以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で放送されていた内容です。

50歳で車の運転免許を取得してから、どこへ行くのにも車で出かけるようになったO・Yさん。60歳に差しかかった頃には、子供たちも次々と巣立ち、忙しい家事に追われることもなくなりました。

70歳を迎えてもまだまだ体力には自信を持っていた彼女ですが、バスで15分ほど立っていただけで疲れを感じたり、思ったように体が動かなくなる症状を覚えるようになります。

そして今年5月、道の真ん中にできた小さな水たまりを飛び越えようとした彼女は、足を地面につっかけてしまい、そのまま転倒。腰の辺りを強打してしまいました。

強い痛みを感じ、地面の上でうずくまっていた彼女が、搬送された病院で診断されたのは「大腿骨頸部骨折」でした。

大腿骨頸部骨折とは


大腿骨とは、大腿をなす単一の骨で、人体で最も長く強い骨といわれています。近位端は寛骨臼と股関節をつくり、遠位端は膝蓋骨、脛骨と膝関節を形成します。歩行のため長く、また、体重を支え筋が付くので強くなっています。

大腿骨頸部骨折は、高齢者、特に女性の骨粗鬆症有病者に多く発生し、受傷機転は転倒によるものがほとんどであるといわれています。若年者では交通事故、転落などの事故により生じます。

簡単に言ってしまえば、大腿骨頸部骨折は、脚の付け根の骨が折れてしまう疾患です。発生件数は2007年で14万8100件、わずか5年間で約1.3倍に上昇しております。特に女性は、男性の3.7倍にものぼり、患者さんの20%がそのまま寝たきりになると言われています。

関節(包)内骨折である狭義の大腿骨頸部骨折(内側骨折)と、関節(包)外骨折である大腿骨転子部骨折(外側骨折)に分類されます。

大腿骨頸部骨折には、解剖学特性から2つの大きな問題点があります。
1つは関節包内骨折であるため骨膜がなく、骨折線も斜めであるため剪断力が加わり偽関節(骨癒合しないこと)を生じやすいこと。他の1つは、骨頭への血流が途絶えて大腿骨頭壊死を生じることがあることです。このように治療上難治性であることでよく知られています。

大腿骨頸部骨折の診断


症状は、患肢の短縮、股関節部の自発痛のほか、圧痛、運動時痛です。多くの場合、受傷直後より立位歩行は不可能となります。

診断は、股関節の単純X線写真(2方向)によりますが、不全骨折、潜在性骨折などの場合には骨折線が明らかでないことがあります。この場合には、MRIがきわめて有用であり、骨折線はT1、T2強調像のいずれも低信号域として描出されます。

単純X線写真で骨折が認められなくても、受傷機転、症状より骨折が疑われる場合には、積極的にMRIを行い、骨折の有無を確認する必要があります。

上記のケースで大腿骨頸部骨折に至った原因


上記のケースで大腿骨頸部骨折に至った原因は、以下の通りです。
なぜO・Yさんは、小さな水たまりぐらいで転倒してしまったのでしょうか?そのもっとも大きな原因と考えられるのが、「脳のイメージと筋力の差」です。

そもそも人間は目で障害物を認識すると、脳の運動野がその障害物を乗り越えるよう筋肉に指令を出します。しかし、筋力が弱っていると、脳が大きく踏み出すという指令を出しても、筋肉がその通りに動かないため足が上がらず、障害物につっかかり転倒してしまうのです。

東京都老人総合研究所によれば、65歳以上の高齢者が健康的な生活をするため必要な歩数は、1日8000歩。家庭の主婦が、掃除や洗濯などで動きまわっても、およそ4000歩程度にしかならないと言われています。

O・Yさんの場合も、車中心の生活に変わったことで歩数が大幅に減り、筋力の低下を招いたと考えられます。そこに加齢による筋力の衰えが加わり、歩くときに重要な役割を果たす「大腿四頭筋」や「殿筋」などの筋力が大きく低下。その結果、知らず知らずのうちに、異変が生じるようになってしまったのです。

こうした筋力の低下は、早い人で40歳代から始まるといわれています。2007年、日本整形外科学会は、筋肉や骨・関節などの障害で寝たきりになる可能性が高い状態を、「ロコモティブシンドローム」と命名しており、その予防のため、自分の筋力を把握し、筋力にあった運動を続けることを推奨しています。

大腿骨頸部骨折の治療


大腿骨頸部骨折の治療としては、手術療法が原則となります。
内側骨折の非転位型には、骨接合術が第1選択となります。転位型では、非転位型に比し骨癒合率が低く、骨頭壊死やLSC(late segmental collapse)の頻度が高いことから、一般的には人工骨頭置換術が推奨されます。ただし、対象患者の全身状態が不良な例や、特に若年者においては手術法は慎重に選択すべきである、といわれています。

外側骨折は、転位がなくても変形治癒・偽関節などの発生率が高いことから、骨接合術の適応となります。CHS(compression hip screw)や髄内釘型の内固定材料が用いられることが多いです。

安定型では、これら内固定材の種類によって成績に優劣はないとされています。不安定型では髄内釘型が有利といわれています。また、転子部の重度の粉砕例では、セメントを用いた人工骨頭置換術も選択肢となりえます。

このようにそれぞれの骨折の部位や程度によって術式などが考えられます。

是非とも日頃から意識して運動などを行い、筋力低下などを防ぎ、寝たきりの原因にもなる大腿骨頸部骨折などを予防していただければ、と思われます。

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