国内に約700万人の患者がいると推計されている「変形性関節症」について、理化学研究所と東海大は1月30日、「エチゼンクラゲなどから採取した新規の『ムチン型糖タンパク質(ムチン)』である『クニウムチン』をヒアルロン酸と併用して関節へ注入することで、変形性関節症の治療に効果があることを動物実験で実証した」と発表した。ヒアルロン酸のみを注入する従来の治療に比べ、「クニウムチン」を併用する手法では、関節の軟骨修復効果が著しく増大しており、理研と同大では「将来、関節液の成分を高度に再現した人工関節液を作ることも可能になる」と話している。成果は、3月4日に開かれる「日本再生医療学会」の総会で発表される。

体内では、細胞が絶えずヒアルロン酸を作り出す一方で、新陳代謝によるヒアルロン酸の分解も進み、1週間で約30%が失われるとされている。加齢や疾病で細胞の生産能力が低下したり、代謝による分解に生産が追い付かなくなったりすると、正常なヒアルロン酸の不足が生じ、関節液のバランスが崩れ、関節としての機能を果たせなくなって変形性関節症が発症する。
 
約2100万人の患者がいる米国では、医療費を含む経済損失が毎年約860億ドルを超えるなど、患者の生活の質(QOL)の低下だけでなく、社会的な損失も大きいため、世界保健機関(WHO)は2000年からの10年を「骨と関節の10年」と名付け、変形性関節症の克服を重点目標に掲げている。

変形性関節症の治療については、関節液に含まれ、粘度を保つ働きがあるヒアルロン酸を注射器で関節に注入して症状を緩和し、病状の回復や関節軟骨の修復を促す方法が取られている。関節液の中には、摩擦を軽減する働きを持つ「ムチン」の存在が近年、明らかになってきていたが、関節内の「ムチン」は存在量が少ない上、動物などから採取できず、大量生産することができなかった。

理研と同大の共同研究グループは、大量生産できる「ムチン」の材料として、大量発生するエチゼンクラゲやミズクラゲから抽出した新たな物質「クニウムチン」に注目し、ウサギを使って動物実験を行った。ウサギを4つのグループに分け、それぞれに人工的に変形性関節症を発症させ、A群には生理食塩水、B群にはヒアルロン酸、C群には「クニウムチン」、D群にはヒアルロン酸と「クニウムチン」を10対1の比率で混ぜた薬剤を注入して経過を観察した。
 
その結果、B群では関節の修復効果が見られ、C群ではほとんど効果がなかった。しかし、D群はB群に比べ、関節の修復がより進んでおり、「クニウムチン」を添加することがヒアルロン酸の効果をより上げることを見いだした。

同グループは「粘度を維持するヒアルロン酸と、摩擦を軽減して潤滑を促進する『ムチン』の2つの重要成分の相乗効果を発見した。厄介者のクラゲの有効利用と患者のQOLの向上につながるほか、『クニウムチン』の応用が広がると、人工関節液を作ることも可能になる」としている。
(クラゲが「変形性関節症」に効果)


変形性関節症とは、関節のクッションである軟骨のすり減りなどが要因となって、膝や股関節など(他にも指節関節、親指の付け根、頸部、脊椎、下背部、足の親指などに生じることがあります)、膝関節などが高い頻度で侵されます)に炎症が起きたり、変形したりして痛みが生じる病気です。

変形性関節症が起こる原因としては、まず肥満が原因としてあげられます。体重が重いと、どうしても負荷が大きくなってしまうわけです。軟骨は加齢とともに減っていくので、年齢も要因となります。

膝関節・股関節に起こると、関節の動きが悪くなり、痛みや歩行障害などが出てしまいます。40代後半から50代に多く、全国でおよそ100万人の患者がいると言われています。

初期症状としては、歩いたり、立ち上がるなどの体重をかける動作も含めて体を動かすと痛みが強くなります。さらに進むと関節が動きにくくなり、ついには脚を伸ばしたり曲げたりができなくなったりします(正座や階段の昇降が苦手になる)。

初期は膝関節の疼痛、特に歩行時や歩行後の疼痛が主症状となりますが、通常は安静により軽快します。また、内側型のものが圧倒的に多いため、疼痛も膝関節の内側部に訴えることが多いです。一方、主病変が膝蓋大腿関節にある場合には、階段の昇降や立ち上がり動作など屈曲位で荷重する際に疼痛を訴えることが多いです。

病期が進むと疼痛も増悪し、炎症症状が強くなると関節水症も出現してきます。さらに進行して骨や軟骨の変形が進むと、内反変形(O脚)、可動域制限などの形態変化も明らかになります。

膝内側部、膝蓋骨部の痛みは、歩行など荷重時・動作開始時が痛く、継続により痛みは軽減します。進行すると歩行困難となり、安静時も痛みます。治療が必要な変形性膝関節症の80%以上は、内反変形により荷重が内側に集中し軟骨磨耗が生じ発症します。

重症度の指標としては、歩行能力(何分ぐらい持続して歩けるかなど)、階段昇降能力(膝蓋大腿関節の症状の参考になる)、歩行時の杖の使用、階段昇降時の手すりの必要性などが挙げられます。

変形性膝関節症の治療としては、以下のようなものがあります。
まず、保存的な治療としては、肥満がある場合は、減量を指示します。大腿四頭筋訓練(仰臥位で膝伸展のまま10〜40度程度下肢を上げ、5秒ほど静止して下ろします。これを30〜50回繰り返す)や股関節外転筋訓練(側臥位で下肢を上げ下げする)が症状を改善させることが証明されています。

内側型関節症では、外側楔状足底挿板(外側が8 mm程度高い靴の中敷)を処方し、下肢荷重軸の移動をはかります。薬物療法としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方します。これは疼痛の軽減だけでなく、関節水症を減少させる効果も期待できます。

関節腔内注射では、ヒアルロン酸ナトリウムやステロイド薬を用い、膝蓋骨の近位で外側から穿刺します。関節水症が強ければ排液の後、薬剤を投与します。

手術療法としては、上記のように関節鏡や骨切り、人工関節置換術などがあります。関節鏡(鏡視下デブリードマン)は、比較的早期の症例や半月症状が主体であるとき考慮します。関節鏡視下に変性半月や骨棘を切除し、関節の洗浄を行います。

高位脛骨骨切り術は、中等度までの内側型関節症が適応となります。脛骨近位部で骨切りを行い、外反膝に矯正します。

人工関節置換術は、障害されている内側または外側の関節のみを置換する単顆型と、高度の関節症に対して行われる全置換型があります。いずれも比較的高齢者に行われ、無痛性、支持性、可動性という関節機能の再建が可能で、歩行能力の改善も大きいとされています(15〜20年の良好な長期成績が報告されています)。

より保存的で効果のある治療が、上記のように研究中とのことです。手術に至る前に、変形性関節症を治療できることも考えられ、期待されます。

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