読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
見ようとするところが欠け、「黄斑円孔」と診断されました。手術以外に治療法はないとのこと。失明の心配はないか、何に注意すればいいか教えてください。(66歳女性)

この相談に対して、順天堂大浦安病院眼科教授である田中稔先生は、以下のようにお答えになっています。
眼球内の奥にある網膜で、最も大切な視力の中心を「黄斑部」と言います。その表面が、眼球内を満たして網膜にも接するゼリー状の「硝子体」に長年にわたって引っ張られ、真ん中に穴が開く病気が黄斑円孔です。理由は分かりませんが、中高年の女性に多くみられます。9割近くは片方で発症するので、長く気づかない場合もあります。

見え方は、初期には何となく変という程度で、徐々にゆがんだり、中心が暗くなったりするようになり、最終的には視力も0・1以下になります。しかし、網膜がはがれる「網膜剥離」を発症しない限り、失明することはありません。


黄斑円孔とは


黄斑円孔とは、黄斑中心窩が裂けて円孔が生じ、視力低下と変視症を起こす疾患です。網膜の中心部は黄斑とよばれ、ものを見るときに大切な働きをします。この黄斑の働きによって私達は良い視力を維持したり、色の判別を行ったりします。つまり、この部分に異常をきたすと視力が低下していきます。

黄斑円孔では、特発性黄斑円孔と近視性黄斑円孔が大多数ですが、そのほかの原因によるものもあります。特発性黄斑円孔は65〜70歳の女性(2/3は女性)に多く、眼科外来では5,000人に1人とされており、遠視、正視眼に多いです。黄斑前の後部硝子体皮質の収縮による中心窩の慢性的な牽引が原因であるといわれています。

ガス(Gass JDM)の分類によれば、
stage1:中心窩に限局する網膜剥離
stage2:中心窩に限局する網膜剥離に、網膜の裂隙が生じたもの
stage3:完成した黄斑円孔
stage4:硝子体剥離を生じたもの

と分けられています。

特発性黄斑円孔は円孔の周囲に薄い網膜剥離を生じるのみですが、高度近視に伴う黄斑円孔は広範囲の網膜剥離を起こす可能性があります。

黄斑円孔の診断

自覚症状は視力低下、中心暗点、変視症(中心がつぶれて見える)などがあります。発症時期では、はっきりしない片眼の視力低下(時に両眼例もあり)がみられ、さらに、ゆがむ、線がとぎれる(または細くなる)、見えない点があるなど,単なる視力低下以外の症状であると考えます。

また、日常で自覚しなくても、視力検査時に健眼を遮閉すると自覚したりします。または、アムスラー(Amsler)検査を行うことで自覚します。稀に漠然とした視力低下しか自覚していない症例もあります。

検査は、眼底検査用レンズ(スリーミラーか後極部用レンズ)と細隙灯で黄斑部を精密に観察します。ただ、黄斑前膜が収縮すると、中心窩の陥凹が円筒形になり、円孔に類似する(偽黄斑円孔)が視機能はほとんど正常です。そうした場合、スリット光を黄斑部に投影し、くびれを自覚するかで真の円孔と鑑別できます。

完成した黄斑円孔では、円孔底に網膜色素上皮の茶色の色調が観察できます。蛍光眼底造影を行うと、円孔部は網膜の欠損のため丸い過蛍光が観察されます。

強度近視眼の黄斑円孔は、網膜剥離を合併することが多いです。外傷性円孔はサッカーボールや野球ボールなどの鈍性外傷が原因になり、そうしたエピソードの有無が問診で役立ちます。

また、さらに蛍光眼底造影や、光干渉断層計(OCT)などが確定診断には有用です。

黄斑円孔の治療

黄斑円孔の治療としては、以下のようなものがあります。
治療では、黄斑部を引っ張る硝子体をすべて取り除いて眼球の中を空気で満たし、術後数日間、昼間だけでも、うつぶせで過ごします。少しつらい姿勢ですが、黄斑部の穴が空気の圧力でふさがりやすくなるために大切です。手術後数日で空気は消えていきます。

手術後1〜2年で必ず白内障が進行しますので、その手術も同時に行います。手術は目だけの麻酔で1時間くらいで終わり、痛みはありません。成功率は95%以上。再発はまれで、早く手術をするほど術後の視力などは良好に回復します。

質問者は、視力が0.1以下とのことなので、かなり進行していると考えられます。放置していても、これ以上悪くならないかもしれませんが、白内障もさらに進行していきますので、手術で穴をふさいでおかれた方が良いでしょう。

黄斑円孔では、硝子体手術が唯一の治療法となります。放置すれば視力は低下しますが、高確率で失明に至る疾患ではありません。

手術の目的は、中心暗点や変視症の解消ないし軽減にあります。手術は、患者さん本人の不自由度と、手術による利益を勘案して決定します。

手術はGass分類の2期以降の全層円孔で患者が不自由を訴えた場合に適応となります。陳旧性の円孔は円孔縁の剥離(fluid cuff)がなく、本人が無自覚なことが多いです。このような場合は放置してもよいと考えられます(ただし、円孔が10%で両眼性に生じています)。

術後の視力は術前視力がよいほど、また円孔が新鮮なほど回復が良いです。硝子体手術では人工的硝子体剥離を作成し、硝子体腔を膨張性ガスで置換し、うつむき姿勢をとってもらいます。50歳以上では術後に白内障が続発するので、同時に白内障手術も併用します。

一度、手術治療を行う眼科専門医のもとで検査・診察を行っていただき、手術適応についてお話しいただいたほうがよろしいかとは思われます。

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