読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
肺真菌症と診断され、抗真菌薬を服用しています。肺真菌症とはどんな病気なのでしょうか。(84歳男性)

この相談に対して、東邦大医療センター大森病院・病院病理部診療部長である渋谷 和俊先生は、以下のようにお答えになっています。
肺真菌症は、一般的にカビと称される真菌による肺の感染症です。主な原因菌は、麹カビの仲間である「アスペルギルス」や、酵母の仲間の「クリプトコッカス」などといったものです。

吸い込んだ真菌が肺の中で増え出すと、せきやたんが出たり発熱したりします。また、呼吸困難になったり全身がだるくなったりすることもあります。

これらの真菌は、私たちの生活環境の中にあり、毎日吸い込んでいるようです。ただ、真菌自体はほかのばい菌に比べて病原性が弱く、吸い込んだだけで病気を発症することはありません。

肺真菌症を発症する多くの場合は、気道に障害があったり、ばい菌から体を守る白血球などの機能が低下したりした時です。

前者の場合は肺結核の人が多く、治る過程で気管支が拡張して通る空気が渦を巻くことで、真菌が増殖しやすくなります。後者の場合は、抗がん剤治療やHIVの感染によるものなど、様々な報告があります。

肺真菌症は、胸部エックス線検査などで見つかることもありますが、症状や検査で決め手になるものが少なく、診断が難しい場合もあります。

肺真菌症とは、さまざまな真菌による肺感染症です。血液疾患や免疫不全症などの重篤な基礎疾患に、日和見的に併発する重症例が多いです。

日本の肺真菌症の原因菌にはアスペルギルス、クリプトコックス、カンジダが多く、次いでムーコル、トリコスポロンが多いですが、この中でクリプトコックスは健康人にも感染発症する強毒菌です。

また、肺アスペルギルス症と肺クリプトコックス症は、外因性気道感染によりますが、肺カンジダ症は内因性感染であり、口腔内カンジダの誤嚥による例と血管カテーテルを介した全身播種性カンジダ症の一部として起こる例とがあります。

アスペルギローマにおいては、陳旧性肺結核の浄化空洞,気管支拡張部位などの肺内空洞にアスペルギルスが侵入・定着し、さらに菌球(fungus ball)を形成するものです。

アスペルギルス属やムコール属などは血管侵襲性が強く、血栓形成やときに肺梗塞病変をきたします。さらに、クリプトコッカス属は髄膜炎を高頻度に引き起こす可能背があります。

全身播種性の感染を除いて、症状としては一般的に軽度のことが多いです。咳嗽や発熱、喀痰などが主なものですが、喀痰は少ないことが多いです。ただ、肺梗塞を併発すると胸痛、血痰をきたします。

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)では、アスペルギルス属に対する1型および2型のアレルギー反応であり、微熱、咳、痰を伴う喘息様の症状が出現します。

クリプトコッカス属による髄膜炎では、頭痛、悪心・嘔吐、髄膜刺激症状、ときに痙攣発作などがみられます。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は、質問者が受けているような抗真菌薬の投与が一般的です。症状が重い場合は、肺の感染した部分を切り取る手術を行うこともあります。

真菌症に詳しい内科医を受診することをお勧めします。

真菌症の多くは重篤な基礎疾患に日和見的に併発するため、治療に抵抗し、しばしば予後不良となります。したがって、本症発症のリスクのある患者では常にその可能性を念頭に置きながら、早期診断と早期治療開始に務める必要があります。

日本で、肺真菌症に使用可能な全身投与用の抗真菌薬は、
・アムホテリシンB(ファンギゾン)
・フルシトシン(アンコチル)
・ミコナゾール(フロリードF)
・フルコナゾール(ジフルカン)
・イトラコナゾール(イトリゾール)
・ホスフルコナゾール(プロジフ)
・ミカファギン(ファンガード)
・ボリコナゾール(ブイフェンド)

などがありますが、抗真菌活性や安全性には大きな差があるので、原因真菌や病態に応じて使い分ける必要があります。

また、併用は時に拮抗作用を示し、抗真菌薬以外の薬剤との相互作用も多いので注意を要することがあります。

上記のケースでは、具体的にどのような真菌による疾患なのかは不明ですが、しっかりとどのようなものなのか把握し、それに見合った治療を行うことが必要であると考えられます。

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