以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で放送されていた内容です。

4年前の夏休み、会社の同僚と栃木県へ1泊2日の慰安旅行に出かけたK・Yさん(66)。ワゴン車に乗った一行は、片道3時間半の道のりを休憩も取らず日光まで。

昼食後、名所を巡りながら夏の日光を満喫しましたが、車での移動を考慮して水分を控えていたK・Yさん。宿では露天風呂で旅の疲れをいやし、夜の宴会ではつい飲み過ぎてしまいます。翌日、帰路につくも渋滞に巻き込まれ、4時間以上も車中で過ごし旅を終えました。

そんな彼に最初の異変が現れたのは、旅行から帰った翌日のこと。日課の散歩に出かけると、突然、胸を締め付けられるような息切れに襲われました。そして2日後、ついに決定的な事態が訪れるのです。

具体的には、以下のような症状が現れていました。
1)息切れ
2)呼吸困難
急に強い息切れがみられ、立っていられませんでした。その場で座り込み、呼吸困難で救急搬送されることになりました。

このような症状がみられたため、K・Yさんは緊急搬送されることになりました。その結果、さまざまな検査で(確定診断は肺動脈造影にて行われたようです。右肺動脈に欠損像がみられ、血流が途絶していました)、「肺血栓塞栓症」と診断されました。

肺血栓塞栓症とは


肺動脈内腔に形成された血栓により閉塞された病態を肺血栓症、静脈系から肺動脈へ流入した物質により肺動脈が閉塞された病態を肺塞栓症といいます。これら両者をまとめて「肺血栓塞栓症」と呼びます。

男女比は5:4で、あらゆる年齢層に発症する可能性があります。ただ、高齢になるほど多く、60歳以上が患者全体の約50%を占めます。

臨床的には、後者(静脈系から肺動脈へ流入した物質により肺動脈が閉塞)である肺塞栓症が大半です。急性肺血栓塞栓症は、その90%以上が下肢あるいは骨盤内の静脈に生じた血栓が原因であり、遊離して肺動脈を閉塞することにより生じます。

その他、空気(外傷、カテーテル)、脂肪(骨折)、羊水(自然分娩、帝王切開)、敗血症性塞栓(薬物濫用、カテーテル感染、中絶・分娩後の骨盤部血栓性静脈炎)などがあります。

「エコノミークラス症候群」としても知られるように、長時間、同じ姿勢のまま過ごすと起きやすいことで知られています。新潟県中越地震では、被災地で車中泊をしていた人が多く発症したことが報告され、有名になりました。

一方で、病気や出産で入院したときなどにも起きやすく、手術で病気が治った直後の突然死、といったことが起こる可能性もあります。保険適応がなされるようになってから、術後に「間欠的空気圧迫法」と呼ばれる対策(空気圧で下肢に圧迫するもの)をとる病院が多くなってきたようです。

症状としては頻度の高いものとして、急に発症する呼吸困難(約80%)、多呼吸(約80%)、頻脈(約60%)などがあります。広範な塞栓の場合にみられる場合、不整脈や狭心症様の胸部重苦感、失神などが起こります。肺梗塞・肺水腫を伴う場合は、胸膜炎様胸痛、咳嗽、発熱などが起こることもあります。

肺血栓塞栓症の治療・予防

肺血栓塞栓症の治療・予防としては、以下のようなものがあります。
治療としては、呼吸循環管理や血栓塞栓の溶解除去、塞栓源への対処を中心とした迅速な治療が必要となります。呼吸循環管理としては、低酸素血症に対し十分量の酸素を投与します。また、低血圧に対してはカテコラミンを投与します。

抗凝固療法を早急に開始し、血栓の拡大・新生を防止します。血栓溶解療法〔組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)、ウロキナーゼなど〕や、基礎疾患の治療も必要となります(下肢静脈血栓症については、発症後10日以内であれば外科的に血栓除去術を行う)。

抗凝固療法は出血活動期などの禁忌例を除き、本症を疑った時点より全例に投与します。急性期には即効性のある未分画ヘパリンを使用します。

血栓溶解療法は抗凝固療法単独に比べ、早期血栓溶解効果、血行動態改善効果があるものの、出血性合併症のリスクが増すため、広汎型、亜広汎型が適応とされます。クリアクターを13,750〜27,500単位/kgを約2分間で静注します。

さらに、残存した深部静脈血栓の遊離による再発作が致死的となり得るため、早期に深部静脈血栓の有無を検索し、遊離した際に問題となる残存血栓を認めた場合には下大静脈フィルターを留置することもあります。

カテーテル治療も行われ、これは肺動脈内血栓を破砕、吸引する治療です。広汎型や亜広汎型で出血のリスクが高く薬物治療が行えない症例に適しています。

一方、外科的治療は急性PTEのうち、広汎型であるにもかかわらず血栓溶解療法の禁忌例や内科的治療に反応しない症例が直視下肺動脈血栓摘除術の適応とされます。

K・Yさんの場合、長時間、車の中で座り続けていました。彼のひざは、座席に押しつけられ、ひざ下の静脈が圧迫されていました。すると、静脈の血流が悪くなり、ふくらはぎ付近に血がたまる「うっ滞」と呼ばれる状態になっていました。

それが長時間続き、血液凝固物質が血管の壁にくっつき、血栓が出来たと考えられるのです。そもそも人間の足は、ふくらはぎの筋肉を動かし、心臓へ血液を送り返すポンプの役割を果たしています。同じ姿勢で座っているだけでは、その役割を果たせず、うっ滞を加速させてしまうのです。

移動中は、「3時間以上の移動」に注意をすることが重要です。イギリスで発表された論文によると、3時間未満のフライトではこの病の発症例は無く、WHOでも、4時間以上の搭乗で肺血栓塞栓症のリスクが2倍になると警告しています。K・Yさんの旅行でも、3時間以上の移動が2回ありました。

しかしなぜ、あの旅行で彼だけに血栓が出来てしまったのでしょうか?その原因は他の3人より水分を控え、長風呂に入り、多めのアルコールを摂取したこと。すると、血液中から水分が失われ、血栓が出来やすい状態だったと考えられるのです。どんな健康な人でも、発症することがあるこの疾患。長距離移動をする際は、最低でも2時間に1度は休憩をとるようにしましょう。

こまめに足を動かし、自動車移動などでは3時間ごとに休養、こまめに水分補給、アルコールは控えめにする、といったことにお気を付けて、楽しい旅行などを過ごされてはいかがでしょうか。

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