読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、高輪メディカルクリニック院長である久保明先生は、以下のようにお答えになっています。
更年期障害とは、更年期(閉経の前後約5年)に現れる多種多様の症候群で,器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群を指します。
原因としては、性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性・代謝性のさまざまな生体変化を引き起こすことによると考えられています。一方で、更年期では、心理的・社会的にも不安定な時期であるため、その発現には社会的・心因的要因も大いに関与するといわれています。
具体的には、エストロゲン濃度の低下により、negative feedback機構が作動し、視床下部からLH-RHを、下垂体からはゴナドトロピン(LF,FSH)の過剰放出を促します。この機能亢進状態は視床下部に存在する自律神経中枢へ影響を及ぼし、自律神経失調の状態となると考えられます。
一方、心理的・環境的な要因は大脳皮質−大脳辺縁系を刺激するため視床下部の自律神経中枢にも影響を及ぼし、自律神経失調症を発症すると思われます。
具体的には、症状としては、熱感、のぼせ、心悸亢進、発汗、不眠などを中心とした自律神経失調症状と、不安感、抑うつ、恐怖感、疲労感などの精神神経症状の2つに大別されます。
更年期障害の診断は、除外診断のうえに成り立っているので、重篤な器質的疾患を見逃さないことが重要であると言われています。それにあたり、まずは多岐にわたる不定愁訴を把握し、整理する必要があります。
これらの不定愁訴を把握するために心理テストは不可欠であり、さらに症状を整理するために系統立った問診および各種調査表を用いることが必要となります。更年期障害を診るには柔軟な対応が望まれ、女性の加齢による疾患の始まりであることを認識しておく必要があります。
自覚症状を客観的に評価するためには更年期指数が有用ですが、指数が高値だからといって必ずしも更年期障害の診断が確定できるわけではありません。また、血液検査で低エストロゲン・高ゴナドトロピン血症も参考になります。
さらに、熱感、のぼせなどの血管運動症状が著明な場合や、診断的治療としてエストロゲン投与を行い、これらの症状が改善される場合には更年期障害と診断可能となります。
こうした症状緩和目的として、エストロゲン補充療法があります。ですが、これには以下のような注意点があります。
更年期障害の薬物療法として頻用されているものは、ホルモン補充療法と漢方療法があります。ほかにも、抗うつ・抗不安薬などが用いられます。
ホルモン補充療法の適応となる症状は、のぼせ、ほてり、発汗、抑うつ、不眠、腰背痛、神経質、頭痛、手足のしびれなどです。一方、漢方療法の適応となる症状は、倦怠感、冷え、のぼせ、ほてり、発汗、腰背痛、神経質などがあります。また、精神神経症状が主な場合や卵巣機能が温存されている女性、エストロゲンが使用できない症例などで抗うつ・抗不安薬などが用いられます。
ホルモン補充療法は、子宮摘出後の女性の場合にはエストロゲン単独投与(ERT)でよいですが、子宮を有する女性には子宮内膜過形成の発症を予防する目的でエストロゲンに黄体ホルモンを併用する必要があります(HRT)。実際の方法としては両者を持続併用投与する方法と、周期的に黄体ホルモンを併用する周期的投与法があります。
ただ、副作用として若干ですが乳癌、血栓症のリスクが高まることや不正性器出血や乳房緊満感があります。また、骨粗鬆症や動脈硬化に予防的に作用するといわれてきましたが、現時点では原則として更年期障害にのみ適応であり、HRTは少量で短期間の投与が推奨されています。
たしかに、このようにHRTで骨折や大腸癌の予防効果がある一方で、乳癌、血栓症や動脈硬化性疾患のリスクを上昇させることが明らかにされています。ですが、最近ではエストロゲンの内服よりも貼付製剤や経口では低用量投与の有益性が証明されています。
こうした利益や副作用を考えた上で、さらに主治医と相談の上でホルモン補充療法を開始されてはいかがでしょうか。
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更年期障害に対する、「ホルモン補充療法」再評価の声
40歳を過ぎてすぐに閉経し、最近、肌の老化を著しく感じます。女性ホルモンの量を測定したところ少ないようで、悩んでいます。(47歳女性)
この相談に対して、高輪メディカルクリニック院長である久保明先生は、以下のようにお答えになっています。
加齢とともに減少するホルモンはいくつかあります。その代表的なものの一つに、女性ホルモンや男性ホルモンといった性ホルモンがあります。
女性も男性も性ホルモンの量が少なくなると、「更年期」という診断がつきます。ホルモンの量は、血液検査で測ることができ、更年期になると、女性は月経不順やめまい、発汗などの症状が出るほか、肌の老化も進みます。
