以下は、ザ!世界仰天ニュースで紹介されていた内容です。

アメリカのバンジョー奏者、エディ・アドコック。60年代、そして70年代のブルーグラス界を代表するグループ『カントリー・ジェントルメン』のエディ・アドコックは伝説的で偉大なバンジョー奏者だ。

そんな彼に、異変がみられる。それは、彼のバンジョー演奏中に起こった。ミュージシャンである妻と一緒に演奏を行っていると、指の動きづらさを感じた。最初は、「疲れているのだろう」と、あまり気にしなかった。

ところが、指はさらに動きづらくなる。さらに演奏中、指が動きづらいどころか、演奏が止まってしまうこともあった。その震えは、普段はまったく感じなかった。ところが、演奏中や物を書こうとしたときなど、意識して手を動かそうとするときに震えてしまう。

そこで、その症状を心配した妻とともに、神経内科を受診する。そこで診断されたのは、「本態性振戦」だった。

本態性振戦とは


本態性振戦とは、「両手および両前腕の姿勢時または動作時振戦、またはジストニーを伴わない頸部振戦」と定義されます。簡単に言ってしまえば、明らかな原因のないのにも関わらず、手や頭頸部、下肢などに現れる震えです。

進行性ですが、数年たって振り返ってみてようやくわかる程度の、きわめてゆっくりとした進行がみられます。約半数例は孤発性であり、約半数が家族性で、家族性の場合は常染色体優性遺伝の場合があります。

上記のように、静止時に出現するものは稀であり、通常は姿勢時振戦(随意的な姿勢保持に際してのみ出現する振戦。例えば上肢を前方に挙上する姿勢を保つ状態で、指、手、前腕、上肢などに出現する振戦)として出現します。精神的緊張、疲労などがこの振戦を増強するといわれています。

振戦以外の神経学的な異常所見を認めないことで、臨床的に診断されます。振戦は95%が上肢、34%が頭部、20%が下肢、12%が声、7%が舌、5%が顔面・体幹に認められ、暗算負荷などで増悪し、頭部の振戦は横振りであるといわれています。

座っているときの頸部の振戦(縦にふるえる場合と横にふるえる場合がある)、上肢を前方挙上するときに生じる振戦、発声時の声のふるえ、立位を保つときの体幹のふるえ(下肢帯筋の振戦)などがみられます。上肢の振戦は、書字や水の入ったコップを持つなど、振戦の静止が必要な状況でより高度になります。飲酒をすると、軽減することもあります。

検査としては、表面筋電図の記録を行い、拮抗筋が相反性律動性に収縮する場合(振戦)と拮抗筋が同期して収縮する場合(ミオクローヌス)があります。

診断としては、経過が非常に緩徐であることと姿勢時の振戦であること、パーキンソニズムや小脳症状がないことが重要となります。そのほか、二次的に姿勢時振戦を生じる異常(甲状腺機能亢進症、アルコール中毒、リチウムやバルプロ酸の副作用、薬物中毒など)の除外が必要となります。

エディ・アドコックさんは、このような「本態性振戦」と診断され、内服薬による治療を開始しました。その内服により、振戦は軽減しました。そのため、演奏も上手くいきました。

ところが、しばらくするとその内服による効果はみられなくなりました。そこで、別の薬に変えると、再び改善がみられました。ですが、しばらくすると効果がなくなり、再び内服薬を変える…そうした生活が3年続きました。

3年後、医師からは「処方できる薬が無くなってしまった」と告げられます。そこで、エディ・アドコックさんに医師は「脳深部刺激療法」を治療選択の一つとして呈示しました。

本態性振戦の治療としては、以下のようなものがあります。
本態性振戦の治療

本態性振戦は、日常生活に支障をきたさない程度であれば、治療は必要としません。薬物療法としては、β遮断薬とプリミドン(抗てんかん薬)を中心とした内服治療を行います。

周波数の高い振戦に対しては、β遮断薬(アルマール、インデラルなど)が有効となります。β遮断薬で、約50%の症例では症状が軽減するといわれています(しかし、喘息や心不全、高度徐脈では使用できません)。

実際には、内服により軽減するが完全に症状を解消することは難しいため、人前に出る必要があるときなど頓服的にβ遮断薬を内服することで社会生活上支障がない場合も多いです。

また、プリミドンなどを、抗けいれん薬としての用量よりは少ない投与量で、約50%の症例では症状改善が得られるといわれています。さらに、同様に抗けいれん薬であるリボトリールなどが処方されることもあります。

精神的緊張による増悪が強い場合には、デパスなどの抗不安薬が用いられることもあります。

ただ、30%程度の症例では、β遮断薬とプリミドンに反応しないといわれています。こうした治療抵抗性の重症例では、脳外科的な脳深部刺激による治療を考慮します。

エディさんは、この脳深部刺激療法を受けられたそうです。

脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)

脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)により、埋め込んだ電気コードにより、視床Vim核を刺激しました。その結果、エディさんの振戦はピタリ、と止みました。

以前から、視床の手術により、振戦や筋固縮の治療は行われてきました。定位視床切截術と呼ばれ、これは、定位脳手術の手法を用いて治療的に視床の特定の細胞群を(高周波電流による熱凝固により)破壊する手術法です。

不随意運動症(振戦、舞踏病など)や筋固縮、頑痛症、てんかんなどに対して適応があります。振戦には腹側中間核(nucleus ventralis intermedius;Vim)、筋固縮には腹側前核の破壊が、頑痛には正中中心核や視床枕が選ばれています。

上記の脳深部刺激療法では、この視床Vim核に対し電気刺激を行います。Vim核の刺激、特に100 Hz以上の高頻度の刺激により、振戦が止まることは、視床凝固術において凝固部位確認のための刺激により振戦が止まることから広く知られていました。

脳深部刺激療法(deep brain stimulation:DBS)では、まず刺入部を脳内において、病変の原因になっている部位を精密に定位し、手術により細い電極を埋め込みます。エディさんのケースでは、手術室にバンジョーを持ち込み、この部位特定に生かしていたようです(本人にバンジョーを弾いてもらいながら、刺激位置を決定)。

そして、電極・刺激発生装置間接続を埋め込みます。皮下に信号線を通し、留置された電極と患者の上胸部に埋め込まれた刺激発生装置を繋ぎます。 そして、刺激発生装置を患者さんの上胸部に移植します。装置全体の動力は、この装置の電池に依存しており、その電池の持ちは3〜5年であるといわれています。

このような手術を行い、現在でもエディさんはすばらしいバンジョーの音色を奏でておられます。

【関連記事】
パーキンソン病−進まぬ理解と、治療・介護の充実求める声

バセドウ(Basedow)病であることを告白−絢香さん