毎日新聞のこころとからだの相談室に、以下のような相談が寄せられていました。
年に2、3回、背中から胸に荒縄を袈裟掛けにして絞り上げられるような痛みがあります。以前、ちょうど痛みがあった時に内科で調べてもらいましたが、特に異常はないと言われました。でも、かなり痛みが強く心配です。(55歳、男性)
服用中の薬:降圧薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬
既往症:高血圧症、高脂質血症、うつ病

この質問に対して、中谷内科クリニック院長である中谷矩章先生は、以下のようにお答えなさっています。
症状からは、まず狭心症が疑われます。狭心症の痛みは、典型的な場合、左胸に締めつけられるような痛みとして感じられ、5〜15分で消失するというものです。痛みは顎、左肩、左上腕へと放散する場合が多いので、胸の痛みはさほど強くなく、下顎の痛みが強い場合、歯の痛みと間違えることがあるので、注意しなくてはなりません。

狭心症の場合、痛みは数分でおさまることが多いのですが、15分くらい続くこともあります。しかし、30分以上続くことはありませんので、30分以上痛みが続く場合は、心筋梗塞など別の病気を考える必要があります。

質問者の場合、背中から胸にかけて荒縄を袈裟掛けにして絞り上げられるような痛みということですので、左肩から心臓部への痛みでしたら、狭心症の可能性が強いと思います。右肩から心臓部への痛みでしたら、狭心症は否定してよいと思います。

狭心症には、何もしていない時に起こる安静時狭心症と、身体を動かしている時に起こる労作性狭心症の2つがあります。労作性狭心症は、動脈硬化による冠動脈の狭窄が原因で起こるものであり、診断は比較的容易ですが、安静時狭心症は、冠動脈の攣縮が原因で起こると考えられており、診断は容易ではありません。なぜならば、これを診断するには、痛みがある間に心電図をとってSTの異常をとらえなければならないからです。

しかし、先に述べたように、痛みは15分以内に消失してしまいますので、痛みがある間に心電図をとるということは通常不可能です。そこで、ホルター心電図といって24時間連続して心電図をとる方法が用いられるのですが、この方のように、年に2、3回しか痛みが起こらないという状態では、この方法でもつかまりません。

狭心症とは、心筋が一過性に虚血に陥るために生じる胸部または隣接部の特有の不快感(狭心痛)を主症状とする臨床症候群です。原因としては冠動脈の粥状硬化や攣縮による冠血流の減少が主なものです。ただし、一般的には、心筋梗塞のように心筋逸脱酵素の有意な上昇を伴いません。

狭心症の症状としては、一般的には胸部圧迫感・絞扼感を伴った、数分〜数十分続く前胸部痛であり、ときに左肩への放散や冷汗・悪心などを伴います。

ただ、実際の臨床の場では非典型的なものも多数存在します。具体的には、上腹部痛やのどの痛み・胸やけで発症することもあり、消化器科を受診する場合や、胸の痛みに乏しく、背中の痛みや顎の張る感じ、または左肩の凝りが主体で整形外科を受診する場合などもあります。

多くの場合症状は一過性ですが、心不全を伴うような重症例(多枝冠動脈病変に伴う)では、喘鳴を伴う呼吸困難、起座呼吸が出現(心臓喘息)することもあります。

診断には、初診時には狭心症類似疾患の鑑別、合併症および狭心症に影響を及ぼす疾患の有無につき調べる必要があります。安静時心電図、胸部X線、血清CK値など簡便に行える検査にて急性心筋梗塞を除外するとともに、狭心症に影響を与える不整脈、高血圧、大動脈疾患による左室肥大、甲状腺機能亢進症などの心筋酸素需要を増大させる疾患や、貧血・肺機能低下などの疾患の有無を明らかにしておくことが必要です。

狭心症の正確な診断には、心電図(非発作時には約半数の症例で心電図異常を認めない。発作時心電図をとらえるためには、運動負荷心電図およびHolter心電図が有用)や、心臓超音波検査(非侵襲的に心筋の壁運動異常をとらえることが可能)、核医学検査(RIを用いた狭心症の診断には201TIおよび99mTcによる心筋シンチグラフィおよびRIアンギオグラフィを行うことにより,心筋虚血部位への血流の相対的減少や虚血部心筋の壁運動の異常,駆出率の低下を検出する)などがあります。

上記のケースにおける対処法としては、以下のようなものがあります。
(年に2、3回の胸痛)このような場合には、ニトログリセリンの舌下錠を使う治療的診断が有用と思います。すなわち、痛みが起こった時にニトログリセリン錠をなめて、いつもなら5分以上続く痛みが1分以内に消失したとすれば、ニトログリセリンが効いたということになり、狭心症と診断できます。

この方は、痛みがあった時に内科で調べてもらって異常なしと言われたそうですが、本当に痛みが続いている間に心電図がとられたかが問題です。もしもこの条件を満たしていれば狭心症は否定できます。狭心症でない場合は、降圧薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を服用しておられることから、心身症の可能性が高いと思います。
内科で調べてもらったところ、特に異常はないと言われた、ということからもこうしたことが考えやすいのではないか、と思われます。

ただ、上記のように症状が狭心症かどうか断定できないときは、発作時にニトログリセリン舌下錠を使用してもらい、その効果の有無を確認する方法も有用です。かかりつけの先生と相談し、一度試みてはいかがかとも思われます。

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