読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
昨年7月から膀胱炎を毎月繰り返しています。発熱はないのですが、尿に糸状の物(長さ5ミリぐらい)が混じって、そのうち濁り、血尿がひどくなって、排尿時はとてもつらいのです。(64歳女性)
この相談に対して、順天堂大病院腎・高血圧内科教授の富野康日己先生は以下のようにお答えになっています。
膀胱炎は、感染以外に原因となる基礎疾患がなく、3、4日間で治る「急性単純性膀胱炎」や、基礎疾患があり、なかなか治らない「慢性複雑性膀胱炎」などに大別されます。

急性単純性は、主に大腸菌感染によって引き起こされますが、抗菌薬で治癒しやすく、若い女性に多いのが特徴です。一方、慢性複雑性では、大腸菌だけでなく、緑膿菌、腸球菌、プロテウス菌といった様々な菌が見つかることが多くなります。膀胱炎を毎月繰り返すご質問者は、慢性複雑性が疑われます。

「尿に糸状の物が混じる」という症状などから、基礎疾患は膀胱内の腫瘍やポリープ、膀胱の一部にくぼみができる「膀胱憩室」、膀胱結石、膀胱を収縮させる神経の異常による排尿障害「神経因性膀胱」などが考えられます。それらによって、尿が停滞したり、膀胱粘膜に傷がついたりして、感染に対する防御機能が低下し、炎症が長引いている可能性があります。
膀胱炎は、臨床経過により急性と慢性、基礎疾患の有無により単純性と複雑性に分類されます。通常、単純性は急性、複雑性は慢性の経過をとることが多いです。

発症頻度としては女性に多く、特に急性単純性膀胱炎はほとんどが女性に発症します(肛門と尿道の距離が男性より近いためと考えられます)。また、20歳代の性的活動期と閉経前後の中高年期にピークを認めます。女性の半数が生涯に1〜2回罹患するとされます。一方、男性では基礎疾患のない膀胱炎はきわめて稀です。

また、幼小児期や老年期に発症する膀胱炎の多くは複雑性であり、それぞれ尿路奇形、神経因性膀胱が主な基礎疾患となります。

臨床症状としては、頻尿、排尿痛、尿混濁が3主徴となっています。下腹部の不快感を伴うことも多いです。肉眼的血尿を呈することも多く、膀胱炎のみでは発熱をきたしません。38℃を超える発熱がある場合は、急性腎盂腎炎への進展として対処します。

単純性膀胱炎の原因菌は、大腸菌(尿路病原性)が約80%(急性単純性膀胱炎の原因菌は大腸菌が大半を占める)、ミラビリス変形菌と肺炎桿菌を加えたグラム陰性桿菌で約90%を占めます。残りはグラム陽性菌であり、夏場の若い女性ではStaphylococcus saprophyticus(腐生ブドウ球菌)の占める割合が高くなります。

一方、複雑性膀胱炎の原因菌はきわめて多彩で、緑膿菌や腸球菌など弱毒菌の頻度が高くなります。

診断としては、以下のように行います。
まずは尿検査で、炎症の原因菌や、尿中に白血球が混入する「膿尿」の有無を確認し、超音波、エックス線、内視鏡の検査などを受けてください。これらにより、服用中の抗菌薬が菌種に合っているか、基礎疾患が何かを診断することが大切です。また、血尿がひどいと、膀胱がんの心配もありますので、内視鏡などの検査が必要です。

基礎疾患を治さないと膀胱炎は良くなりませんので、精密検査を受けられることをお勧めします。
診断は、特徴的な臨床症状に加えて有意な膿尿および細菌尿の存在で、細菌性膀胱と確定することになります。

膿尿は尿沈渣強拡大(10×40倍)毎視野で白血球5個以上の場合を有意とします。細菌尿は、通常は菌数が104cfu/mL以上を有意と考えますが、単純性でグラム陰性菌の場合には10^3cfu/mLでも有意とするようです。

一般細菌培養陰性で、いわゆる無菌性膿尿が持続する場合は、尿路結核を疑います。ほかにも、放射線性膀胱炎、薬剤性膀胱炎、間質性膀胱炎、ウイルス性膀胱炎などの非細菌性膀胱炎のほかに、神経性頻尿を鑑別する必要があります。

基礎疾患としては、膀胱癌、膀胱結石、膀胱憩室、神経因性膀胱のほか、男性では慢性細菌性前立腺炎、尿道狭窄、前立腺肥大症(BPH)、前立腺癌などがあります。女性では尿道憩室なども原因となりやすいです。

こうした鑑別を進める上でも、上記のように、精密検査をうけられることが望まれます。超音波検査、静脈性腎盂撮影が尿路通過障害の有無などの基礎疾患の発見に有用となります。再発性の急性腎盂腎炎では、VUR(膀胱尿管逆流症)テストを実施することもあります。

いずれにせよ、詳しい検査の元、効果的な治療が受けられることが望ましいと考えられます。

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