私たちは、心臓が止まってしまえばおしまいですから、突然止まるようなことは絶対に避けたい! そのために大切なのは、深酒、タバコ、寝過ぎといった、心臓に悪い生活習慣を改めること。まず、この点は肝に銘じておかなければなりません。加えて、心臓をいたわるコツなどがあれば知りたいんですけれど…。そんな方法なんてあるんでしょうか?

ダメ元で聞いてみたところ、「ありますよ」と教えてくれたのが、心臓外科医の南淵明宏先生。

「やり方は極めて簡単。ゆっくりと深呼吸をすることです。深呼吸をすると、口から空気を入れるだけでなく、胸郭から全身に血液を送り出すことになります。つまり、心臓の働きを助けてくれるわけです。同じように、運動することも心臓のポンプ機能を助けることになりますから、特にデスクワークが多い人は、意識的に手足を動かしてください」

また、思い切り息を吸い込むと、胸が膨らんで、まるで外から圧迫されたのと同じような状態になるのがわかりますよね? そのように、深呼吸をすることで胸郭という肋骨でできたカゴの内圧が上がると、圧を感知する「圧受容体」というセンサーが働き、脈拍を下げ、リラックス状態のときに優位になる副交感神経を活性化させるのだそうです(【コラム】 心臓への負担を軽くする方法はある?)。

自律神経とは


自律神経系は、内臓の平滑筋、心筋および腺を支配し、生体にとって最も基本的な機能である自律機能を協調的に調節し、生体の恒常性の維持に重要な役割を果たしている神経系のことです。

具体的には、呼吸や循環、消化、代謝、分泌、体温維持、排泄、生殖など、生体にとって最も基本的な機能調節を担っています。

筋肉などを動かし、体の動きなどを司る体性神経系は、意識的・随意的な制御を受けます。これに対し、自律神経系は意識的随意的な制御を受けないため、「不随意神経系」や「植物神経系」とも呼ばれます。

自律神経系の求心路(末梢の感覚情報を、中枢に伝える経路)は内臓求心性線維からなり、遠心路(中枢からの情報を、末梢に伝える経路)は、交感神経系と副交感神経系からなります。

内臓の受容器で発生した神経インパルスは、自律神経の求心路を経て中枢神経系へ中継され、中枢神経系のいろいろのレベルで統合され、遠心路を経て内臓効果器に伝達されます。

簡単に言ってしまえば、「胃にはどれくらい食事内容物がある」「体温の状態」といった内臓からの情報が、求心路を経て中枢神経に伝えられ、「食事内容物を消化しよう」「汗をかいて、体温を少し下げよう」といった反応が起こるわけです。こうしたことで、生体の恒常性が保たれているわけです。

ちなみに、自律系求心路は、胃腸,膀胱の充満度などの物理的情報や、内容物の酸性度などの化学的情報を中枢に伝えます。こうした求心性情報の大部分は感覚として意識にはのぼりません。

ですが、飢餓や渇き、悪心、便通、尿意などの臓器感覚や内臓痛覚は感覚として意識にのぼります。また、自律機能は自律神経系ばかりでなく、内分泌系、体性運動神経系との協調的な作用によっても調節されています。



人がパニックに陥っているときに「落ち着いて。まず深呼吸しよう」と声をかけることがありますが、それは体内にたくさん酸素を取り込んで、過度のストレスによる酸欠状態を脱するためなのだと思っていました。でも、深呼吸によってリラックスするメカニズムは、他にもあるのですね。

「常に交感神経が活発な状態も心臓にとっては負担。交感神経と副交感神経が交互に活発になるのが理想です。だから、深呼吸によってリラックスさせてやる必要があります。逆に、いつもダラダラしているのもダメですよ。適度なストレス状態とリラックス状態を繰り返すことが大事なのですから、仕事は一生懸命やらないといけません(笑)」

深呼吸に関していえば、横隔膜の筋トレをすることにもなりますから、健康で長生きしたい人はどんどんやった方がいいと南淵先生はいいます。ただし、深呼吸がいいからといって、深呼吸を勢いよく早く何度もやると、二酸化炭素の排出が過剰になってしまいます。そうすると、脳の血管が収縮して脳の細胞に血液が送られなくなり、ちょっとした酸欠状態になる恐れがあるそうですから、ご注意を。ゆっくりと何度か繰り返すことが大切です。

健康な心臓を維持するためには、生活改善と適度な運動が必要なのはよく分かりますが、忙しい社会人にはなかなか難しいものです。でも、深呼吸くらいなら、いつでも誰でもできますよね(上記同様リンク記事参照)。

自律神経のバランスについて

上記のように、自律神経における交感神経・副交感神経のバランスが大事となります。このバランスについては、以下のような説明ができると思われます。
上記のように、内臓や血管の機能を制御する、中枢および末梢の自律神経系は、交感神経系と副交感神経系とに分かれます。これらが拮抗的に働くことで、バランスがとられています。

一般に交感神経は、「肉食動物が獲物を追いかけているような状態」、つまりヒトにおいては頭脳および骨格筋を使用して忙しく仕事をしている時は自律神経系の交感神経が強く作用します。

一方、副交感神経は、ヒトが不安がなく休んでいる時ないし、寝ている時は自律神経系の副交感神経が強く作用しています。血圧を下げ、呼吸を弱くし、脳および内臓に血液を十分に供給して疲労回復をはかり、また消化運動を盛んにします。

これらのバランス障害による症候は多彩です。瞳孔異常や起立性低血圧、徐脈または頻脈、便秘・下痢、発汗障害、排尿・排便障害、性機能障害などがあります。これらは、交感神経もしくは副交感神経が優位になってしまい、バランスが崩れたことで起こっていると考えられます。

原因疾患として、中枢神経疾患では、多系統萎縮症(オリーブ・橋・小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群)、パーキンソン病、レビー小体病、脳血管障害、脊髄疾患などがあります。

一方、末梢神経疾患では、糖尿病性ニューロパチー、家族性アミロイドニューロパチー、acute pandysautonomia、Guillain-Barre症候群などがあります。

夏場は、冷房の効いた室内と屋外を行ったり来たりすることも多く、自律神経のバランスを崩しやすい時期です。休養をしっかりととり、夏バテしないように食事内容に気をつけ、水分をこまめにとる、などの対策をとっていただければ、と思われます。

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