出産後、気分が落ち込んで家事や育児に集中できなかったり、わが子をいとおしめず自己嫌悪に陥ったりする「産後うつ病」。自覚がなかったり相談先がわからなかったりで治療機会を逃す人や、家族から病気と理解されずに一人苦しむ人が少なくない。現行の母子保健制度では産後の不安定な母親の心までケアが行き届かないためで、十分な支援態勢作りが急がれる。
東京都に住む会社員の女性(37)は2年前に長女を出産し、3カ月ほどたってから何に対してもやる気が起きず、不眠に悩むようになった。
結婚して7年目に授かった待望のわが子。楽しく幸せな生活を思い描いていたが、実際には長女は泣きわめくなど思いどおりにいかないことが多く、しだいに愛着が持てなくなり、ふさぎ込むようになった。
夫や親らに相談しても「育児に大変さはつきもの」と軽くあしらわれた。「周囲の理解が得られず、どこに相談していいかもわからないし…病気という認識もなくて本当に苦しかった」と振り返る。
「産後鬱病は一般的な鬱病と違って、産後のホルモンバランスの乱れや心身の変化に伴い、産後3~6カ月で現れる症状。産後女性の1割程度にみられ、誰にも起こりうる心の病だ」。こう話すのは、産婦人科と精神科、心療内科を併設する「パークサイド広尾レディスクリニック」(東京都港区)の宗田聡院長。宗田院長の元には、産後鬱病を患って産婦人科や小児科、精神科を受診したものの、病気と思われず診療を拒まれ、悩み抜いた末に訪れる母親が後をたたない。
「症状が現れたら、すぐに医療機関や保健所などに相談すること。専門のカウンセリングや周囲のサポートをしてもらえるよう状況を改善することで、半年から1年ほどで回復する」と宗田院長は話す。
服薬による授乳への影響を心配して受診を控える母親も少なくないが、宗田院長は「必ずしも産後鬱病の患者すべてに抗鬱剤が必要なのではなく、カウンセリングなどで良くなることも多い」という。
「産後鬱病を患う母親が広がりつつある背景には、インターネットなどの育児情報に振り回され、育児への気負いから完璧な“母親像"に惑わされた人たちが自信をなくし、過剰にストレスをためこんでいるのではないか」
こう分析するのは産後鬱病に詳しい三重大学保健管理センター教授で周産期メンタルヘルス研究会代表の岡野禎治医師。親や親戚が近くにおらず、近所付き合いも希薄で育児経験者に相談できず孤立して、ネットに頼るしかない人が多い現状に警鐘を鳴らす。
さらに「現在の母子保健制度は子供が主体となっており、母親の心の問題まで対応できていない」と指摘。出産後、保健師らが乳児宅を訪問しても、乳児の健康状態にばかり目を向けがちで、母親の不安定な精神状態を見極め、必要に応じて専門治療を受けるよう助言するような態勢にはなっていないという。
岡野医師は「精神保健の視点から、母親のメンタルケアに重きを置いた包括的な支援態勢作りを早急にすべきだ」と話している。
(産後鬱病から母親救え 不十分なケア体制)
妊娠期は精神障害の新たな発症や、増悪が少ないといわれています。妊娠や出産に関して病的とはいえない程度に不安になることと、つわりの時期に情緒不安定になることを除けば、妊娠期は精神状態が比較的安定している時期であるといわれています。
ただ、少ないとされる妊娠期の精神障害のなかでは、うつ病が最も多く起こりやすいです。妊娠うつ病(妊娠期に発症したうつ病)の好発時期は、つわりの時期にあたる妊娠初期4ヶ月間となっています。
また、つわりに伴って起こる精神症状もあります。つわりは、大多数の妊婦で妊娠初期に起こり、悪心、嘔吐、食欲不振、味覚・嗅覚の変化などを主症状とします。身体症状に付随して、抑うつ、情緒不安定などの精神症状が現れることもあります。
一方、出産後は精神障害が起こりやすいといわれてます。特に、出産直後の産褥期(産後約6〜8週まで)に多いです。産褥期の精神障害の発症には、産後の女性ホルモンの変化に加え、脳内モノアミン、甲状腺ホルモンなども関与しています。その他、性格や環境面の要因として、初産婦、神経質・未熟な性格傾向、夫のサポートの乏しさなどがあげられます。
この中で、産後うつ病(産褥期うつ病)は、以下のようなものを指します。
東京都に住む会社員の女性(37)は2年前に長女を出産し、3カ月ほどたってから何に対してもやる気が起きず、不眠に悩むようになった。
結婚して7年目に授かった待望のわが子。楽しく幸せな生活を思い描いていたが、実際には長女は泣きわめくなど思いどおりにいかないことが多く、しだいに愛着が持てなくなり、ふさぎ込むようになった。
夫や親らに相談しても「育児に大変さはつきもの」と軽くあしらわれた。「周囲の理解が得られず、どこに相談していいかもわからないし…病気という認識もなくて本当に苦しかった」と振り返る。
「産後鬱病は一般的な鬱病と違って、産後のホルモンバランスの乱れや心身の変化に伴い、産後3~6カ月で現れる症状。産後女性の1割程度にみられ、誰にも起こりうる心の病だ」。こう話すのは、産婦人科と精神科、心療内科を併設する「パークサイド広尾レディスクリニック」(東京都港区)の宗田聡院長。宗田院長の元には、産後鬱病を患って産婦人科や小児科、精神科を受診したものの、病気と思われず診療を拒まれ、悩み抜いた末に訪れる母親が後をたたない。
