過活動膀胱など中高年女性の排尿問題に注目が集まる一方で、男性の排尿障害を識別するガイドラインが策定された。膀胱と尿道の間に前立腺という器官がある分、男性の排尿問題は女性より複雑。50歳以上では2割が症状を抱えているという。症状には前立腺がんが潜む可能性もあり、専門医は適切な診療を呼びかける。
「下部尿路の症状があって、何らかの形で困っている人は、50歳以上のおよそ2割。うち治療を受けているのは1割か2割しかいないとみられる」
こう指摘するのは、東大医学部泌尿器科教授の本間之夫(ゆきお)さん(56)。日本排尿機能学会が昨年9月に発表した「男性下部尿路症状診療ガイドライン」の作成委員長を務めた。
下部尿路とは膀胱から尿道までの総称で、男性は前立腺が加わる。「つまりはおしっこの問題だが、その症状は一言で片付くものではなく、整理すると尿が近い、出にくい、膀胱が痛いなど25種類の症状に分類される」という。
このうちガイドラインが特に重要とする症状は、(1)昼間頻尿(2)夜間頻尿(3)尿意切迫感(我慢できないほどの尿意)(4)切迫性尿失禁(我慢できず漏れる)(5)腹圧性尿失禁(力んだときに漏れる)(6)尿勢低下(出が悪い)(7)腹圧排尿(力まないと出ない)(8)残尿感(9)膀胱(下腹部)痛(10)尿道痛-だ。
症状があっても、内科など泌尿器科以外を受診する人が多いため、ガイドラインでは10症状について質問票を設定。症状を整理し、場合によっては患者を泌尿器科の専門医に紹介するよう勧めている。
「50歳以上の男性は前立腺がんに特に注意が必要。質問票で聞いた10症状の頻度や、困っている3症状、最も困る1症状の割合をみても、前立腺肥大と前立腺がんは非常に似ている。症状だけでは、がんかどうかの診断は難しい」
そこで診察の基本手順として、下部尿路症状を訴える患者には、前立腺がんの有無をみる腫瘍マーカー(血液検査)の一種、PSA検査の実施を強く勧める。
「中高年男性が何らかの下部尿路症状で受診しても、PSA検査を行わない医師がいる。しかし、こうした症状には前立腺がんが原因の可能性があるので、見逃さないためにはPSA検査を必ず行うことだ」
厚生労働省によると、前立腺がんで治療を受けた患者は平成17年に18万2000人。前立腺がんの死者は18年に9527人、19年が9786人。米国では男性のがん罹患率1位で、日本でも食生活の欧米化などから患者が増加している。
がんがなくても、「例えば、トイレが近い、間に合わないといった過活動膀胱に使われる抗コリン薬は、膀胱の収縮を抑える作用もあり、場合によっては全く尿が出ない尿閉などの副作用が懸念される。日本人男性での安全性がまだ確立されていないので、この薬は専門医が使うべきだ」という。
「膀胱の機能は非常に精密に調整され、その神経は脳から一番遠くまで信号を送っている。個人の尊厳とも関連するデリケートな部分もある」と本間さん。
小用後に尿道の残尿が漏れてズボンがぬれるなど、ちょっとした症状でも年のせいだとあきらめず、泌尿器科を受診したい。
(男性も切実!排尿の悩み 50代以上、2割が支障/前立腺がん危険も)
前立腺癌は、主に前立腺外腺(peripheral zone)より発生する腺癌です。臨床癌は50歳以上の男性に多く、高齢になるほど発生率が高いです。日本人の罹患率は、欧米諸国およびアメリカの日系移民より低いといわれています。同じ日本人でも、米国在住者の頻度は高く、食生活の関与が考えられます。
罹患率は、1975年以降増加していますが、その理由の1つとして前立腺特異抗原であるProstate Specific Antigen (PSA)という腫瘍マーカーによる診断方法の普及によると考えられます。
症状としては、発生部位が周辺部なので早期癌だけでは排尿障害などの症状はありません。ただし、肥大症と合併することが多く、排尿障害があることもあります。
最初に現れる症状は前立腺肥大症と同様であり、排尿異常、膀胱刺激症状です。特に夜間頻尿(3回以上)のときは検査が必要となります。昼間頻尿(2時間以内)、遷延性排尿(出るまで時間がかかる)、苒延性排尿(終了まで時間がかかる)、尿線細小、明らかな排尿困難などが出現すれば、前立腺疾患を強く疑います。
時には血尿、膀胱痛、排尿痛が出現し、尿路感染が加わることもあります。骨転移による症状も起こることがあり、骨の痛み、病的骨折、進行例では造血機能障害、発熱などがみられることもあります。前立腺癌の骨転移は、造骨性変化が特徴です。
