毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
『保険診療』や『混合診療』、『自由診療』という言葉がメディアから聞こえてきます。私たちが病院にかかる際、これらの診療はどういう影響があるのでしょうか。詳しいことを教えてください。
この質問に対して、消費生活アドバイザーである坂本憲枝さんは、以下のような回答をなさっていました。
日本では、皆保険制度のもと、保険証を持っていけばほとんどの診療所や病院で診察を受けることができます。保険診療をする診療所は保健所に、病院は都道府県知事に保険診療機関であることを届け出ていますので、保険制度にのっとって診療をします。これが『保険診療』です。

これに対し、保険では認められていない治療方法や治療のためではない医療、例えば、健康な出産、美容整形や人間ドックなどは保険制度が利用できず、その医療機関が決める自由な料金を設定することができます。このような診療を『自由診療』といいます。

『保険診療』と『自由診療』を組み合わせて行う診療を『混合診療』といいます。現状では、一部の例外を除いて原則的に混合診療は認められていません。混合診療を認めないのは、お金のある人がよりよい診療を受けられることになり医療に格差が生じ、不公平であること、安全性や有効性が確認されない薬や診療が安易に使われ国民に影響があること、医師に比べ専門的な知識のない患者がどの治療方法が有効であるか判断するのは難しく、不必要な医療を受ける可能性があること、などの理由からです。
保険診療とは、報酬を医療保険に請求する診療行為を指します。知事の指定を受けた保険医療機関において登録された保険医が治療することが条件とされ、診療方針や使用できる医薬品は療養担当規則や薬価基準による規制を受けます。

療養担当規則とは、正式名称を「保険医療機関および保険医療養担当規則」といい、適正な社会保険診療を担保するため、保険医療機関および保険医が従うべき責務を定めた厚生労働省令を指します。保険医については、特殊な投薬・療法の禁止などを定めており、ある一定の枠内での診療をするようにしているわけです。

診療報酬の額は診療報酬点数表によって個々の診療行為ごとに決められます。診療報酬点数表は2年に一度改訂され、中央社会保険医療協議会(中医協)における保険者、診療側そして公益代表らによる答申をもとに厚生労働大臣が告示します。

こうした診療行為における決定がある以上、それに則って医療が行われる必要があります。つまり、画一化されているがゆえに低価格、一定の効果があると考えられる医療を受けられる、と考えられます。そのため、プラスアルファのある治療を求めている場合、自由診療で受ける必要があるわけです。

自由診療においては診療報酬の額と支払方法は、医療機関と患者さんとの契約により任意に決めることができます。そのため、「審美性」のための治療といった、保険診療では認められない診療をある程度受けられるというメリットがあります。ところが、保険がきかないため、受診者の負担が大きくなるデメリットがあります。

また、「自由に価格を決定できる」といった点で問題が起こっていることもあります。美容外科手術にて「安いコースだと、見た目が悪い」などと言われて、無理矢理に高額請求され、消費生活センターなどに苦情が寄せられているといったケースもあります。

保険診療に、保険外診療(自由診療)を併用することは混合診療といいます。日本では保険診療において保険外診療(自由診療)を併用することは原則として、禁止されていますが、実は禁止する明文化された規定は存在しません。

混合診療については、さらに以下のような説明ができます。
保険診療で決められている範囲内の治療で完治すればよいのですが、診療の一部でも保険で認められていない医療行為を受けた場合は、自由診療として全額負担になってしまうことが、混合診療が認められていない現状での問題点です。

重篤な患者にとって保険で決められた治療や薬ではそれ以上の効果が期待できない場合、新しい治療や薬を使いたいのは当然な思いですし、使えば治る可能性のある患者にとっては、是非使いたいと思うことでしょう。しかし、現状では、今まで保険診療で受けた治療費も含め、全額を支払う必要が出てくるのです。この費用負担は患者にとっては大変です。

また、混合診療として特別に認められているのは、先進医療などの評価のための医療や、患者が保険制度の想定を超えたサービスを求め、選択したという解釈から徴収が認められている特別個室料金(差額ベッド料金)、200床以上の病院に紹介状を持たずに受診したときの初診、再診にかかわる費用、制限回数を超えて受けた検査やリハビリ料金などです。

混合診療については、小泉元首相のときに議論がなされましたが、その後、そのままの状態で推移しています。現行制度では、外国では認められている新薬の承認が遅いこと、安全性が確認されるまで時間がかかること、検査などに制限回数があり、全額自己負担でないと受けられないことなど問題点は明確に提示されていますが、皆保険制度の大きな枠組みを根本的に見直さない限り、現行の制度上では混合診療を認めるには難しい問題がいくつもあるようです。
未承認薬や先端医療を公的医療保険の適用対象と認めない理由については、「有効性、安全性で新薬承認をする。薬害が起きてはいけない」とのことで、混合診療を認めない方針としているようです。

たしかに、こうしたものに対しても保険適応を認めてしまった場合、非常に財政を逼迫してしまったり、危険性を伴った治療などを試す人が多く出てしまうことが考えられます。しかしながら、その一方で未承認薬や先端医療を受けたい患者や経済界からは混合診療の解禁を求める声が上がっています。

「先端医療の分だけは自由診療で」となれば、より多くの人がそうした医療を受けることができるかも知れません。そうした意味で、混合診療のメリットはありそうです。しかしながら、保険診療全体の枠組みをも見直さなければならないため、難しい問題となっています。

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