(前回のつづき)毎日.jpの名医に聞く治療の最前線に、加齢黄斑変性の治療について掲載されていました。回答なさっていたのは、駿河台日本大学病院眼科助教の松本容子先生です。
滲出型加齢黄斑変性はここ10年以上急増が続き、2008年の患者数は52,000人と推定されています。治療は、これまでレーザーによる光凝固が行われていました。レーザーで脈絡膜新生血管を焼いて、それ以上視力が障害されるのを防ぐのです。

しかし、網膜の中や下にある脈絡膜新生血管を焼くと、レーザーが通過する網膜そのものも焼かれてしまいます。「焼いた部分の網膜はダメになるけれど、そのまわりの網膜がこれ以上損傷されるのを防ぐ」治療だったと松本さんは語っています。

一方、レーザーで治療できなかったのが黄斑部の中心でした。ここは「中心窩」といって、黄斑部の中でも視力の中心。レーザーで焼くとガクッと視力が落ちてしまいます。

そのため、「過去には、病気が進行して中央がどんどん見えなくなっていくよりはよいと、病気の進行を止めるためにレーザー治療が行われましたが、現在は中心に脈絡膜新生血管がある場合はレーザー治療はしないで、手術や放射線などのさまざまな治療を試みる」というのが基本的な考え方だと言います。

どんどん視力が低下していくのを確実に止める方法がない、という厳しい状態でした。これを一変させたのが、5年ほど前に登場した光線力学的治療です。
主に治療の対象となり、また高度の視力障害をきたすために問題となるのは「滲出型」の方になります。さらに、滲出型加齢黄斑変性において、新生血管と中心窩の位置関係により治療方針は異なります。

中心窩下に新生血管が存在しない場合では、レーザー光凝固の有効性が証明されています。ところが、中心窩下に新生血管が存在する場合では、自然経過は著しく不良で、多くの症例で視力は低下して、4年で約90%の症例が視力0.1以下になるとされています。

これを変えたとされるのが、光線力学的治療です。これは、以下のようなものを指します。
光線力学的治療は、黄斑部の中心を治療することができる画期的な治療法です。

光に反応して毒性を発揮する薬とレーザーを組み合わせるのが特徴です。まず、肘の静脈に点滴で光に反応する薬を入れます。脈絡膜新生血管にはこの薬が集まりやすい性質があるので、薬が集まった頃に網膜にレーザーを照射します。すると、薬が光に反応して毒性の強い活性酸素を出し、脈絡膜新生血管に血栓(血液の固まり)を作り、閉塞させます。

この治療で使われるレーザーは、脈絡膜新生血管を焼くのが目的ではありませんから、熱を発生しません。したがって、レーザーが通過する網膜を傷つけないので、黄斑部の中心にも使えるのです。

「画期的な治療法です。この治療法が出て、加齢黄斑変性の治療は全く変わったのです」と松本さんは語っています。
光線力学的治療とは、光感受性物質であるベルテポルフィン(ビスダイン)を静注し、15分後に非熱レーザーを照射するという方法の治療です。ベルテポルフィンが活性化され、網膜組織に影響を与えずに新生血管を閉塞する、という原理の治療です。

ただし、光線力学的治療法にも問題点がないわけではありません。
「光凝固は脈絡膜新生血管を焼いてしまえば基本的には治療は終わるのですが、光線力学的治療は薬の化学反応を利用したもの。全員が1回の治療で治るわけではなく、ふつうは3か月に1度ずつ、よくなるまで繰り返す必要がある」と言います。

実際には1回で治療が終わる人は3割ほどで、最初の1年間に平均2回の治療が必要です。多い人では数年のうちに10回以上の治療が必要になる場合もあるそうです。

これで6割の人は視力の低下を止めて維持することができますが、残り4割は「視力が改善する人と悪化する人が半々ぐらい」だと言います。特に、もともと視力がよい人は治療で視力が低下する危険があります。

そのため「0.6以上の人は、経過を観察して視力が低下した時点で治療する」というのが大方の意見です。またレーザーを照射する関係で、脈絡膜新生血管の大きさや部位によっては治療ができない場合もあります。つまり、光線力学的治療は効果がない人や治療ができない人もいることと、視力が良い人にはあまり向かないといった欠点があるのです。

患者にとっては、光感受性物質が体内から排出されるまで、5日間は直射日光や人工の強い光に当たれないというのも、やっかいです。画期的治療であることは確かですが、完璧というわけではないのです。
治療の原理を考えてもらえば分かりますが、光に感受性の物質を静注するわけであり、治療後48時間は光曝露を避ける必要があります。また、再発があった場合は同様の治療を行う必要があります。

光線力学的治療の次に登場したのが、血管新生抑制剤です(続く)。

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