胃がん予防のため、胃の粘膜に細菌ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)がいる人は全員、薬で除菌することを勧める――。こんな新指針を日本ヘリコバクター学会が23日、発表した。公的医療保険では除菌治療を受けられる病気が限られているため、同学会は保険適用の拡大を厚生労働省に要望していた。

新指針では、ピロリ菌が胃粘膜にいる状態を「ヘリコバクター・ピロリ感染症」と位置づけ。除菌は胃潰瘍の治療や胃がん予防に役立つなど、「強い科学的根拠があり、強く勧められる」とした。

除菌の効果については、浅香正博・北海道大教授(消化器内科)らが昨年、国内患者を対象とした臨床研究をもとに「除菌すれば胃がんの発生が3分の1になる」と英医学誌で発表。これを受け同学会で指針改定を検討していた。

現在、除菌が保険適用されるのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者。00年に同学会が科学的根拠があるとする指針を公表したのを受け、適用対象になった経緯がある。

日本では約5千万人がピロリ菌の感染者といわれる。除菌には通常、抗菌剤など3種類の薬を1週間のむ。
(「ピロリ菌いれば全員除菌を」学会が新指針)


ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は幼児時に経口感染し、胃に数十年すみ続け、慢性胃炎を起こします。日本では40代以上の7割が感染しているといいます。

日本の全人口の約50%が感染しているのではないかといわれ、年代が高い方が感染率も高いといわれています。そして、胃癌では最も重要な発がん因子であるとされています。

感染によって惹起される最も基本的な胃粘膜の変化は、多核白血球や単核球などの炎症細胞浸潤を主体とする組織学的慢性胃炎であるといわれています。慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず、胃癌やMALTリンパ腫などの発生につながることが報告されています。

診断法には、内視鏡検査を必要とする侵襲的検査法と内視鏡検査を必要としない非侵襲的検査法があります。「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」では、侵襲的検査法として、(1)迅速ウレアーゼ試験rapid urease test(RUT)、(2)鏡検法、(3)培養法が挙げられ、非侵襲的検査法としては、(4)抗体測定、(5)尿素呼気試験urea breath test(UBT)などが挙げられます。

まず、内視鏡を用いる検査では、迅速ウレアーゼ試験は、診断の迅速性に優れています。簡便であり精度は高いですが、一般に治療後の感度には限界があるといわれています。

鏡検法は、H.pyloriの存在診断と病理組織診断をあわせて施行できます。ですが、一方で、病理医の経験により判定結果が異なる可能性もあります。また、他のラセン菌から鑑別するのにも限界があります。抗H.pylori抗体を用いた免疫染色はこの点で特異度が高いですが、不安定であり診断には陽性コントロールが必要となります。

培養法は、特異性に優れ、続けて抗菌薬の感受性試験も施行可能であるという特徴があります。菌株の遺伝子診断も行うことができますが、結果判定までに5日〜1週間を要するというデメリットもあります。さらにk、培養条件や検査者の技術により診断精度が一定しないということも指摘されています。

また、内視鏡を用いない検査では、抗体測定は、検体として血液や尿を用います。小児を対象にした除菌など特殊な場合には、本菌の存在診断法として用いられます。ですが、抗体価の低下に時間がかかるため、除菌判定には適しません。

尿素呼気試験は、非侵襲的で非常に簡便です。感度も特異度も高く、反復して行いうる(息を吹き入れるだけ)という利点もあります。除菌判定法としても信頼性が高いといわれています。

治療については、以下のようなものがあります。
一般的に、病院で行われている除菌治療は、抗生物質2剤と、一過性の胃酸過多による副作用を防止するためのプロトンポンプ阻害薬の併用が標準的です。

国内では、プロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾールまたはオメプラゾールまたはラベプラゾール)+ クラリスロマイシン + アモキシシリンの3剤併用が健康保険の適用となっています(ただし保険適応は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍がある場合)。

ですが、最近ではクラリスロマイシン耐性菌株が増えてきてしまっているそうです。そこで除菌できていなかったら、メトロニダゾールに変えて再除菌するようです。副作用は、軟便や下痢、薬剤性皮疹などであり一般に軽微であるとされています。

除菌判定は治療薬剤の内服終了後6〜8週の時点で行います。少なくとも培養法、鏡検法、尿素呼気試験の3種類の検査法を用い、すべての検査が陰性であれば陰性とし、その症例を除菌成功例とします。さらに診断精度を上げるため、治療中止後6ヶ月、12ヶ月の時点で除菌判定を追加して行うことが望ましいといわれています。

胃潰瘍や胃炎などに悩まされている方は、思い切って検査を受けて、さらに除菌などを行ってはいかがでしょうか。

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