タレントの清水国明さん(58)は今年3月、コンサートで、自身が十二指腸がんであることを告白した。7時間に及ぶ大手術は成功し、現在はこれまでの通りのペースで仕事を続けている。「自分のすべてを息子に伝えたい」と語る清水さん。“病を得て"からの家族への思いと後半生への決意を語った。(中曽根聖子)

実はもう20年近く健康診断を受けたことがなかったんです。「検査なんか受けるから病気になるんだ」と思ってました。全然自覚症状がないうちにがんが見つかったのは全くの偶然。たまたま知人が新しく開いた病院でテスト患者として人間ドックを受診したところ、十二指腸の乳頭部にポリープが見つかりました。当初は良性の腫瘍との診断で切除しましたが、病理検査をしてみると初期の十二指腸がんでした。

突然がんを宣告されても、ショックを受けている暇はありません。たまたま検査を受けて偶然見つかったがんは、幸運にも初期の初期。セカンドオピニオンを求める患者さんも多いと聞きますが、いろいろ迷うことでそれまで続いたラッキーの連鎖を裁ち切りたくなかった。病気を発見してくれた先生や告知してくれた先生に感謝しながら、その場で手術を決断しました。

十二指腸を全摘する手術は7時間に及びましたが、幸い転移もなく、主治医は「根治する」と言ってくれました。ただ、5年生存率は50%。「転移はないが再発の可能性はある」とも。「それなら健康な人と変わらないじゃないか」と前向きに受け止め、以前と同じペースで仕事を続けています。

手術を受けてから、「あ、俺、変わったな」と思う瞬間があるんです。以前は自分が落としたゴミを拾う時間すらもったいなかった。俺にはゴミを片付けるより、ほかにすべき仕事がある、新しい仕事をした方がいいと。ところが今は、畑仕事や大工仕事をしていても片付ける時間がすごく充実して楽しいんです。そんなに急いで先に進んだところで何も変わらない。

退院後は病気なんだから好きなこと、楽なことだけして生きていこうと思った時期もありました。でもね、つらいこと嫌なことを克服しなければ感動もありません。体をいたわって楽をしていればすぐに体も気持ちも衰えてしまう。今はそれに気づいて、自分で耕運機に乗り、ホウレンソウやトマトの種をまき、草刈りをする。体にはこたえますが、毎日を積極的に楽しんでます。

がんを得て、初めて自分の人生に限りがあること、そのカウントダウンが始まっていることに気づかせてもらったんです。息子の国太郎は1歳になったばかり。今死ぬのは不本意。親として子供にしてやるべきことを果たせない悔しさ、伝えるべきものを伝えきっていない悔しさでうろたえました。息子に俺の持っているすべて、魚釣りやオートバイや山登り、女性との付き合い方も含めて、自分のすべてを伝えなければ決して安らかに死ねない。そのための努力は惜しまないつもりです。
(息子にすべて伝えたい…清水国明、がんで十二指腸全摘)

十二指腸癌とは


小腸は十二指腸、空腸、回腸からなります。消化管では最も長い臓器ですが、腫瘍の発生頻度は、消化管の中では最も低いといわれています。小腸腫瘍の頻度は、全消化管腫瘍の約2%と低く、良性腫瘍より悪性腫瘍の頻度が高いといわれています。

悪性腫瘍のうち癌の占める割合は59%と多いですが、全腸管の悪性腫瘍で考えれば、1〜5%程度であり、大腸癌の1/40〜1/60の発生頻度と考えられています。上皮性以外の悪性腫瘍では、悪性リンパ腫が比較的頻度が高く、全消化管の悪性リンパ腫に占める割合は20〜60%と小腸は好発部位といえます。悪性リンパ腫に、カルチノイド腫瘍、平滑筋肉腫が頻度としては多いです。

悪性腫瘍のうち小腸に発生する癌は、十二指腸が圧倒的に多く、空腸、回腸と肛門側に向かうほど頻度が少なくなっています。また、十二指腸癌の発生部位は第2部が最も多いですが、乳頭を中心に、乳頭上部、乳頭部、乳頭下部に分類されます。