「症状が現れたら、すぐに医療機関や保健所などに相談すること。専門のカウンセリングや周囲のサポートをしてもらえるよう状況を改善することで、半年から1年ほどで回復する」と宗田院長は話す。
服薬による授乳への影響を心配して受診を控える母親も少なくないが、宗田院長は「必ずしも産後鬱病の患者すべてに抗鬱剤が必要なのではなく、カウンセリングなどで良くなることも多い」という。
「産後鬱病を患う母親が広がりつつある背景には、インターネットなどの育児情報に振り回され、育児への気負いから完璧な“母親像"に惑わされた人たちが自信をなくし、過剰にストレスをためこんでいるのではないか」
こう分析するのは産後鬱病に詳しい三重大学保健管理センター教授で周産期メンタルヘルス研究会代表の岡野禎治医師。親や親戚が近くにおらず、近所付き合いも希薄で育児経験者に相談できず孤立して、ネットに頼るしかない人が多い現状に警鐘を鳴らす。
さらに「現在の母子保健制度は子供が主体となっており、母親の心の問題まで対応できていない」と指摘。出産後、保健師らが乳児宅を訪問しても、乳児の健康状態にばかり目を向けがちで、母親の不安定な精神状態を見極め、必要に応じて専門治療を受けるよう助言するような態勢にはなっていないという。
岡野医師は「精神保健の視点から、母親のメンタルケアに重きを置いた包括的な支援態勢作りを早急にすべきだ」と話している。
(産後鬱病から母親救え 不十分なケア体制)
妊娠期は精神障害の新たな発症や、増悪が少ないといわれています。妊娠や出産に関して病的とはいえない程度に不安になることと、つわりの時期に情緒不安定になることを除けば、妊娠期は精神状態が比較的安定している時期であるといわれています。
ただ、少ないとされる妊娠期の精神障害のなかでは、うつ病が最も多く起こりやすいです。妊娠うつ病(妊娠期に発症したうつ病)の好発時期は、つわりの時期にあたる妊娠初期4ヶ月間となっています。
また、つわりに伴って起こる精神症状もあります。つわりは、大多数の妊婦で妊娠初期に起こり、悪心、嘔吐、食欲不振、味覚・嗅覚の変化などを主症状とします。身体症状に付随して、抑うつ、情緒不安定などの精神症状が現れることもあります。
一方、出産後は精神障害が起こりやすいといわれてます。特に、出産直後の産褥期(産後約6〜8週まで)に多いです。産褥期の精神障害の発症には、産後の女性ホルモンの変化に加え、脳内モノアミン、甲状腺ホルモンなども関与しています。その他、性格や環境面の要因として、初産婦、神経質・未熟な性格傾向、夫のサポートの乏しさなどがあげられます。
この中で、産後うつ病(産褥期うつ病)は、以下のようなものを指します。
産後うつ病は、出産後2週間から5週間以内の発症が多いといわれています。症状は、抑うつ気分、集中力・意欲の低下(「家事や育児ができない」などといった意欲低下がみられる)、不眠、食欲の低下、頭痛などの身体症状、希死念慮などがあります。
重症では、うつ病独特の妄想をもつこともあります。たとえば「母親として失格の駄目な人間だ」、「(子供のささいな症状を)大変な病気になった」などと思い込むといった症状がみられます。
3〜6ヶ月で軽快することが多いとはいわれていますが、カウンセリングのような精神的な支えや、場合によっては薬物治療が必要になります。
精神症状をもちながら育児・家事を遂行するのは大変な負担であり、病状悪化にもつながる可能性があります。そのため、家族、特に夫が育児や家事に協力し患者をサポートすることは非常に重要です。
産後うつ病の存在を、より多くの方々が理解していただき、「単なる育児疲れ、甘え」などと捉えるのではなく、周囲からサポートしていただけるようになれば、と思われます。
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うつ病治療薬「パキシル」などで他害行為を起こすといった副作用?
重症では、うつ病独特の妄想をもつこともあります。たとえば「母親として失格の駄目な人間だ」、「(子供のささいな症状を)大変な病気になった」などと思い込むといった症状がみられます。
3〜6ヶ月で軽快することが多いとはいわれていますが、カウンセリングのような精神的な支えや、場合によっては薬物治療が必要になります。
精神症状をもちながら育児・家事を遂行するのは大変な負担であり、病状悪化にもつながる可能性があります。そのため、家族、特に夫が育児や家事に協力し患者をサポートすることは非常に重要です。
産後うつ病の存在を、より多くの方々が理解していただき、「単なる育児疲れ、甘え」などと捉えるのではなく、周囲からサポートしていただけるようになれば、と思われます。
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