診断としては、直腸指診で大きさ、硬さ、被膜周囲の状態をみます。経直腸的超音波断層法(transrectal ultrasonography;TRUS)でも、同様に経直腸的に前立腺の大きさ、エコーレベル、被膜の状態がわかります。
前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)は、前立腺肥大症(BPH)でも上昇しますが、前立腺癌ではさらに上昇します。75〜95%の前立腺癌患者では異常高値(>4ng/ml)を示し、病勢,癌細胞の量をよく反映し、治療が奏功すると低下、前立腺全摘除術後は測定限界以下となります。
骨盤CT、MRIでは、前立腺の形態と骨盤内リンパ節の腫大を判定できます。骨シンチグラフィーでは、いずれかの骨に異常積像を認めれば転移が考えられます。
前立腺針生検では、確定診断ができ、経直腸超音波断層法ガイド下6ヶ所の生検を行います。血清PSA >10ng/mlでは癌発見率40%、血清PSA 4〜10ng/ml(グレーゾーン)では癌発見率10%であるといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
「下部尿路の症状があって、何らかの形で困っている人は、50歳以上のおよそ2割。うち治療を受けているのは1割か2割しかいないとみられる」
こう指摘するのは、東大医学部泌尿器科教授の本間之夫(ゆきお)さん(56)。日本排尿機能学会が昨年9月に発表した「男性下部尿路症状診療ガイドライン」の作成委員長を務めた。
下部尿路とは膀胱から尿道までの総称で、男性は前立腺が加わる。「つまりはおしっこの問題だが、その症状は一言で片付くものではなく、整理すると尿が近い、出にくい、膀胱が痛いなど25種類の症状に分類される」という。
このうちガイドラインが特に重要とする症状は、(1)昼間頻尿(2)夜間頻尿(3)尿意切迫感(我慢できないほどの尿意)(4)切迫性尿失禁(我慢できず漏れる)(5)腹圧性尿失禁(力んだときに漏れる)(6)尿勢低下(出が悪い)(7)腹圧排尿(力まないと出ない)(8)残尿感(9)膀胱(下腹部)痛(10)尿道痛-だ。
症状があっても、内科など泌尿器科以外を受診する人が多いため、ガイドラインでは10症状について質問票を設定。症状を整理し、場合によっては患者を泌尿器科の専門医に紹介するよう勧めている。
「50歳以上の男性は前立腺がんに特に注意が必要。質問票で聞いた10症状の頻度や、困っている3症状、最も困る1症状の割合をみても、前立腺肥大と前立腺がんは非常に似ている。症状だけでは、がんかどうかの診断は難しい」
そこで診察の基本手順として、下部尿路症状を訴える患者には、前立腺がんの有無をみる腫瘍マーカー(血液検査)の一種、PSA検査の実施を強く勧める。
「中高年男性が何らかの下部尿路症状で受診しても、PSA検査を行わない医師がいる。しかし、こうした症状には前立腺がんが原因の可能性があるので、見逃さないためにはPSA検査を必ず行うことだ」
厚生労働省によると、前立腺がんで治療を受けた患者は平成17年に18万2000人。前立腺がんの死者は18年に9527人、19年が9786人。米国では男性のがん罹患率1位で、日本でも食生活の欧米化などから患者が増加している。
がんがなくても、「例えば、トイレが近い、間に合わないといった過活動膀胱に使われる抗コリン薬は、膀胱の収縮を抑える作用もあり、場合によっては全く尿が出ない尿閉などの副作用が懸念される。日本人男性での安全性がまだ確立されていないので、この薬は専門医が使うべきだ」という。
「膀胱の機能は非常に精密に調整され、その神経は脳から一番遠くまで信号を送っている。個人の尊厳とも関連するデリケートな部分もある」と本間さん。
小用後に尿道の残尿が漏れてズボンがぬれるなど、ちょっとした症状でも年のせいだとあきらめず、泌尿器科を受診したい。
(男性も切実!排尿の悩み 50代以上、2割が支障/前立腺がん危険も)
前立腺癌は、主に前立腺外腺(peripheral zone)より発生する腺癌です。臨床癌は50歳以上の男性に多く、高齢になるほど発生率が高いです。日本人の罹患率は、欧米諸国およびアメリカの日系移民より低いといわれています。同じ日本人でも、米国在住者の頻度は高く、食生活の関与が考えられます。
