミド 1〜2mg/kg/日など)が基本となります。

肺血管拡張薬として最近、シルデナフィル(いわゆるバイアグラ。保険適用外)、ボセンタン(トラクリア)が注目されています。

心不全増悪期には、持続酸素投与、ドブタミン(2〜5μg/kg/分)やPDE阻害薬(ミルリノン、オルプリノンなど)の持続点滴を行います。NO吸入(5〜20ppm)やプロスタサイクリン(フローラン)持続点滴(2ng/kg/分から開始)も考慮します。

適切な運動制限や気道感染予防も重要であり、高地の旅行や航空機搭乗は避けるか、酸素の携帯が勧められ、妊娠出産は基本的に禁忌となります。

外科治療(肺・心肺移植)は、根治手術の適応がなく、移植の禁忌事項がない症例で適応を考慮することがあります。修復可能な心奇形に対しては、心内修復術と肺移植の同時手術が、修復困難な心奇形や心機能不全合併例では心肺移植の適応が検討されます。

今回は、30代の男性患者が手術を受けたそうです。術後の経過も順調とのことで、非常に喜ばしいことであると思われます。今後も、こうした動きが続いてくれれば、と期待されます。

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