「3度も意識を失った原因が、まさかホルモンのせいとは思いもしませんでした」。東京都内の中学校職員、吉田琢磨さん(61)は、そう振り返る。
2007年12月、自宅で突然倒れ、救急車で近くの病院に運ばれた。しばらく後に意識は戻り、脳卒中などの異常も見られないため、原因は分からないまま、その日のうちに帰宅した。
08年3月、酒を飲んだ翌朝、意識を失った。病院で血液検査をしたところ、血糖値が異常に下がっていた。5日後に退院したが、翌月には再び、同様の症状が起きた。
一度、精密検査を受けたほうが良いと勧められ、東京医科歯科大病院(東京・御茶ノ水)内分泌・代謝内科を受診。血中のホルモンを調べる検査で、脳の下部にある下垂体の機能が低下していることがわかった。
下垂体は、ホルモン分泌の司令塔と呼ばれる器官だ。甲状腺、副腎、性腺などの働きを調節する6種類のホルモンを分泌している。下垂体の機能が低下する患者は7000人以上。男女差はほぼなく、40歳代以降の中高年がほとんどだ。
吉田さんは、腎臓の上にある副腎皮質に対するホルモンだけが分泌されない「ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)単独欠損症」とわかった。血糖値を上げたり、炎症を抑えたりする副腎皮質ホルモンの一つ(コルチゾール)が出ないため、低血糖になり、意識消失を繰り返したのだった。飲酒も発作を引き起こす引き金になったらしい。
吉田さんはかつて65キロ・グラムあった体重が6年間で15キロ・グラムも激減。7年ほど前からは、はしごや駅の階段を上ろうとしても、足が上がらないことがあった。こうした手足の脱力や体重減少もこの病気の特徴だ。
吉田さんはコルチゾールを補う薬を毎日飲み始めたところ、体調は徐々に回復。体重は56キロまで戻り、駅の階段を速足で駆け上がることもできるようになった。
同科教授の平田結喜緒さんは「ACTH単独欠損症は、治療しないでいると低血糖によるショック症状を起こし、命を落とすケースもある。意識障害を繰り返すなどの症状がある場合、ホルモン異常の可能性も疑ってほしい」と話している。
ACTH単独欠損症 主な症状は〈1〉低血糖による意識障害〈2〉手足の脱力〈3〉全身のだるさ〈4〉体重減少〈5〉うつ症状など。詳しい患者数は不明。
(下垂体 機能下がり失神)
下垂体は前葉と後葉とに分けられ、前葉からは成長ホルモン(GH)、性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロラクチン(PRL)が分泌されます。
これら6つの下垂体前葉ホルモンのうち、いずれのホルモンの欠損も、あるいはすべてのホルモンの欠損も起こり得ますが、一つだけの分泌障害を下垂体ホルモン単独欠損症、複数の分泌障害を下垂体多種ホルモン欠損症といいます。
視床下部および下垂体の病変としては頭蓋咽頭腫、胚芽腫、下垂体腺腫などの腫瘍、分娩後下垂体壊死などの循環障害、結核、サルコイドーシスなどの炎症、免疫異常が疑われるリンパ球性下垂体炎、手術、外傷、放射線照射などによる物理的障害などがあります。
上記のようなACTH欠損は、単独欠損症としても多種ホルモン欠損によっても生じ、続発性副腎皮質機能低下症をきたします。症状としては、全身倦怠感、易疲労、筋力低下、食欲不振、低血圧、低血糖などがみられます。
ACTH欠損による続発性副腎皮質機能低下症では、電解質ステロイド分泌は維持されているので副腎クリーゼはきたしにくく、皮膚はACTH低値のためむしろ蒼白となります。女性では、副腎性アンドロゲンが欠乏するため性毛を失うなどがみられます。
検査としては、血液検査によるACTHの測定を行います。血中ACTHは、拍動性分泌と日内変動があり、ストレス下にあるか、合成グルココルチコイドを投与されているかなどにより変動するので、同時にコルチゾールを測定を行います。早期空腹時の血中コルチゾールが10〜20μg/dlであれば副腎不全はないといえます。また、ACTH分泌予備能を調べるためには、ACTH分泌刺激試験を行います。
治療としては、以下のようなものがあります。
2007年12月、自宅で突然倒れ、救急車で近くの病院に運ばれた。しばらく後に意識は戻り、脳卒中などの異常も見られないため、原因は分からないまま、その日のうちに帰宅した。
08年3月、酒を飲んだ翌朝、意識を失った。病院で血液検査をしたところ、血糖値が異常に下がっていた。5日後に退院したが、翌月には再び、同様の症状が起きた。
一度、精密検査を受けたほうが良いと勧められ、東京医科歯科大病院(東京・御茶ノ水)内分泌・代謝内科を受診。血中のホルモンを調べる検査で、脳の下部にある下垂体の機能が低下していることがわかった。
下垂体は、ホルモン分泌の司令塔と呼ばれる器官だ。甲状腺、副腎、性腺などの働きを調節する6種類のホルモンを分泌している。下垂体の機能が低下する患者は7000人以上。男女差はほぼなく、40歳代以降の中高年がほとんどだ。