ホルモンを補充すれば、老化を抑えられると考えられ、一時期、「ホルモン補充療法」が注目されました。飲み薬のほか、皮膚に張ったり塗ったりするタイプなど薬の種類は様々です。
しかし、米国で行われた大規模研究で、女性ホルモンの補充が乳がんの発症率を高める恐れがあるとの結果が出ました。その後、研究対象者に喫煙者などが少なからずいたことが分かり、研究結果は見直されつつあります。
更年期障害とは、更年期(閉経の前後約5年)に現れる多種多様の症候群で,器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群を指します。
原因としては、性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性・代謝性のさまざまな生体変化を引き起こすことによると考えられています。一方で、更年期では、心理的・社会的にも不安定な時期であるため、その発現には社会的・心因的要因も大いに関与するといわれています。
具体的には、エストロゲン濃度の低下により、negative feedback機構が作動し、視床下部からLH-RHを、下垂体からはゴナドトロピン(LF,FSH)の過剰放出を促します。この機能亢進状態は視床下部に存在する自律神経中枢へ影響を及ぼし、自律神経失調の状態となると考えられます。
一方、心理的・環境的な要因は大脳皮質−大脳辺縁系を刺激するため視床下部の自律神経中枢にも影響を及ぼし、自律神経失調症を発症すると思われます。
具体的には、症状としては、熱感、のぼせ、心悸亢進、発汗、不眠などを中心とした自律神経失調症状と、不安感、抑うつ、恐怖感、疲労感などの精神神経症状の2つに大別されます。
更年期障害の診断は、除外診断のうえに成り立っているので、重篤な器質的疾患を見逃さないことが重要であると言われています。それにあたり、まずは多岐にわたる不定愁訴を把握し、整理する必要があります。
これらの不定愁訴を把握するために心理テストは不可欠であり、さらに症状を整理するために系統立った問診および各種調査表を用いることが必要となります。更年期障害を診るには柔軟な対応が望まれ、女性の加齢による疾患の始まりであることを認識しておく必要があります。
自覚症状を客観的に評価するためには更年期指数が有用ですが、指数が高値だからといって必ずしも更年期障害の診断が確定できるわけではありません。また、血液検査で低エストロゲン・高ゴナドトロピン血症も参考になります。
さらに、熱感、のぼせなどの血管運動症状が著明な場合や、診断的治療としてエストロゲン投与を行い、これらの症状が改善される場合には更年期障害と診断可能となります。
こうした症状緩和目的として、エストロゲン補充療法があります。ですが、これには以下のような注意点があります。
安全性を考え、ホルモン補充療法は慎重に行われるべきです。日本産科婦人科学会は、女性更年期でホルモン補充療法を考える場合について指針を定めています。
1)乳がん・子宮がんなどの既往歴がない。
2)骨密度がやや少ない。
3)散歩を含め、運動する時間がとれない
――などが該当します。
ホルモン補充療法の効果が明らかなのは、一般的に閉経してから3〜10年以内とされています。ホルモン補充療法に詳しい婦人科や内科の医師に相談してみて下さい。
更年期障害の薬物療法として頻用されているものは、ホルモン補充療法と漢方療法があります。ほかにも、抗うつ・抗不安薬などが用いられます。
ホルモン補充療法の適応となる症状は、のぼせ、ほてり、発汗、抑うつ、不眠、腰背痛、神経質、頭痛、手足のしびれなどです。一方、漢方療法の適応となる症状は、倦怠感、冷え、のぼせ、ほてり、発汗、腰背痛、神経質などがあります。また、精神神経症状が主な場合や卵巣機能が温存されている女性、エストロゲンが使用できない症例などで抗うつ・抗不安薬などが用いられます。
ホルモン補充療法は、子宮摘出後の女性の場合にはエストロゲン単独投与(ERT)でよいですが、子宮を有する女性には子宮内膜過形成の発症を予防する目的でエストロゲンに黄体ホルモンを併用する必要があります(HRT)。実際の方法としては両者を持続併用投与する方法と、周期的に黄体ホルモンを併用する周期的投与法があります。
ただ、副作用として若干ですが乳癌、血栓症のリスクが高まることや不正性器出血や乳房緊満感があります。また、骨粗鬆症や動脈硬化に予防的に作用するといわれてきましたが、現時点では原則として更年期障害にのみ適応であり、HRTは少量で短期間の投与が推奨されています。
たしかに、このようにHRTで骨折や大腸癌の予防効果がある一方で、乳癌、血栓症や動脈硬化性疾患のリスクを上昇させることが明らかにされています。ですが、最近ではエストロゲンの内服よりも貼付製剤や経口では低用量投与の有益性が証明されています。
こうした利益や副作用を考えた上で、さらに主治医と相談の上でホルモン補充療法を開始されてはいかがでしょうか。
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