以下は、ザ!世界仰天ニュースで扱われていた内容です。
1995年5月20日。香港で観光を満喫したポーラ・ディクソン(39)は自宅のあるロンドンに帰るため空港へ。予定していた便にはあいにく喫煙席が開いておらず、1時間遅い喫煙席のある便に変更した。

搭乗して間もなく、彼女は腕の大きなすり傷の痛みを訴えたが、幸いその機内には医師が居合わせたため応急処置を施され、そのまま飛行機は離陸。傷も落ち着き、リラックスモードになろうと靴を脱ぐため、前かがみになった瞬間、彼女は胸に痛みを訴え出した。

実は彼女、離陸前に事故に遭っていたのだ。居合わせた医師の経験から、彼女の病名は「緊張性気胸」というものだった。バイク事故によって折れた肋骨が、前屈みになった拍子に胸に突き刺さり、肺の一部に穴を開け、そこから漏れた空気が肺と胸膜の間に溜まる。 漏れた空気によって胸膜が膨らみ心臓を圧迫してしまうという。彼女の命は持ってあと30分。


緊張性気胸とは


気胸とは、臓側または壁側胸膜の破壊により胸腔に空気が流入し、貯留した状態であり肺は虚脱します。原因により自然気胸(特発性、続発性)、外傷性気胸、医原性気胸に分類され、特殊型として緊張性気胸があります。

先行病変を持たないのが特発性自然気胸です。若年者(15〜25歳)、特にやせ型で縦長の胸郭をもつ男性に好発し、既喫煙を含む喫煙率は高いといわれています。この場合、肺尖部胸膜直下の小さなブレブの破裂によって起こります。

慢性閉塞性肺疾患のような先行肺病変のある患者に発症するのが続発性自然気胸です。女性ではびまん性過誤腫性肺脈管筋腫症や子宮内膜症性気胸など特殊な基礎疾患を合併していることもあります。

胸部外傷(開放性・非開放性)により発症するのが外傷性気胸で、肺を誤って穿刺したり人工呼吸器の加圧により発症するのが医原性気胸です。

緊張性気胸では、気胸腔の圧が陽圧となり(普通、胸腔内圧は肺を膨らませやすいように、大気圧より低くなっています=陰圧)、患側肺の虚脱が顕著で、縦隔も健側に偏位している病態です。

胸腔内への空気の漏出部位が弁状構造となっており、吸気時に空気が胸腔内に流入するが呼気時に弁が閉じ逆流しないことにより発生します。吸気時のみ創から胸腔内に空気が入り、呼気時には弁状の閉鎖が生じてしまうため、患側の気胸は増加し続け、患側の肺は完全に虚脱してしまいます。

患側肺は虚脱がすすみ、縦隔は健側へ偏位し健側肺も拡張障害を起こし呼吸障害が悪化します。さらに、上下大静脈の圧排による静脈灌流障害から心拍出量が低下し、閉塞性ショックに至ってしまいます。

理学所見は単純気胸の症状の増強に加え、頻脈、頻呼吸さらに触診で気管の健側への偏位、気道内圧の上昇、出血性ショックを伴わない際には頸静脈の怒張を認めます。

彼女を助けるために、上空1万メートルで緊急手術が行われることに。十分な医療用具のない機内でかき集められたのは鉄製のハンガー、セロハンテープ、そしてミネラルウォーター入りのペットボトルとアルコール度数の高い酒。医師はすぐに手術の準備に取り掛かった。客室乗務員に酒でハンガーを消毒し、それを医療用のゴムチューブの中に通した。

次にペットボトルのふたに穴を開け、そこから別のチューブを差し込んだ。手術の準備をすべて整え、医師は手術を始めた。メスで彼女の左胸に穴を開け、体内にゴムチューブを押し込んだ。それが肺と胸膜の間に達したのを確認するとハンガーだけを引き抜いた。そしてミネラルウォーターのボトルに繋がったチューブとポーラの体内に差し込まれているゴムチューブを合わせ、空気が漏れないように しっかりとセロハンテープで貼付けた。

ミネラルウォーターの量は体内に溜まった空気を逃がすため量が絶妙に調整されていた。 なんとかして彼女を助けたい。ウォレスは自分の作ったこの装置に すべてを賭けていた。次の瞬間、出てきたのは空気の泡。

ウォレスが行ったこの手術は漏れた空気が溜まっていた肺と胸膜の間にゴムチューブを差し込み、それを体の外へ出す事で 圧迫されていた心臓を解放するというものだった。まさに危機一髪。こうしてポーラは九死に一生を得た。

緊張性気胸の治療


緊張性気胸の治療としては、以下のようなものがあります。
緊張性気胸では、穿刺脱気が絶対適応となります。仰臥位あるいは患側を上にして上肢を挙上させます。太めの静脈留置針を用い、前腋窩線上で、年長者は第5〜6肋間、年少者は第3〜4肋間を穿刺します。

動静脈、神経損傷を避けるため肋骨上縁にそって穿刺し、三方活栓をつけ注射器で脱気します。急速な脱気は肺水腫の原因となることに留意します(発生後3日以上経過した症例に特に多い)。必要に応じて持続ドレナージに移行します。

穿刺脱気で改善しない場合、持続胸腔ドレナージを行います。できるだけ太いトロッカーカテーテルを用います。処置に強い痛みを伴い、時に迷走神経反射から徐脈を誘発するため、壁側胸膜まで十分な局所麻酔を行います。

カテーテルの固定と気密性を保つため1肋間下から皮下トンネルを斜めに形成し、肋間筋を肋骨上縁で胸膜まで十分に剥離します。カテーテル挿入時には肺実質を傷つけないよう、片手をストッパーとしてカテーテル先端から事前に確認した胸膜までの長さで握っておきます。

ドレナージは全身状態が安定していれば水封式とします。皮下気腫の出現、呼吸状態不穏持続、縦隔偏位が改善しない場合は5 cm水柱圧でゆっくり持続吸引します。

外科手術として、胸膜癒着術なども行われます。ただ、再発率が高いため、最近では胸腔鏡下手術によるブラ切除が主流となりつつあります。

【関連記事】
稀少疾患などの症例集−ザ!世界仰天ニュース

心臓発作を起こし、自動体外式除細動器(AED)販売員に救われる