読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
食道がんを摘出後、再発の疑いがあり、放射線と抗がん剤治療を受けました。疲れやすく足もふらつくようになり、抗がん剤は現在休止中です。医師から継続を勧められ、悩んでいます。(76歳男性)

この相談に対して、国立がんセンター東病院消化管内科である吉野孝之先生は、以下のようにお答えになっています。
手術で摘出した食道がんが再発した場合、定まった治療法はありません。日本食道学会の「食道癌(がん)診断・治療ガイドライン」(2007年4月版)によると、首のリンパ節にがんが再発した場合、手術でがんを摘出するのが有効となっています。

ただ、手術ができない場合、抗がん剤治療や放射線治療を単独で行ったり、両者を併用したりするという選択肢もあります。

質問者の場合、どの部分に再発の疑いがあるのか分かりませんが、可能であれば、担当医が勧めるように、抗がん剤と放射線を併用した治療を続けるのがいいと思います。

ただ、疲れやすく足元のふらつきがひどいのであれば、抗がん剤の量を減らしたり、ほかの抗がん剤に変えたりするという方法があります。こうすることで、副作用を軽減でき、治療を継続しやすくなることがあります。

食道は、頸部、胸部、腹部の3部に区別されます。頸部は、第6頸椎体の高さから始まり、気管の後ろで頸椎の前をまっすぐに下降します。

胸部は、胸郭上口から横隔膜の食道裂孔に至るまでの部分を指します。腹部は、横隔膜下にある長さわずか数cmの部分で、食道裂孔から始まり、左に屈曲して胃の噴門に開きます。食道は、起始部、気管分岐部、横隔膜貫通部でやや狭くなっており、生理的狭窄部と呼ばれます。

好発部位は胸部食道であり、次いで腹部食道、頸部食道の順に多くみられます。男性は女性の6.5倍の発症率があります。男性の食道癌死亡率は過去30年間でほぼ同じ値ですが、女性では減少してきています。部位別にみて、頸部食道癌では女性が多くなり、男女の性差が非常に小さくなっています。

食道癌とは、食道に発生した上皮性悪性腫瘍を指します。好発年齢は60歳代となっています。治療成績の向上が得られてきており、現在では手術死亡率は数%、手術治療成績も5年生存率が20%台から50%へと達するようになっています。

発症のリスクファクターとしては、喫煙や飲酒があり、特に両者の相乗作用との関係がいわれ、1日20本以上喫煙し3合以上飲酒する群が他の群と比べ、食道癌の発生に有意な差のあることが指摘されています。また、食道アカラシアや腐食性食道狭窄、Barrett食道などに癌発生頻度が高いと指摘されています。

色素内視鏡や超音波内視鏡検査の普及に伴い、早期食道癌の発見される機会が著しく増加したため、早期食道癌発見の機会があがっています。そうした症例では、内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)が行われることも増えてきました。

症状としては、早期癌では食物がしみたり、食べ物の通過障害感、胸骨後部異常感などの軽度の食道症状が起こりえます。

進行癌となると、狭窄が高度になり、嚥下障害が強くなってきて、悪心・嘔吐がみられることもあります。嘔吐は、初期には食物のみですが、狭窄が進むと唾液や粘液までも吐出してきます。

このように表在癌の症例では、愁訴を認めないのがおよそ半数程度でありますが、一方、進行癌では愁訴がないのはわずか5%程度であり、狭窄感、嚥下障害を有する症例が半数を占めます。

食道には漿膜がないため、周囲臓器への浸潤が起こりやすく、胸痛や背痛がみられたり、気道との間の瘻孔形成により激しい咳が起こることもあります。また、反回神経麻痺による嗄声などがみられることもあります。

食道癌の早期発見や存在診断は、消化管造影検査および内視鏡検査が主に行われています。特に、早期発見には、消化管造影検査や内視鏡検査(粘膜癌の診断や1cm 以下の微小癌の発見に大きな役割を果たしている)が主に行われています。

最近では、食道癌の診断は内視鏡検査が先行され、次いで精密検査としてX線造影検査が選択される傾向があるようです。内視鏡検査は病変の指摘が短時間で容易にでき、X線造影検査は病巣部の正面像・側面像から病巣の深達度、内視鏡所見では描出しにくい粘膜下の病変の広がりなどが分かるからです。

