毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
痛み止めの薬で胃などが荒れることがあると聞いたのですが、飲み薬ではなく坐薬はどうでしょうか?(61歳、女性)

この質問に対して、日本薬剤師会中央薬事情報センターである斎藤真央さんは、以下のようにお答えなさっています。
薬局から痛み止めや熱冷ましの薬をもらう時、また、それらの成分を含む風邪薬などのOTC医薬品を購入する際には、「空腹時は避けて服用してください」と医師や薬剤師からアドバイスされたり、薬の説明文書に書いてあったりすると思います。これはご質問のとおり、非ステロイド性抗炎症薬と呼ばれる解熱消炎鎮痛薬(以下、NSAIDs)には胃や十二指腸の粘膜を荒らす作用があるからです。胃や十二指腸の粘膜が荒れ、ひどくなると「消化性潰瘍」に至ることもあります。

NSAIDsが消化性潰瘍を引き起こす原因はいまだ解明されていない部分も多いのですが、主に以下の機序が考えられています。まず、NSAIDsが痛みのもととなる物質、プロスタグランジンを作る酵素を阻害してしまう機序です。このプロスタグランジンという物質は、胃の粘膜を保護する役割も担っていますが、この合成が低下することによって粘膜保護の作用が弱まり、消化性潰瘍が起きることがあります。その他には、NSAIDs自体が胃内で反応を起こすことによって、直接的に粘膜を障害する機序などが考えられています。

このようなNSAIDsによる消化性潰瘍を軽減するために、現在では薬の剤型そのものにさまざまな工夫が施されています。例えば、薬として活性のない形で体内に吸収され、吸収後に活性化されるために胃などに対して直接的な障害を起こしにくい薬(このような薬をプロドラッグと言います)もあります。直接的な障害を起こしにくいという点から言えば、坐薬は直接胃に入るわけではないので、胃粘膜の障害は少ないとされています。

しかし、上記で述べたとおり、消化性潰瘍を引き起こす原因には、直接的な機序以外にプロスタグランジンという物質を介した間接的な機序があるため、プロドラッグや坐薬などを使用しても、プロスタグランジンの合成阻害による胃腸障害は防げないこともあるので、注意が必要です。

非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drug;NSAID)は、糖質コルチコイド(ステロイド性抗炎症薬)に対する用語として用いられ、その名の通り"非"ステロイド性の抗炎症薬です。

鎮痛および解熱作用を併せもち、酸性化合物および塩基性化合物に大別されます。酸性(acid)非ステロイド性抗炎症薬の作用機序として、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性の抑制によるプロスタグランジン(PG)合成阻害があるといわれています。

シクロオキシゲナーゼには、2種類のアイソザイムがあり、そのうちのCOX-1は精嚢腺や血小板など多くの動物組織で恒常的に発現しているのに対し、COX-2は炎症などで分泌されるサイトカインや、ホルモンなどにより、単球や血管内皮細胞などで誘導されます。ちなみに、この誘導は糖質コルチコイドで抑制されます。

プロスタグランジンは、プロスタグランジンエンドペルオキシドシンターゼ(PGHシンターゼ)を初発酵素とする酵素系により、3種類の不飽和脂肪酸から合成されるオータコイド(ホルモンおよび神経伝達物質以外の生理活性物質)で、少量で多彩な生理作用をもつ物質です。

ちなみに、プロスタグランジン製剤は様々な用途で用いられており、治療的人工流産(E1、E2、F2α)、胃粘膜細胞保護(E1、E2の誘導体)、末梢の虚血性疾患(E1、I2)、勃起不全(E1)、抗血小板凝集作用(E1、I2)、動脈管開存療法(E1)などがあります。

プロスタグランジンは、アスピリンやインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症剤により阻害されます。それはまた、胃粘膜細胞保護作用を有するプロスタグランジンの活性を抑制することになるので、胃障害の原因にもなります。

こうしたNSAIDsを使用する場合、以下のような点に注意すべきであると考えられます。
NSAIDsによって引き起こされる消化性潰瘍を防ぐためには、やはり空腹時を避けて薬を服用することです。どうしても食後に服用することができない場合には軽食を取るなど、少しでも胃に食物などが入っている状態で服用することが望ましいと言えます。

NSAIDs服用中の消化性潰瘍は、必ずしも痛みを伴うわけではないと言われています。NSAIDs服用中に、胃のもたれ、食欲低下、胸やけ、吐き気、便が黒くなる、などの症状に気付いた場合は医師・薬剤師に相談してください。

また現在、消化性潰瘍を患っている人や過去に患ったことがある人、医師から薬を処方されている人なども、自己判断で解熱消炎鎮痛薬を使用せず、医師・薬剤師に相談しましょう。
NSAIDsの副作用としては胃腸障害が10〜15%と最も多いです。NSAIDsによる胃潰瘍に対してはプロスタグランジン製剤であるミソプロストールの併用か、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害剤が有用であるといわれています。

また、他に腎障害による浮腫や、皮疹、肝障害にも注意が必要となります。関節リウマチなどで日常的に服用なさっている方は、しっかりと定期受診なさるなど、消化管出血などにご注意下さい。

【関連記事】
関節リウマチによる軽度の関節痛を訴える56歳女性

強直性脊椎炎と診断され、内服治療を行っている63歳女性