いのちの作文―難病の少女からのメッセージ (ドキュメンタル童話シリーズ)「みなさん、本当の幸せって何だと思いますか」 制服姿の中学2年生の少女が、聴衆に問いかけた。 「それは『今、生きている』ということなんです」

04年7月2日、福岡県大牟田市で開かれた小中学生らの弁論大会。少女は続けた。「生き続けることが、これほど困難で、これほど偉大かと思い知らされました」「家族や友達と当たり前のように、毎日を過ごせるということが、どれほど幸せか」

2ヶ月半後の9月16日、少女は亡くなった。小学6年で骨肉腫を患い、全身に転移していた。弁論大会で読んだ作文「命を見つめて」の1419文字が残った。猿渡瞳さん。13歳だった。

瞳さんを知ったときから思っていた。彼女のメッセージを、苦しんでいる多くの人たちに伝えたい。音楽とともに届ければ、もっと心に響くのではないか――。

1ヶ月後、人づてに連絡をとって母親の直美さん(40)に会えた。「作文の朗読にBGMをつけさせてほしい」。喜んで賛成してくれた。瞳さんが好きだった曲を教えてもらって驚いた。一青窈の「ハナミズキ」。楽譜を手に入れ、練習していた曲だった。

07年春から音楽仲間と一緒に、生演奏をBGMにした作文の朗読会を開く。昨年11月には、仲間の吹奏楽団が朗読を盛り込んだ演奏会を催した。直美さんも客席にいた。

瞳さんの作文は全国コンテストで入賞し、闘病生活はドラマや漫画になった。直美さんは講演に招かれるようになった。そのたび、瞳さんの言葉を無我夢中で伝えてきた。涙を流す余裕はなかった。でも、この日は号泣した。

「今もこんなに多くの人が瞳の思いを伝えてくれている。何て幸せな母親だろう」
隣に座る福島さんは、そっと直美さんにハンカチを渡した。自分も泣いていた。夫が「死にたい」と繰り返したとき、瞳さんの言葉を自分なりに言い換えて伝えてきた。「生きているだけでいいの」

夫は最近、小さな笑みで応えてくれることがある。また瞳さんの言葉を思い出す。
「命さえあれば、必ず前に進んで行けるんです」
(骨肉腫全身に 少女は聴衆に問う「本当の幸せって」)


猿渡瞳さんの作文「命を見つめて」全文を読むと、まざまざと闘病の様子が感じられます。苦しみのまっただ中にありながら、それでも前を向いている、そんな力強さに満ちた文章であると思います。

骨肉腫とは、骨(骨と骨芽細胞層の間に位置する類骨も)をつくる骨発生の肉腫を指します。骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍であり、腫瘍細胞が骨組織を作るという特徴をもっています(腫瘍細胞が、直接類骨あるいは幼若な骨を形成する能力をもっています)。

原発性悪性骨腫瘍の中では、骨肉腫が最も多く、ほかにも多発性骨髄腫、軟骨肉腫、Ewing肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性リンパ腫といったものが頻度として多いです。

全体の頻度は稀であり、人口100万人に1〜2人の割合で発生するとされています。好発年齢は10歳代で、とくに15〜19歳や高年者に好発します。

膝の周り(約半数例は、大腿骨遠位骨幹端に発生します。次は脛骨近位側に好発します)、肩の骨(上腕骨近位側)にできやすいです。他にも、頻度としては少なくなりますが、骨盤や脊椎、下顎などに発生することもあります。

症状としては痛みを感じたり、局所の腫れを伴うことがあります。骨折(病的骨折)で発見されることもあります。

診断としては、まず局所所見で腫脹を見逃さないことが重要となります。さらに単純X線像で悪性所見を見落とさないことが重要となります。この単純X線像の所見も大切で、いわゆる虫食い像や浸潤像を示す溶骨性病変、辺縁不正な骨硬化像などが髄内に認められます。

溶骨性病変(周囲の骨から抜けてみえる)は見落としにくいですが、硬化性病変が見落されることが多いそうです。特に、若年者で硬化性病変があれば、必ず骨肉腫を念頭において診断を進めるべきと考えられています。

他にも、骨皮質の破壊,連続性の消失あるいは骨膜反応などがみられます。単純X線像で、こうした悪性所見を見落とさないことが重要です。

造影MRIで造影され、MRI像では骨外腫瘍像が認められ、血管造影で腫瘍濃染像が認められます。さらに、MRIは生検する部位の想定にも重要であり、さらに化学療法の効果判定、腫瘍広範切除における切除範囲決定にも必須となっています。

確定診断は、生検(針生検または切開生検)を行います。針生検または切開生検を施行し、迅速病理検査や迅速細胞診を行います。

治療としては、以下のようなものがあります。
診断確定の翌日からは、全身化学療法を開始することになります。1970年代には5年生存率は10%台でしたが、最近では80%近くにまで到達しています。これには、強力な術前・術後多剤併用化学療法の普及が大きく影響しているといわれています。

こうした術前化学療法の目的は、診断時にすでに存在している微小転移巣を根絶させること、腫瘍縮小による患肢温存手術成功率や術後機能の向上、さらに抗癌剤の感受性を確認し術後の薬剤を調整する指標とすることなどです。

骨肉腫の化学療法は、
・ADR(アドリアマイシン)
・MTX(メトトレキサート)
・CDDP(シスプラチン)
・IFM(イホスファミド)


の4剤が現在キードラッグとなっており、これらの組み合わせであるNECO-95Jプロトコール(厚生労働省悪性骨腫瘍研究班による多施設共同研究に基づく化学療法レジメン)を行います。
 
まずはADR、MTX、CDDPの3剤で術前化学療法を行い、切除腫瘍の病理学的な化学療法の効果判定で有効であれば、同じ3剤の組み合わせで術後化療を行い、効果不十分であれば3剤にIFMを加えた4剤の治療を行うことになります。

また、原発巣の外科的な切除が必要となります。腫瘍の切除は、基本的に骨では腫瘍の浸潤端より5 cm以上離して、軟部組織では腫瘍周辺組織を厚さを有するバリアとして換算して腫瘍より理論上5 cm以上離して切除します。治癒率は上昇し、さらに術前に腫瘍の縮小化をはかることで患肢温存率も大幅に上昇しているといわれています。

懸命に生きる、という意味を改めて考え直させられるニュースでした。ただ惰性で過ごしてしまうような毎日の中で、こうした生命の力強さに触れられることは、非常に意義あることではないか、と思われます。

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