毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
中学生の息子は最近、自分の使うはしやフォークを熱湯で消毒するなど、異常に清潔さを求めます。親の使ったものを「汚い」と言うようにもなりました。学校の部活動や勉強は普通にし、学校から注意を受けたことはありません。手洗い、うがいを励行してきた影響かと悩んでいます。どうしたらいいですか。(40代・女性)
この質問に対して、近畿医療福祉大学教授(精神科)である勝田吉彰先生は、以下のようにお答えなさっています。
はしやフォークの熱湯消毒など、過度の清潔さを求めるとのことですが、程度や広がり、受け止め方により病的といえるかどうか異なってくると思います。

食器類に限らず、文具類や机などの家具についても何度も磨き上げなければ触れない、手にばい菌が付着しているような気がして何度も何度も手を洗い続ける……と拡大してくるようなら「強迫性障害(強迫神経症)」の可能性も検討しなければならないかもしれません。この場合、ご本人はその考え(はしやフォークが汚い)が合理的でないと分かっているのに頭から振り払うことができないというつらい状態にあります。
強迫性障害とは、常同的に繰り返し心に浮かぶ観念や表象である強迫思考、無意味なものと理解しながら繰り返し行わざるをえなくなる強迫行為を反復する状態を指します。

強迫観念とは、不合理と自覚していながら意思に反して反復的・持続的に侵入し、強い不安や苦痛を引き起こす思考やイメージを指します。自分が衝動的な行為をするのではないか、他者に害を与えたのではないかという加害観念や、自分や他人の唾液・排泄物・菌などが不潔に思える不潔恐怖などがあります。

また、これらの強迫観念に付随して起こる行為を強迫行為といい、そのほとんどは強迫観念を取り消したり防止したりする防御的儀式です。たとえば、不潔恐怖に対する洗浄強迫、鍵やガス栓をしめ忘れたのではないかという恐怖に対する確認強迫などがあります。

強迫思考も強迫行為も本人の意に反して出現します。また、苦痛で不快なものであり、不安を生じさせます。患者さんは、その状態から抜け出そうと抵抗しますが、ほとんど成功することがなく、日常生活に支障を来すようになってしまいます。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は専門医を受診し、精神療法(認知行動療法や森田療法など)や薬物療法(SSRIなど抗うつ薬の一部)が有効です。ただ、ご相談のケースでは学校では特に異状が見られないとのことです。先生がどの程度注意深く見てくれているかにもよりますが、本当に何の問題も無いのであれば可能性は低めかと思います。

また、病的とは言えない、思春期に見られる一過性の現象の可能性も大いに考えられます。思春期は、大人へと独立してゆく過程で、親の傘から出るべく、もがき揺れ動いているサインの一つとして「親の使ったものは汚い」等のせりふはよく耳にされます。

したがって、今後温かく見守りつつ、本人の考える「不潔」の範囲が拡大するか否か、本人が「実際には不潔ではないこと」をわかっていながら考えを振り払えず苦しんでいるのか否か、学校での適応状況などを総合的に観察してゆくことをお勧めします。

なお、いずれの場合も「手洗いやうがいの励行」とは無関係です。これから新型インフルエンザ等も控え、手洗い・うがい・咳エチケットは誰もが徹底せねばならない生活習慣です。自信をもってください。
治療としては、薬物療法と認知行動療法が有効といわれています。

薬物療法は、第1選択薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。SSRIが無効の場合、三環系抗うつ薬のクロミプラミンを用います。難治例に対しては,リスペリドン、オランザピン、クエチアピンなどの非定型抗精神病薬(少量−中等量)を、SSRIかクロミプラミンに追加して用いると有効な場合があります。

SSRIは、投与初期に消化器症状(悪心・嘔吐)を起こす可能性があります。しかし、その消化器症状は、制吐薬の併用で改善することが多く、制吐薬を併用しなくても一過性である可能性が高いです。また、SSRIは症状が改善したからといって急に中断すると、中断時出現症候群(めまい、悪心、しびれ、ジリジリ感など)が生じるため、漸減の必要があります。

認知行動療法としては、曝露反応妨害法が有効であるといわれています。曝露反応妨害法は、不安を引き起こす対象に患者を直面させ(フラディング:曝露)、その時に生じる不安を回避するための強迫行為を行わせない(反応妨害)という方法です。

こうした治療が考えられますが、その一方で疾患としてではなく、思春期特有の状態であるということも考えられます。温かく見守る、ということも大事ではないでしょうか。

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