大阪府高槻市の総合病院「高槻病院」(家永徹也院長、477床)は3日、20代の助産師の女性1人が3月に結核を発症したと発表した。同病院は昨年12月から今年3月までに誕生し、助産師が接触した可能性のある乳児・新生児352人の健診を始めた。

助産師は3月23日に結核菌が検出されたため入院した。同市保健所によると、検出された菌はごくわずかで、感染の可能性は低いという。産科職員への検査で79人のうち8人が陽性だったが、過去の予防接種の影響も考えられるため精密検査を実施する。助産師から感染した疑いのある職員が出た場合は、健診の対象を産婦にも広げる。

助産師は1月ごろから発熱やせきを訴え、2月末に受診したが、症状が軽かったため結核の検査は行っていなかった。家永院長は「多くの患者やご家族に心配をかけ、大変申し訳ない。今まで以上に職員の健康管理に留意したい」と謝罪した。通院患者らを対象とした電話相談窓口((電)072・681・3801、午前9時~午後5時)も設置した。
(助産師が結核発症 乳児ら検査へ 大阪・高槻)


結核症は、宿主をほぼヒトに特化した結核菌が飛沫核感染(空気感染)でヒト−ヒト感染する伝染性疾患です(抗酸菌属のなかの結核菌群による肺感染症)。結核菌群はヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ウシ型菌(M. bovis)、M. africanum からなりますが、近年の日本では後2者による結核症はありません。

初感染は、排菌患者の咳やくしゃみ、会話で生じた小粒子(1〜2μm)を吸入し、そのなかの結核菌が呼吸細気管支や肺胞に定着して成立します。感染後 4〜8週で結核菌成分による感作から細胞性免疫が成立し、両病巣に石灰化を起こして初感染が終息します。80〜85%の例はこの状態で治癒します。

残りが発病、初感染に引き続く発病の初感染結核(primary tuberculosis)と半年〜数十年後発病の既感染結核(post-primary tuberculosis)に分かれていきます。肺門リンパ節病巣や空洞化初感染巣の気管支内穿破があると、結核性・乾酪性肺炎へ進展していきます。

既感染発病(内因性再燃)の要因としては、過労、低栄養、高齢、免疫抑制(ステロイドや抗癌剤投与など)、消耗性疾患(悪性新生物、糖尿病、腎不全、代謝性疾患、胃切除)などがあります。

年齢別罹患率は5〜15歳が最低であり、20〜50歳は20人前後ですが、50歳以降は10歳代ごとに倍増していきます。高齢者の発病(多くが感染数十年後発病)と、糖尿病や腎不全などの免疫能低下例での発病が増加しています。また、30歳以下の90%以上が自然感染を受けていないため免疫力が弱く、20代女性などを中心に集団感染例(一般病院看護婦など)が増加中です。

10年間で日本の肺結核を含む臓器結核は経年的に減少していますが、粟粒結核は増加していることに注意が必要となります。また、日本の罹患率は2004年で人口10万対23.3(実数として約3万人)に下がってきていますが、オーストラリアや米国の約4倍のレベルです。

病初期は微熱(午後〜夕刻)、食欲不振、全身倦怠感、寝汗、体重減少などの非特異的症状のみで、次いで持続性の咳、痰(膿性痰)、ときに血痰、喀血、胸痛(胸膜炎で多い)が出現します。日本の新規患者の80%は、自覚症状による医療機関受診で発見されます(一般病院受診が多く、要注意)。残りの20%は自覚症状がなく、検診で発見されます。

このように、約8割が有症状での医療機関受診で発見され、最初に結核を疑う目が非常に重要となります。診断が確定した慢性気道疾患なしに2週間以上、咳、痰が持続または悪化する場合は例外なく喀痰抗酸菌塗抹培養検査を行うべきであるといわれています。

感染症診断の原則は培養菌での同定です。今日最も有用な方法は、塗抹検査と核酸増幅法の併用であり、数日間で結核症の確定診断が可能となります。現在、日常臨床での非結核性抗酸菌症の増加は著しく抗酸菌塗抹陽性の約半数は、非結核性抗酸菌の可能性があり、核酸法による菌種同定は必須になっています。

必要な治療としては、以下のようなものがあります。
治療の基本方針としては、感受性を認める抗結核薬〔イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、ピラジナミド(PZA)、ストレプトマイシン(SM)・カナマイシン(KM)が基本〕を 2〜4剤、6〜12か月併用します。

入院か通院かは感染防止と治療遂行の2面から決定します。塗抹陽性は、原則入院(通常 3〜6か月)であり、培養のみ陽性は生活環境により決定することが多いようです。

結核治療の目標は、単に症状の改善だけではなく、体内の生きた結核菌をほぼ完全に根絶することにあります。根絶できない場合として高い確率で再発するからです。また、増殖の遅い結核菌は殺菌にも時間がかかり、かなりの長期の投薬期間が必要です。

結核は、抗結核薬で治療を行います。現在は、耐性獲得の危険があるため単剤での治療は行いません。必ず、複数の併用療法を行います。イソニアジド (INH)、リファンピシン (RFP)、ピラジナミド (PZA)、エタンブトール (EB)(またはストレプトマイシン (SM))の4剤併用療法を行うべきであると考えられています。

ですが、患者さんが自己判断で薬を飲まなくなることや、副作用で薬が飲めなくなることなどで、「多剤耐性結核」を患ってしまうことがあります。そもそも結核菌は、病巣に1億個ほど存在し、その全てを殺さなければ完治はしません。

ところが、処方された薬を全て飲まなかったり、副作用で薬が飲めなくなったりすると、菌は生き残ってしまうばかりか、逆に薬に対して抵抗性を持った菌が残って増殖してしまいます。それまで効いていた薬が効かない、新たな結核菌になってしまうのです。

特に、イソニアジドおよびリファンピシンの二者に耐性をもつ菌は多剤耐性結核菌と呼ばれ、治療に難渋することがあります。生存率は10年間で約60%であり、半数近くの人が死に至ってしまいます。

約10種類の有効な抗結核薬があり、3〜4種類の薬を6〜9カ月間服用することで治すことができます。治療を正確に完了した場合、再発率は5%未満とされています。ですが、治療中断により結核菌に耐性ができ、集団感染することが問題となっています。

こうした菌を生み出さないためには、薬が効く段階、つまり最初に結核と診断されたときに、最後まできちんと飲み続けることが大切です。

最近では、DOTS(Directly Observed Treatment,Short-course) 、日本語に訳せば直接監視下短期化学療法と呼ばれる取り組みが成されています。これは、結核患者を発見し治すために世界中で使われている戦略であり、薬の強力な組み合わせであるそれぞれの用量を患者が飲み込むのを直接確認し、そして患者が治癒するまで保健サービスが経過をモニターする、というものです。

決して自己判断で服薬を中止なさったり、受診を止めてしまったりなさらないで下さい。ご自身だけでなく、周囲の人々の健康のためでもあります。

【関連記事】
本当は怖い薬の飲み方−多剤耐性結核

本当は怖いダイエット−結核性髄膜炎