読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
脳にできるプロラクチン産生下垂体腫瘍で薬を服用していますが、なかなか正常値に戻りません。成長ホルモンも正常の2倍余で、先端巨大症の併発も不安。腫瘍を摘出すべきでしょうか。(35歳女性)
この相談に対して、虎の門病院間脳下垂体外科部長の山田正三先生は以下のようにお答えになっています。
プロラクチン産生下垂体腫瘍は「プロラクチノーマ」とも呼ばれ、最も頻度の高い下垂体腫瘍です。女性に多く、無月経や、授乳期以外に乳汁が出る乳汁漏出の原因となります。

治療の目的は、下垂体から分泌され、乳汁が出るのを促進するホルモン・プロラクチンを正常値に戻すことですが、下垂体の周囲にある視神経が腫瘍で圧迫されて視野が狭くなるなどの症状がある場合には、腫瘍自体を小さくする必要があります。まずは投薬治療を行い、手術は薬が効かない場合に限られます。
プロラクチノーマ(プロラクチン産生下垂体腺腫)とは、プロラクチンを産生する下垂体腺腫を指します。20〜50歳代の若い女性に多く、月経異常、乳汁漏出、不妊を訴えます。男性では、性欲低下のほか視野・視力障害、腫瘍による圧迫症状などを起こします。

プロラクチノーマの8〜9割は無月経ですが、血漿プロラクチン上昇が軽度な例では、正常月経や不順月経もみられます。男性では、性欲低下から診断されるよりも、マクロアデノーマのトルコ鞍上伸展による視野欠損、視力障害や頭痛を契機にみつかることが多いようです。

20〜30歳代の女性に多発しますが、多くは微小腺腫(直径1cm以下)です。一方、プロラクチノーマは男性では少ないですが(男女比1:8)、ほとんど全例で大腺腫(直径1cm以上)でみつかります。

そもそも、プロラクチンの生理作用は乳腺および生殖に及ぼす作用が主体で、プロラクチンは乳汁の産生と分泌を促進し、分泌が過剰になると性腺機能は抑制されます。受容体は乳腺、卵巣、肝、睾丸、前立腺などに存在します。

日中の分泌量は低下していますが、就眠直後には上昇します。正常血中レベルは20ng/mL以下となっています。血漿プロラクチン値はおおよそ腫瘍容積に比例して上昇し、100ng/ml、特に200ng/ml以上であればプロラクチノーマである可能性が極めて高いです。

他の下垂体ホルモンとは異なり、プロラクチンの分泌調節は視床下部の分泌抑制因子(ドパミン)の支配が主となっています。そのため、下垂体腺腫など以外にも、ドパミン拮抗作用をもつ薬物の摂取により上昇し、無月経や乳漏の原因となります。

治療としては、一般的には薬物療法(ドパミン作動薬であるブロモクリプチン、テルグリド)が第1選択となります。若年者の非浸潤性微小腺腫では手術も考慮します。上記のケースでは、以下のような治療を考慮すべきであると考えられます。
ご質問者の場合、現在の薬(パーロデルを1日3錠)の量をさらに増やしていくか、「カベルゴリン」という、副作用が少なく、効果のより強いお薬への変更をお勧めします。それでプロラクチンの値が下がらなくても、手術について考えるのは、主治医が「もっと下げるために必要」と判断してからで遅くはありません。

また、成長ホルモンの値から、体の末端部の細胞増殖が促されて手足や鼻、唇、下あごなどが肥大化する「先端巨大症」の併発を心配されているようですが、成長ホルモンは生理的な変動が大きく、正常値より高いからといって過度に心配する必要はありません。

先端巨大症の診断には、特有の身体症状に加え、成長ホルモンの分泌に関係する「IGF-1(ソマトメジンC)」などの検査が必要です。もし併発したら、服薬ではなく、早期に手術して腫瘍を切除することが、まず必要となります。
パーロデルとは、メシル酸ブロモクリプチンであり持続性ドパミン作動薬です。持続的なドパミン受容体作動効果を有し、内分泌系に対しては下垂体前葉からのプロラクチン分泌を特異的に抑制し、末端肥大症患者においては異常に上昇した成長ホルモン分泌を抑制します。

カベルゴリン(カバサール)も、持続性ドパミン作動薬です。麦角アルカロイド誘導体であり、ドパミン受容体を刺激してドパミン様作用を示します。こちらは、1回0.25〜1mgを週1回、1回0.25mgから漸増していきます。

上記のように、先端巨大症の診断としてまた別の検査が必要となります。こうした症状や検査結果などを勘案しながら、内服治療や手術をすべきかどうかなどを判断します。

上記のケースでは、まずは内服治療薬の量や種類を変えてみることが必要であると思われます。

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