以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

50歳を過ぎてからは毎年、健康診断を欠かさず受診し、健康面での大きな問題はなかったT・Mさん(69)。

そんな彼に最初の異変が起きたのは、66歳の時。昨日読んだ本をどこまで読んだのか、よく思い出せないのです。

その1年後、地図通りに来たつもりなのに、なぜか目的地が見つからなくなります(地図が読めない)。その3ヵ月後、ついに自宅への帰り道もわからなくなってしまいます(毎日通っている道がわからない)。

こうした症状がみられ、病院を受診したT・Mさん。そこで診察や検査をした結果、彼はアルツハイマー病と診断されました。

アルツハイマー病とは、初老期〜老年期に認知症を生じる、代表的な変性疾患です。簡単に言ってしまえば、何らかの原因によって大脳皮質の神経細胞が少しずつ死滅し、脳が萎縮、記憶や意欲など生きるために必要な能力が徐々に失われていく疾患です。

記銘力障害、失見当識で発症し、中期には失認・失行のため、日常生活に支障をきたします。ほかにも、物盗られ妄想や徘徊、不眠などの周辺症状のため、介護負担が大きいことも問題となります。

日本では、65歳以上での認知症の約半数がアルツハイマー型痴呆とされています。一般にはT・Mさんのように、65歳以上の高齢者に多い病気ですが、40歳から50歳という働き盛りで発症してしまうこともあります。これは「若年性アルツハイマー病」と呼ばれ、通常より進行が早いのが特徴です。

神経病理学的特徴としては、老人斑、神経原線維変化、神経細胞脱落などがあります。上記にもありますが、沈着するβ蛋白が発症に大きく関わっているといわれています。アミロイド前駆体蛋白(APP)から切り出されたβ蛋白が、神経細胞障害を起こし、神経細胞死や神経原線維変化が生ずる、と考えられています。

ほとんどが孤発性(遺伝性がない)のアルツハイマー病ですが、家族性アルツハイマー病では、APP遺伝子やプレセニリン1遺伝子、プレセニリン2遺伝子の異常などが認められます。

症状としては、以下のような3期に分けられます。
第1期(初期):進行性の記憶障害、失見当識、失語・失行・失認、視空間失見当がみられ、被害妄想、心気-抑うつ状態、興奮、徘徊などを伴うことがある。

第2期(中期):中等度から高度痴呆の状態。言語了解・表現能力の障害が高度となり、ゲルストマン症候群(計算ができなくなったり、字を書けなくなったり、今まで出来たことができなくなる)、着衣失行・構成失行、空間失見当などがみられる。

第3期(末期):精神機能は高度荒廃状態となる。言語間代(言葉の終わりの部分,または中間の音節部を痙攣様に何回もくり返すような発語障害)、小刻み歩行、パーキンソン様姿勢異常、痙攣発作などが出現する。

このような症状が現れてきます。大まかに分けて、認知機能障害(中核症状)に対するものと、非認知機能障害(周辺症状)に対するものに分けられます。T・Mさんのケースでは、認知機能障害による症状(本の読んだ部分を一日で忘れる、地図が読めなくなる、帰り道が分からなくなる)といったものが現れてきていました。

こうしたアルツハイマー病を予防するために、番組では以下のような点が挙げられていました。
アルツハイマー病を引き起こす要因には、様々な説がありますが、これまでの研究で主に4つの危険因子がわかってきています。それが「加齢」「遺伝」「高血圧などの血管性因子」「生活習慣」です。

T・Mさんの場合、まずは「加齢」がありました。そもそもアルツハイマー病は、50歳を過ぎた頃から脳の神経細胞が生み出し始めるアミロイドβタンパクという、いわばゴミのようなものが脳にたまることで、神経細胞が死滅、認知機能が低下すると考えられています。

発症当時、67歳だったT・Mさんの場合も、脳にアミロイドβタンパクがたまっていたと考えられます。とはいえ、年をとれば、誰もがこの病を発症するというわけではありません。

そこで重要になってくるのが、「加齢」以外、残り3つの危険因子です。しかし、T・Mさんの場合、「遺伝」そして「高血圧などの血管性因子」は、あてはまりませんでした。
 
では残る「生活習慣」はというと、実は近年、世界中の研究者の間で、生活習慣の中でも特に「食生活」がアルツハイマー病と密接に関わっているのでは、と注目され始めています。
 
アルツハイマー病を発症する前のT・Mさんの食事をみると、朝食は殆ど毎日パン食、昼食は麺類が中心、夕食ではお酒はあまり飲まないものの、好物は揚げ物料理でした。一見ごく普通に見えますが、こうした食生活と病にまつわる謎を解く手がかりが意外なところにありました。
 
それが島根県出雲市で5年前から行われている「高齢者の認知機能と食生活に関する調査」。厚生労働省の研究班が始めたこの調査は、地域在住の高齢者357人を対象に、日々どんなものを食べているかなどを事細かに調べ、認知機能の推移と食事との関係を調べた調査です。

結果、認知機能が低下してしまった人は、食生活に二つの特徴があることが分かったのです。一つは「魚介類をあまり食べない」こと。そして、もう一つが「野菜をあまり食べない」ことです。T・Mさんも、認知機能が低下した人と同じく、魚介類と野菜はあまり食べないという同じ特徴が見られました。
 
なぜ、魚介類や野菜を食べないと認知機能が低下し、アルツハイマー病の危険性が高くなってしまうのかというと、まず魚介類は、n-3系脂肪酸が関係していると言われています。

n-3系脂肪酸とは、いわゆるDHAやEPAのことです。サバやサンマなどの青魚に多量に含まれている脂です。中でも認知機能と深くかかわっていると期待されているのがDHAです。DHAは、加齢と共にたまるアミロイドβタンパク、脳の中のゴミを、たまりにくくすると考えられています。

野菜も同様であり、ポリフェノールや抗酸化ビタミンが、同じような働きをするのではと考えられています。だからこそ、年齢とともに脳にたまるアミロイドβタンパクを少しでも減らし、アルツハイマー病のリスクを下げるためには、魚介類と野菜を積極的に食べることが大切ではないかと注目され始めています。

治療としては、認知機能の障害を改善する薬物としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬とグルタミン酸拮抗薬があります。現在、日本で治療薬として認可されているものは前者の塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト)があります。

周辺症状の治療としては、幻覚妄想やせん妄、徘徊に対しては抗精神病薬(リスパダールなど)、抑うつに対しては、抗コリン作用の少ない抗うつ薬(トレドミン、パキシルなど)、不眠に対しては、マイスリーなどの半減期の短い睡眠薬などを用います。

ですが、なかなか大きな効果をあげているのか、といわれれば難しいところがあります。是非とも生活習慣を見直し、予防につとめていただければ、と思われます。

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