読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
「真珠腫性中耳炎」と診断され、約1年前に手術を受けました。しかし、耳の中が詰まった感じがし、症状がひどくなってきています。(69歳女性)

この相談に対して、神尾記念病院病棟医長である石井賢治先生は以下のようにお答えになっております。
真珠腫性中耳炎は、鼓膜の一部が中耳の内側に陥没し、そこに垢(あか)がたまって感染を起こし、骨を壊して奥へと進行していく「たちの悪い中耳炎」です。垢がたまった部分が真珠のように見えるため、こう呼ばれています。

脳に音を伝える「蝸牛(かぎゅう)」に鼓膜の振動を伝える「耳小骨」を壊すと、音が伝わりにくくなる「伝音難聴」に、一番奥の内耳にまで進行すると、音を感じにくくなる「感音難聴」や、耳鳴り、めまいを引き起こします。顔面神経に入り込むと顔がゆがみ、頭蓋(ずがい)内に入り込むと髄膜炎などを起こし、命にかかわることもあります。

根本的な治療は手術しかありません。真珠腫が耳小骨の裏側まで進行している場合は、耳小骨を真珠腫と一緒に摘出します。


真珠腫性中耳炎とは


真珠腫性中耳炎(中耳真珠腫)とは、何らかの原因で扁平上皮細胞が中耳腔に侵入して増殖したもので、袋状の内腔には上皮落屑物が堆積し真珠のように見えることから、「真珠腫性中耳炎」の名称があります。

落屑物は感染しやすく、しばしば悪臭のある膿性耳漏をきたします。本症の多くは長期にわたる耳管機能不全や中耳炎が原因とされます。

真珠腫は周囲の骨組織を破壊しながら次第に大きくなり、伝音難聴や顔面神経麻痺、迷路瘻孔、内耳炎、頭蓋内合併症などの合併症を来すので、特に感染を伴う場合は早期の手術治療を要します。

鼓膜所見からは、上鼓室(弛緩部)型、鼓膜後上部(緊張部)型、癒着型に分類されます。

上鼓室型は耳管機能不全のため中耳腔が陰圧化し、鼓膜弛緩部がポケット状に内陥して形成されるもので、最も発症頻度が高いです。

鼓膜後上部型はキヌタ骨付近の鼓膜が内陥して生ずるもので、キヌタ骨やアブミ骨が早期より破壊されるため難聴は高度なことが多いです。

症状としては、耳漏、難聴が最も多い訴えです。ですが、弛緩部型真珠腫では真珠腫が耳小骨をある程度破壊しても耳小骨連鎖が保たれている間は難聴が軽度です。

一方、緊張部型真珠腫の場合には、最初に鼓膜が耳小骨に癒着しキヌタ・アブミ関節を破壊するために、早期に難聴を呈することが多いです。このほか、耳鳴、耳閉感などがみられます。さらに進展して合併症が起こると、めまい、顔面神経麻痺などを呈します。

真珠腫性中耳炎の治療


真珠腫性中耳炎の治療としては、以下のようなものがあります。
耳が詰まった感じがするとのことですが、
1〉炎症により出た血液成分の一部の「滲出液」が中耳にたまっている。
2〉真珠腫が再発している。
3〉蝸牛がある内耳に障害が出た
――ことが考えられます。

1〉は、鼓膜を切ったり小さいチューブを入れたりして滲出液をためないようにすれば、改善が可能です。2〉は、再手術が必要となることもあります。3〉は、内耳は手術で治すことができないため、薬で改善を図ることになります。

手術の影響によっても、感音難聴がまれに起こり、耳が詰まった感じがします。まず、現在の耳の状態を正確に診断してもらうことが重要です。


溜まった膿などの吸引・除去を丹念に行うことで進行を防止できることがあります。また、進展した真珠腫でも吸引・清掃などの局所治療と抗菌薬の全身投与で炎症を治め、進展を防止し手術を避けることができる場合もあり、高齢者や全身疾患のために手術を行いがたい症例にはこうした治療が行われます。

術前にめまいと高度難聴を呈する場合には迷路瘻孔から内耳炎を併発している可能性を考えて、抗菌薬投与を行います。早期の対応によって骨導聴力が回復することがあります。

真珠腫は、中耳腔あるいは乳突蜂巣に侵入した表皮嚢胞であるから、摘出には側頭骨の骨削除が必要となります。したがって、真珠腫に対する根本的治療は手術療法といえます。症例の特徴を考慮した術式の選択を行います。

骨破壊の高度な症例、ダウン症候群に合併した真珠腫、耳管機能障害を伴う症例、蜂巣発育の小さい症例などではOpen法(Canal Wall Down法)とし、筋骨膜弁による部分充填を行います。また、外耳道入口部を軟骨切除によって拡大形成する。この術式は再発が少なく安定しています。

【関連記事】
真珠腫性中耳炎について Part01

真珠腫性中耳炎について Part02

真珠腫性中耳炎について Part03(鼓室形成術について)