罹患率は、1975年以降増加していますが、その理由の1つとして前立腺特異抗原であるProstate Specific Antigen (PSA)という腫瘍マーカーによる診断方法の普及によると考えられます。
症状としては、発生部位が周辺部なので早期癌だけでは排尿障害などの症状はありません。ただし、肥大症と合併することが多く、排尿障害があることもあります。
最初に現れる症状は前立腺肥大症と同様であり、排尿異常、膀胱刺激症状です。特に夜間頻尿(3回以上)のときは検査が必要となります。昼間頻尿(2時間以内)、遷延性排尿(出るまで時間がかかる)、苒延性排尿(終了まで時間がかかる)、尿線細小、明らかな排尿困難などが出現すれば、前立腺疾患を強く疑います。
時には血尿、膀胱痛、排尿痛が出現し、尿路感染が加わることもあります。骨転移による症状も起こることがあり、骨の痛み、病的骨折、進行例では造血機能障害、発熱などがみられることもあります。前立腺癌の骨転移は、造骨性変化が特徴です。
診断としては、直腸指診で大きさ、硬さ、被膜周囲の状態をみます。経直腸的超音波断層法(transrectal ultrasonography;TRUS)でも、同様に経直腸的に前立腺の大きさ、エコーレベル、被膜の状態がわかります。
前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)は、前立腺肥大症(BPH)でも上昇しますが、前立腺癌ではさらに上昇します。75〜95%の前立腺癌患者では異常高値(>4ng/ml)を示し、病勢,癌細胞の量をよく反映し、治療が奏功すると低下、前立腺全摘除術後は測定限界以下となります。
骨盤CT、MRIでは、前立腺の形態と骨盤内リンパ節の腫大を判定できます。骨シンチグラフィーでは、いずれかの骨に異常積像を認めれば転移が考えられます。
前立腺針生検では、確定診断ができ、経直腸超音波断層法ガイド下6ヶ所の生検を行います。血清PSA >10ng/mlでは癌発見率40%、血清PSA 4〜10ng/ml(グレーゾーン)では癌発見率10%であるといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
前立腺がんの治療法には、手術療法、放射線治療、内分泌療法、さらには特別な治療を実施せず、当面経過観察する待機療法があります。限局した腫瘍には根治的前立腺全摘術や放射線療法が、進行した場合には抗男性ホルモン療法が一般的に行われます。
すなわち、局所癌では根治的前立腺摘除術または放射線療法による根治治療が適応となります。ただ、高齢者や合併症のために手術や放射線療法の適応とならない患者には内分泌療法による単独治療も行われます。また、待機療法が選択されることもあります。
局所進行癌、つまりは癌が前立腺被膜を超えて浸潤しているが、遠隔転移のない場合で、内分泌療法を補助療法とした根治的前立腺摘除術または放射線療法が行われますが、内分泌療法による単独治療も行われます。
手術療法は、適応は限局性癌、すなわちstage A、Bです。手術療法は、限局癌で期待余命10年以上の患者がよい適応です。最近、局所浸潤度に対しネオアジュバントとしての内分泌療法を行い、縮小をはかった後、手術する方法もとられています。手術方法は所属リンパ節も含め、前立腺、精嚢を一塊として摘出します。
手術の方法には下腹部を切開して前立腺を摘出する場合(恥骨後式前立腺全摘除術)と腹腔鏡とよばれる内視鏡下に切除する方法、あるいは肛門の上を切開して前立腺を摘出する方法(会陰式前立腺全摘除術)があります。
副作用として、尿失禁と性機能障害があります。尿失禁に関しては、上記のように1%程度の手術で起こっているようです。ただし、この手術では性機能障害は精管が切断されるため術後、射精することができません。ですが、勃起神経を残す神経保存術も行われています。
放射線療法には外照射と内照射があり、後者はさらに192Irによる一時的刺入法と125Iによる密封小線源永久挿入療法に分かれます。
治療前PSAが高い症例や分化度の低い症例に対しては、内分泌療法を併用することにより予後の改善が期待できます。合併症としては、急性期には膀胱・直腸障害、晩期には直腸出血などがあります。性機能障害も長期的には発生します。また、骨転移の疼痛コントロール目的に施行されることもあります。
内分泌療法は、LH-RHアゴニストや抗アンドロゲン薬、両側精巣摘除術が含まれます。