吉田さんは、腎臓の上にある副腎皮質に対するホルモンだけが分泌されない「ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)単独欠損症」とわかった。血糖値を上げたり、炎症を抑えたりする副腎皮質ホルモンの一つ(コルチゾール)が出ないため、低血糖になり、意識消失を繰り返したのだった。飲酒も発作を引き起こす引き金になったらしい。
吉田さんはかつて65キロ・グラムあった体重が6年間で15キロ・グラムも激減。7年ほど前からは、はしごや駅の階段を上ろうとしても、足が上がらないことがあった。こうした手足の脱力や体重減少もこの病気の特徴だ。
吉田さんはコルチゾールを補う薬を毎日飲み始めたところ、体調は徐々に回復。体重は56キロまで戻り、駅の階段を速足で駆け上がることもできるようになった。
同科教授の平田結喜緒さんは「ACTH単独欠損症は、治療しないでいると低血糖によるショック症状を起こし、命を落とすケースもある。意識障害を繰り返すなどの症状がある場合、ホルモン異常の可能性も疑ってほしい」と話している。
ACTH単独欠損症 主な症状は〈1〉低血糖による意識障害〈2〉手足の脱力〈3〉全身のだるさ〈4〉体重減少〈5〉うつ症状など。詳しい患者数は不明。
(下垂体 機能下がり失神)
下垂体は前葉と後葉とに分けられ、前葉からは成長ホルモン(GH)、性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロラクチン(PRL)が分泌されます。
これら6つの下垂体前葉ホルモンのうち、いずれのホルモンの欠損も、あるいはすべてのホルモンの欠損も起こり得ますが、一つだけの分泌障害を下垂体ホルモン単独欠損症、複数の分泌障害を下垂体多種ホルモン欠損症といいます。
視床下部および下垂体の病変としては頭蓋咽頭腫、胚芽腫、下垂体腺腫などの腫瘍、分娩後下垂体壊死などの循環障害、結核、サルコイドーシスなどの炎症、免疫異常が疑われるリンパ球性下垂体炎、手術、外傷、放射線照射などによる物理的障害などがあります。
上記のようなACTH欠損は、単独欠損症としても多種ホルモン欠損によっても生じ、続発性副腎皮質機能低下症をきたします。症状としては、全身倦怠感、易疲労、筋力低下、食欲不振、低血圧、低血糖などがみられます。
ACTH欠損による続発性副腎皮質機能低下症では、電解質ステロイド分泌は維持されているので副腎クリーゼはきたしにくく、皮膚はACTH低値のためむしろ蒼白となります。女性では、副腎性アンドロゲンが欠乏するため性毛を失うなどがみられます。
検査としては、血液検査によるACTHの測定を行います。血中ACTHは、拍動性分泌と日内変動があり、ストレス下にあるか、合成グルココルチコイドを投与されているかなどにより変動するので、同時にコルチゾールを測定を行います。早期空腹時の血中コルチゾールが10〜20μg/dlであれば副腎不全はないといえます。また、ACTH分泌予備能を調べるためには、ACTH分泌刺激試験を行います。
治療としては、以下のようなものがあります。
下垂体前葉機能低下症のホルモン補償療法は理論的には下垂体前葉ホルモン投与がよいですが、下垂体前葉ホルモンは入手しにくく、注射でしか投与できず、また抗体をつくり効果が減弱することから、小児における成長ホルモンの場合を除いて原則として標的内分泌腺のホルモンによる補償療法が中心となります。
副腎皮質機能低下症に対しては、コルチゾールを1日10〜30mg朝1回または朝夕2回に分けて投与します。発熱、激しい下痢、手術、外傷などのストレスが加わるときには、ストレスの程度に応じて増量を行ったりします。
上記のように、意識消失発作を繰り返していたり、手足の脱力や倦怠感、体重減少などがみられている場合、こうした下垂体機能低下症が起こっている可能性もあります。こうした症状がみられている場合、代謝・内分泌を専門とする内科などを受診されてはいかがでしょうか。
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プロラクチン産生下垂体腫瘍の手術を検討する35歳女性
出産後、2年を経過しても月経が再開しない30歳女性
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上記のように、意識消失発作を繰り返していたり、手足の脱力や倦怠感、体重減少などがみられている場合、こうした下垂体機能低下症が起こっている可能性もあります。こうした症状がみられている場合、代謝・内分泌を専門とする内科などを受診されてはいかがでしょうか。
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