以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で放送されていた内容です。

会社勤めをしていた40代の頃から、20年以上も不眠に悩まされてきたK・Hさん(60)。4年前にリタイア生活に入った彼は、悠々自適に10時間睡眠を満喫しようと、夜10時には布団に。

それまでは仕事のストレスで熟睡できない夜が多かったため、「退職したら好きなだけ寝てやろう」と心に決めていたのにもかかわらず、なぜか寝つけず、眠りに入るまで2時間近くもかかる夜が何日も続きます。昼間のうたた寝を我慢するようにしますが、寝付きの悪さは相変わらず。おまけに夜中に2回も目が覚めてしまうようになりました。

結果、9時まで寝ても熟睡感が無く、悩んでいました。そんな中、テレビで不眠外来のことを知ったK・Hさんは、さっそく受診してみることにしました。そこでは、1日の活動量を計測する「行動計」を渡され、一週間計測してみました。

結果、眠りについてからも常に小さく体が動いていることがわかりました。つまり、一晩を通して熟睡できず、「睡眠の質」が極めて悪い状態が続いていた、と判明しました。

K・Hさんの診断された結果は、「精神生理性不眠症」でした。

睡眠障害とは


睡眠障害は発現頻度がきわめて高く、誰でも一度は経験があるのではないでしょうか。睡眠障害には不眠だけではなく、睡眠に関連したさまざまな症状が存在し、その症状は、
1)睡眠の開始と維持の障害(不眠症)
2)睡眠の過剰(過眠症)
3)睡眠のタイミングの異常(概日リズム睡眠障害)
4)睡眠時に起こる異常行動(睡眠時随伴症)

の4つに分けることができます。

中でも、不眠は一般臨床でも頻度の高い訴えの1つです。睡眠の質または量が不足している場合を不眠症といいます。不眠をきたす原因は多様であるので、各種不眠の特徴を把握することは不眠症の治療には重要です。

不眠は、入眠障害(眠りにつくまでに時間がかかる)、中途覚醒(眠りについても、途中で睡眠が妨げられる)、早朝覚醒(朝早くに目が覚めてしまう)、熟眠障害(睡眠時間はとれていても、熟睡感がない)の4つのタイプに大別されます。まず、患者の不眠がどのタイプであるのか、あるいはこの中のいくつのタイプが混在しているのかを見極める必要があります。

また、不眠の原因はさまざまであり、さらにいくつかの原因が重複して存在することも少なくありません。そこで、適切な治療を行うためには鑑別診断を行う必要があります。

不眠を引き起こしうる原因としては、寝室環境や不規則な生活習慣による生理的原因、痛み、痒み、頻尿、咳などによる身体的原因、降圧薬、ステロイド薬やインターフェロンなどの薬理学的原因、うつ病や神経症などの精神医学的原因、心理的要因のため不眠が生じ、眠れないことを過度に恐れるため入眠を焦り、かえって緊張が高まり眠れない精神生理性不眠(心理学的原因)などがあります。

さらに、中高齢者では睡眠時無呼吸症候群(夜間睡眠中に呼吸が停止し、昼間の眠気や中途覚醒、熟眠障害を呈する)、周期性四肢運動障害(睡眠中の下肢のぴくんぴくんとけいれんする不随意運動で中途覚醒、熟眠障害を呈する)、むずむず脚症候群(就床後に下肢がむずむずする異常感覚を生じ入眠障害、中途覚醒を呈する)などとの鑑別が特に重要となります。

上記のケースでは、入眠が困難となり、なおかつ中途覚醒、熟眠障害がみられていました。診断されたのは「精神生理性不眠症」でしたが、精神生理性不眠症とは、不安やストレスなどがきっかけとなって一度眠れない体験をした人が、「また眠れなくなるのでは」という恐怖によって、さらなる不眠状態に陥ってしまう疾患のことです。現在、不眠に悩む患者で一番多い原因と言われています。
 
K・Hさんの場合も、40代の頃、「仕事のストレス」から、なかなか寝付けないという夜を経験。それが、「また眠れなくなることへの恐怖」を呼び寄せ、慢性的な不眠状態に陥ってしまったと考えられます。退職後も、寝つきの悪い状態が続いたのは、仕事のストレスは消えても、この「不眠への恐怖」が残っていたためだったのです。

私たちの睡眠時間は、年を取るにつれ、少しずつ短くなることがわかっています。一般に10代で8時間、30代で7時間、そして60代になると6時間程度で、充分な睡眠がとれていると考えられます。

60代のK・Hさんで言えば、本来必要とされる睡眠時間は、およそ6時間です。午前1時に就寝し、朝7時に起きれば、充分に睡眠がとれていたはずです。ところが、たっぷり寝ようと、3時間も早い夜10時に就寝。当然すぐには眠れず、寝付くまでの3時間、「眠れない」というストレスにさらされ続けました。そのことが原因で、睡眠障害が起こっていた、と考えられます。

睡眠障害の治療


不眠症の治療としては、以下のようなものがあります。
不眠の原因となるような身体疾患や精神疾患が存在する場合は、それら基礎疾患の治療を行います。また、薬物使用の有無を確認し、不眠の原因となる薬物が判明したときは原則的には投与を中止すべきとなっています。

一方、よりよい睡眠を上手にとるための生活習慣(睡眠衛生)を整えてもらい、それでも改善されなければ睡眠薬内服による加療を行います。睡眠のための生活習慣としては、
1)同じ時刻に毎日起床する。休日も2時間以上遅くまで床で過ごさない。そうすれば夜眠くなる時刻も一定になってくる。
2)起床後に光を浴び、逆に夜は照明を暗くする。
3)規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣を心がける。
4)就寝前4時間のアルコール、カフェイン摂取や就寝前1時間の喫煙は避ける。
5)就寝前の入浴、音楽、軽い読書、香りなどのリラクセーションを心がける。
このような生活習慣をしていただき、改善するかどうかみていただきます。

睡眠薬は、従来のバルビツール酸系睡眠薬と異なり、ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬が主に用いられています。ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬は、耐性や依存性を生じにくく、誤って大量に服薬してもそれだけで生命を失う危険性はきわめて小さいなど、安全性の高い薬剤と考えられています。

注意点としては、アルコールとの併用は副作用が増強されるので絶対禁忌です。また、副作用として、記憶障害やふらつきなどが起こる可能性があります。転倒などを防ぐためには、服薬したら少なくとも30分以内に就床することが望まれます。

さらに、突然中止すると反跳性不眠や退薬症候が出現するため、独自の判断で中断したり増強しないことが望まれます。

上記のケースでは、「眠くなったら寝る。寝なくては、と過度に思わないようにした」と心がけることで、睡眠の質が改善されたと言います。まずは睡眠のリズムや生活習慣を見直してみることが重要ではないか、と考えられます。

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