LH-RHアゴニストは、薬物的去勢とよばれ内分泌療法の中核的治療法である副作用として、ほてり、発汗、顔面紅潮、筋力低下、性機能障害など急激な男性ホルモン低下による男性更年期障害があります。
抗アンドロゲン薬は、ステロイド性と非ステロイド性があり、非ステロイド性は血中テストステロン値がほとんど低下しないため、性機能の維持に有利であるといわれています。薬物的または外科的去勢と併用することにより、精巣性と副腎性の両者のアンドロゲンを抑制することが可能であり、maximal androgen blockade(MAB)療法といわれます。
LH-RHアゴニスト投与開始時の一過性のアンドロゲン上昇による症状の悪化(flare-up)を避けるため、LH-RHアゴニストと同時〜2週間程度前から内服を開始します。
最近では、PSAによる早期発見が可能となりつつあるようです。PSAの有効性に対し、異論はさまざまあるようですが、ご心配な方は、中高年男性では、定期的に検査されることが望まれると思われます。
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前立腺癌検診は、するべき?必要ない?−学会と厚労省の対立
すなわち、局所癌では根治的前立腺摘除術または放射線療法による根治治療が適応となります。ただ、高齢者や合併症のために手術や放射線療法の適応とならない患者には内分泌療法による単独治療も行われます。また、待機療法が選択されることもあります。
局所進行癌、つまりは癌が前立腺被膜を超えて浸潤しているが、遠隔転移のない場合で、内分泌療法を補助療法とした根治的前立腺摘除術または放射線療法が行われますが、内分泌療法による単独治療も行われます。
手術療法は、適応は限局性癌、すなわちstage A、Bです。手術療法は、限局癌で期待余命10年以上の患者がよい適応です。最近、局所浸潤度に対しネオアジュバントとしての内分泌療法を行い、縮小をはかった後、手術する方法もとられています。手術方法は所属リンパ節も含め、前立腺、精嚢を一塊として摘出します。
手術の方法には下腹部を切開して前立腺を摘出する場合(恥骨後式前立腺全摘除術)と腹腔鏡とよばれる内視鏡下に切除する方法、あるいは肛門の上を切開して前立腺を摘出する方法(会陰式前立腺全摘除術)があります。
副作用として、尿失禁と性機能障害があります。尿失禁に関しては、上記のように1%程度の手術で起こっているようです。ただし、この手術では性機能障害は精管が切断されるため術後、射精することができません。ですが、勃起神経を残す神経保存術も行われています。
放射線療法には外照射と内照射があり、後者はさらに192Irによる一時的刺入法と125Iによる密封小線源永久挿入療法に分かれます。
治療前PSAが高い症例や分化度の低い症例に対しては、内分泌療法を併用することにより予後の改善が期待できます。合併症としては、急性期には膀胱・直腸障害、晩期には直腸出血などがあります。性機能障害も長期的には発生します。また、骨転移の疼痛コントロール目的に施行されることもあります。
内分泌療法は、LH-RHアゴニストや抗アンドロゲン薬、両側精巣摘除術が含まれます。
LH-RHアゴニストは、薬物的去勢とよばれ内分泌療法の中核的治療法である副作用として、ほてり、発汗、顔面紅潮、筋力低下、性機能障害など急激な男性ホルモン低下による男性更年期障害があります。
抗アンドロゲン薬は、ステロイド性と非ステロイド性があり、非ステロイド性は血中テストステロン値がほとんど低下しないため、性機能の維持に有利であるといわれています。薬物的または外科的去勢と併用することにより、精巣性と副腎性の両者のアンドロゲンを抑制することが可能であり、maximal androgen blockade(MAB)療法といわれます。
LH-RHアゴニスト投与開始時の一過性のアンドロゲン上昇による症状の悪化(flare-up)を避けるため、LH-RHアゴニストと同時〜2週間程度前から内服を開始します。
最近では、PSAによる早期発見が可能となりつつあるようです。PSAの有効性に対し、異論はさまざまあるようですが、ご心配な方は、中高年男性では、定期的に検査されることが望まれると思われます。
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