読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
一日中、鼻水が止まらず、長年苦しんでいます。レーザー手術や漢方なども試しましたが止まりません。(80歳女性)

この相談に対して、東京慈恵医大病院耳鼻咽喉科講師である吉川衛先生は、以下のようにお答えになっています。
鼻水は、毛細血管や細胞からしみ出た体液、涙、呼気中の水分、さらに鼻腔、その周辺の副鼻腔の粘膜から分泌された粘液が混じり合って出来ています。健康でも常に一定量は鼻に存在し、その範囲内なら意識することはありません。

しかし、感染やアレルギーなどによって鼻水の量が増えたり、性状が変化したりした場合には自覚症状が表れます。これを専門的には「鼻漏」といいます。

質問者も鼻漏で、過去の治療内容を見ると原因はアレルギー性鼻炎と思われます。この病気はダニや花粉、真菌類など、アレルギーを引き起こす抗原物質を吸い込むことで悪化し、残念ながら自然治癒することはほとんどありません。

アレルギー性鼻炎とは


アレルギー性鼻炎は、鼻アレルギーともいいます。鼻粘膜のI型アレルギー性疾患であり、病因アレルゲンの吸入により、くしゃみ、水性鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)が生じる疾患です。

アレルギー性鼻炎は、好発時期により通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に分類されます。

通年性アレルギー性鼻炎はハウスダスト、真菌、動物のフケ、食品など通年性に身辺にあるアレルゲンで起こるもので、ハウスダストに含まれるダニが原因抗原として最も重要です。季節性アレルギー性鼻炎の大部分は、季節性に飛散する花粉が病因アレルゲンで花粉症と呼ばれるものです。

最近、有病率は増加傾向にあるといわれています。その原因としては、気密な住宅構造、ソファー、カーペットの使用、エアコンの普及などの生活様式の変化によりハウスダスト中のヒョウヒダニが著しく増え、大規模な植林を行ったスギが花粉を大量に飛散させる樹齢になったことなどが考えられるます。その他、抗原性を高めるディーゼルガスの関与などが指摘されています。

これらの抗原が、鼻粘膜におけるI型アレルギー反応を起こすと考えられます。鼻粘膜に到達した病因アレルゲンは、粘膜層の好塩基球や上皮層の肥満細胞表面の特異的IgE抗体と結合します。

その結果、これらの細胞から多種類のケミカルメディエータが遊離され、それらの作用によって、くしゃみ、水性鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)などの症状が現れます。遊離されるケミカルメディエータは、ヒスタミン、ロイコトリエンC4、血小板活性化因子、トロンボキサンA2などが主ですが、これらのうち最も重要なものはヒスタミンであり、次いでロイコトリエンC4です。

これらの物質(ケミカルメディエータ)が原因で、くしゃみ、水性鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)などの症状が現れます。

くしゃみはアレルゲン曝露後1〜2分で、鼻汁は5分でピークに達します。鼻粘膜腫脹は1〜2時間後にピークとなります。アレルゲンに曝露後8〜9時間で粘膜腫脹が再び起こることがあり、遅発相反応と呼ばれます。鼻粘膜への好酸球の集積はアレルゲン曝露後速やかに始まりますが、そのピークは4〜5時間後となります。

アレルギー性鼻炎の診断

アレルゲン吸入後最初に起こる症状はくしゃみで、次いで鼻漏が起こります。鼻閉はやや遅れて始まり数時間続き、ひどい場合は口呼吸となります。口呼吸により口腔咽頭の乾燥、咽頭炎の併発、睡眠障害などの二次的症状をきたし、患者の生活は強く障害が起こります。

花粉症のような季節性のアレルギー性鼻炎では、鼻症状のほかに眼異物感、眼瞼腫脹感、流涙などの眼症状を合併することもあります。眼症状は成人では通年性の患者より花粉症に高頻度にみられます。

このようなくしゃみ、水性鼻漏、鼻閉を認め、鼻汁好酸球検査、皮膚反応(RASTでもよい)、鼻粘膜におけるアレルゲン誘発テストのうち二つ以上陽性であれば、診断は確定されます。一つしか陽性でなくとも、典型的症状を有し、視診で粘膜蒼白腫脹などを認めれば疑いとしてもよいとされています。

アレルギー性鼻炎の治療

アレルギー性鼻炎の治療では、以下のようなものがあります。
治療は、1〉掃除や洗濯などによる抗原の除去 2〉内服薬や点鼻薬などの薬物療法 3〉抗原物質が入ったエキスの注射により体を慣らしていく「特異的免疫療法(抗原特異的減感作療法)」 4〉手術療法――があります。

手術療法には、鼻の粘膜を焼くレーザー手術、鼻の通りを良くする「鼻中隔矯正術」などがあり、これらを質問者も受けているそうですが、頑固な鼻漏にはあまり効果が期待できません。鼻漏を減らすために、鼻水の分泌にかかわる後鼻神経の切断手術が比較的多く行われますが、効果に個人差があり再発することもあります。

いずれも根治的な治療法ではないため、どれが最適か、病気や治療内容をよく理解した上で、再度、アレルギーの専門医に相談されることをお勧めします。


治療はアレルゲン回避と除去に始まります。アレルゲンを問わず寝室やリビングの室内環境の整備は基本的に重要課題であり、アレルギー対策用の電気掃除機などもあります。花粉症においては花粉情報に注意して、戸外活動を行うべきです。

治療薬としては、まず抗ヒスタミン薬が用いられます。くしゃみ・鼻水に有効な薬剤として第1選択薬と評価されています。第2世代の抗ヒスタミン薬は眠気や口渇などの副作用が少なく、長時間有効なものが主流を占めています。最近では即効性も認められるとの報告があり、鼻腔噴霧薬も開発されています。

ステロイド薬の噴霧薬もあり、鼻腔に投与されることが多いです。数日の連用で効果が認められ、全身的な副作用も少なく臨床効果が十分期待できます。特に頑固な鼻閉に有効であり、小児用噴霧薬も開発されています。

抗ロイコトリエン・抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬も用いられ、鼻閉に有効な経口薬でありますが、効果発現に2〜4週間の連用が必要とされています。

基本的には第2世代抗ヒスタミン薬が、第1選択薬です。重症度に合わせて噴霧ステロイド薬や抗ロイコトリエン薬などのステップアップをします。最重症度では経口ステロイド薬の頓用も選択肢です。

選択順位は、ステロイド噴霧薬が第1ですが、噴霧が上手に実施できない症例では経口抗ロイコトリエン・抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬を選択します。

手術も施行されることもあり、術式は鼻腔の病的粘膜の切除・変性と三叉神経の遮断術に大きく分かれます。鼻腔の病的粘膜の切除は、主に鼻閉に有効であり、下鼻甲介粘膜切除術、粘膜下下鼻甲介切除術、レーザー焼灼術が行われ、三叉神経の遮断術は水様性鼻漏に有効で、ヴィデアン神経切除術や後鼻神経切除術が行われています。

主治医と相談の上、鼻汁が止まるように処方などを工夫されてはいかがでしょうか。また、アレルギー性鼻炎を起こしている原因は何なのか、家の中をしっかりと見直すことも重要です。

【関連記事】
血管運動性鼻炎に悩む46歳女性

アレルギー対策 ハウスダストは掃除機で吸い込めば十分?