食道造影充満像では、陰影欠損、潰瘍形成、壁の伸展不良、狭窄所見などがみられ、二重造影では粗ぞうな粘膜、顆粒状の凹凸、隆起や陥凹、粘膜ひだの変化などが観察されます。内視鏡検査では、粘膜の発赤、びらん、隆起や陥凹、狭窄所見がみられます。

超音波検査、CT検査、MRI検査、超音波内視鏡検査などは、臨床の現場においては食道癌の周囲臓器浸潤、リンパ節転移診断、他臓器への転移診断などが主な役割となっています。また、近年では拡大内視鏡検査やFDG-PET検査の有用性も認められつつあり、食道癌の診断に用いられつつあります。

治療としては、以下のようなものがあります。
人に悩みを打ち明けにくい状況は理解できますが、まずは家族や担当医に相談してみてはいかがでしょうか。場合によっては、別の医師の意見を聞く「セカンドオピニオン」を活用してみるのもいいと思います。

どうしても今の治療を受け入れられないようであれば、「抗がん剤治療をしない」という選択肢もあります。

医師として、治療が大変なことは理解できます。最終的に今後の治療方針を決めるのは質問者ご自身です。納得がいく治療法を選ぶことが大切です。

食道癌の治療法としては、内視鏡的粘膜切除術や手術療法、放射線療法、化学療法などが通常行われています。食道癌治療ガイドラインによれば、壁深達度およびリンパ節転移により、その治療方法が選択されています。

たとえば、粘膜癌(特にm1〜m2)に対しては内視鏡的粘膜切除術(EMR)が第1選択とります。粘膜下層癌(sm癌)では従来の頸部、胸部、腹部の3領域リンパ節郭清を基本術式とします。

ちなみに、粘膜下層までの表在癌の深達度亜分類は、
m1:基底膜を破るか否かのca in situ
m2:m1とm3の中間
m3:粘膜筋板に接するか浸潤する。
sm1:粘膜下層を3等分して上部1/3、EMRの切除標本からの判定では粘膜筋板の下端から200μ
sm2:中部1/3、粘膜下層の固有食道腺がほとんど含まれる。
sm3:下部1/3

に分類されています。

m3およびsm1であっても、患者さんが外科治療を望まない症例や全身状態が根治手術に適さないと判断された症例の場合は、術前の画像診断上リンパ節転移がなければEMRの相対的適応となります。ただ、深達度がm3およびsm1癌では半数以上に脈管侵襲があり、リンパ節転移を認めていることも少なくありません。

癌腫が粘膜下層に深く入ったものでは50%以上の転移率であるといわれています。表在癌であっても、リンパ節転移がある程度疑われるものに対しては、進行癌に準じてリンパ節郭清を行うのが一般的です。

また、癌腫が固有筋層にとどまる病変(T2)あるいは食道外膜に浸潤している病変(T3)を有する症例は、遠隔転移および遠隔リンパ節転移を認めなければ、リンパ節郭清を伴った食道切除術を行うか、心・肺・肝・腎などの他臓器の機能障害を有していたり、手術を希望しない場合には化学放射線療法を行うことが通常です。

他臓器浸潤のある症例に対しては、転移した臓器が容易に合併切除可能な臓器の場合は、手術を行いますが、気管や気管支、大血管への浸潤が認められる場合には、まず化学・放射線療法を行ってから腫瘍を縮小し、手術を考慮します。

高度リンパ節転移、あるいは他臓器転移のような高度に進行すた場合は、非切除症例として化学放射線療法や化学療法が選択されます。

化学療法では、シスプラチン(CDDP)、フルオロウラシル、ビンデシン、メトトレキサート(MTX)、ロイコボリンなどの多剤併用が行われます。さらに、切除不能例に対して、根治的照射療法や、手術に併用した術前照射や術後照射が行われます。

さらに、切除困難な食道悪性狭窄症例や食道気道瘻形成症例に対しては、自己拡張型の金属ステント(self-expanding metallic stent:SEMS)が用いられ、食道の拡張が行われます。また、高度癌性食道狭窄に対しては、内視鏡的拡張術あるいはNd-YAGレーザーを用いて腫瘍の縮小・内腔の開大をはかり、食道ステントの挿入を行うこともあります。

まずはしっかりと担当医と相談し、効果と副作用を踏まえて上で、納得して治療を受けられることが重要であると考えられます。

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