ただ、乳頭部癌は臨床症状が異なるので、十二指腸癌とは別に分類されることもあります(乳頭周囲癌は最も多いですが、十二指腸乳頭粘膜、乳頭部胆管、および膵管、共通管などから発生するため、十二指腸癌から除外すべきとする意見もあります)。

小腸癌のうち十二指腸に発見されるものでは、清水さんのように早期癌もあります。ですが、空腸、回腸癌は進行癌が圧倒的に多く、転移を伴って発見されるものが多いといわれています。組織学的には高分化型癌が多く、中分化、低分化型癌は少ないです。

十二指腸癌の診断

十二指腸癌では、腹部腫瘤、腸閉塞、出血、貧血、腹痛、腹満感、悪心・嘔吐、下痢などがみられます。悪性リンパ腫や平滑筋肉腫、癌などは大きな腫瘤を形成することが多く、腹部腫瘤として触知されます。また平滑筋腫や肉腫は、管外性発育をするものが多く、腸閉塞は少なく出血や貧血が多いという特徴があります。

身体所見で口唇や口腔粘膜、手掌、足底に色素沈着がみられる場合には、Peutz-Jeghers症候群を疑う必要があります。というのも、Peutz-Jeghers症候群には小腸に過誤腫が高率に発生するからです。

特異な臨床症状を呈する小腸腫瘍では、カルチノイド症候群があります。この腫瘍はホルモン産生腫瘍(セロトニン、ヒスタミン、キニン、プロスタグランジンなど)であり、発作性顔面紅潮、腹痛、下痢、喘息様発作、右心不全などが特徴的な臨床症状がみられます。

小腸腫瘍は各検査法により診断されますが、イレウスのため緊急手術で診断される場合もあります。病変部位が内視鏡観察可能な部位であれば内視鏡下の生検により組織診断されますが、内視鏡観察の不可能な部位の腫瘍では、X線による造影所見、血管造影所見、超音波やCTなどによる内部構造などから診断されます。

小腸の画像診断では、造影剤を用いた検査法が有用となります。その方法は、1)経口小腸造影法、2)低緊張性十二指腸造影法、3)経ゾンデ小腸造影法、4)イレウス管よりの造影法などがあります。撮影法には充盈法と二重造影法があります。

小腸の内視鏡検査は、小腸全体を観察するのは現在のところ不十分であり、観察可能な範囲に小腸腫瘍が存在していれば、内視鏡所見と組織生検により診断されます。

血管造影は、小腸腫瘍のうち、血管に富む腫瘍の診断に有用となります。平滑筋腫や平滑筋肉腫、癌腫などは腫瘍濃染像や、腫瘍血管の増生などから診断されます。

超音波検査やCTは、腫瘍の大きさや腫瘍の性状、リンパ節転移、周辺臓器との関連、肝転移などの診断に有用となります。

また、カルチノイド腫瘍ではセロトニンの代謝産物である5-hydroxyindole acetic acid(5-HIAA)の尿中値が診断に重要となります。

十二指腸癌の治療

十二指腸癌の治療としては、以下のようなものがあります。
適応となる物であれば、外科的切除が治療としては有効であると考えられます。良性腫瘍でも、大きさ2cm以上で悪性腫瘍との鑑別が困難な場合や、腫瘍が先進して腸重積の原因となる場合には外科的切除の適応となります。

しかしながら、十二指腸や終末回腸のポリープで内視鏡的摘除可能な病変は内視鏡的ポリペクトミーの適応もあります。

悪性腫瘍では、内視鏡摘除不能な病変は外科的切除の適応となります。癌は進行癌で発見されるものが多く、ほかの消化器癌に比べ治療成績は不良となっています。

悪性リンパ腫では、化学療法や放射線療法が効果があり、化学療法と放射線療法、あるいは外科的切除との組み合わせによる治療が行われ、予後は癌に比べ良好であると考えられています。

清水さんのケースでは、早期発見ができたということでラッキーであったのではないか、と考えられます。十分に静養なさって、あまり無理なさらないようにお仕事を続けていただければ、と思われます。

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