読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部長である山村隆先生は以下のようにお答えになっております。
多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)とは、原因不明の中枢神経の炎症性脱髄性疾患です。大脳、小脳、脳幹、視神経など中枢神経組織の主に白質に多巣性の限局性脱髄性病変が生じます。
病因は不明ですが、自己免疫疾患説が有力です。臨床経過、病変部位、病理所見、HLAでMSを分類することができ、多種多様な抗原と免疫反応が発症に関与していると考えられています。
北欧・北米での頻度は10万人に対して30〜80人ですが、アジア、アフリカ諸国では少なく、わが国では10万人に対して 1〜4人です。若年成人に多く発症し、発症年齢は、30歳前後をピークに、全症例の約 8割が15〜50歳で発症します。5歳以前と70歳以降の発症は稀です。男女比は 1:1.3〜3.2 で女性がやや多いです。
中枢神経白質の障害に基づく様々な症候が出現し(空間的多発)、しかもこれらが再発・寛解を繰り返す(時間的多発)のが特徴的です。多発性硬化症に特異的な症候はありませんが、視力障害、運動麻痺、感覚障害などが様々な組み合わせで出現してきます。初発時の発症形式は、急性・突発性で、約1週間以内に症状が完成します。
視力障害としては、視神経病巣により片側または両側の視力低下をきたします。視神経炎発症時には、眼球運動時痛を伴うことが多く、乳頭黄斑線維が障害されやすいため、中心視力の障害が強いです。特にアジア人では、視力障害が高度になりやすいのが特徴で、両側全盲となる場合もあります。
運動麻痺としては、通常は上位運動ニューロン(錐体路)障害による痙性麻痺の型をとります。腱反射は亢進し、Babinski反射やChaddock反射などの病的反射がみられます。病変の高位により、痙性片麻痺(内包などの障害)、痙性四肢麻痺(頸髄病巣)、痙性対麻痺(胸髄病巣)を呈します。
感覚障害としては、異常感覚(ジンジン感など)、感覚鈍麻などが様々な分布でみられます。脊髄病巣ではレベルのある感覚障害、大脳病巣では顔面を含む半身の感覚障害を呈することが多いです。
多発性硬化症の治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、急性期、寛解期の再発予防および対症療法に分けられます。
急性期には保険適用外であるがステロイドパルス療法が第1選択で、回復が不十分な場合、パルス療法の再施行か血漿交換(保険適用)を考慮します。急性期には体温上昇が症状の悪化を招くので、入浴は禁止し、発熱があれば解熱薬を投与します。
再発予防にはインターフェロンβが行われ、再発を30%減少させるといわれています。副作用としては、発熱、感冒様症状、注射部位の皮膚の発赤壊死、白血球減少、肝障害があります。
インターフェロンβが推奨され、国内ではベタフェロンが保険適用となっております。欧米では初発時から投与することが推奨されていますが、2年間に2回の再発または重篤な再発が1回あれば必ず投与します。
副作用が軽微で投与前に比べて再発の抑制があれば投与を継続します。再発が起きてパルス療法を施行する場合も、免疫抑制の増強効果が期待できるので投与は継続します。
このような治療が考えられ、主治医と相談の上、自身の症状や進行の具合から治療法を選択されてはいかがでしょうか。
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本当は怖い手のしびれ−多発性硬化症
5年前に「多発性硬化症」になりました。ここ2年は下半身まひの状態が続き、最近、全身の力が衰えてきました。主治医は経過観察でいいと言うのですが……。(45歳女性)
この相談に対して、国立精神・神経センター神経研究所免疫研究部長である山村隆先生は以下のようにお答えになっております。
多発性硬化症(MS)は、脳、脊髄(せきずい)、視神経のところどころに小さな炎症が多発する病気で、昔は治療法のない難病でした。
しかし、現在では治療薬の「インターフェロン・ベータ」、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、免疫抑制剤のほか、まだ試行段階ですが、血中の抗体を濾過(ろか)して除く「血液浄化療法」があり、それらを組み合わせれば、症状をかなり軽くできます。
質問者は、発病後3年で下半身にまひが出た重症例のようです。主治医は炎症が消えて病状が固定していると判断しているようですが、もし病状がじわじわと悪化しているようであれば、脳や脊髄の中で軽い炎症が持続している可能性があります。
これを「二次進行型多発性硬化症」と言います。
多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)とは、原因不明の中枢神経の炎症性脱髄性疾患です。大脳、小脳、脳幹、視神経など中枢神経組織の主に白質に多巣性の限局性脱髄性病変が生じます。
病因は不明ですが、自己免疫疾患説が有力です。臨床経過、病変部位、病理所見、HLAでMSを分類することができ、多種多様な抗原と免疫反応が発症に関与していると考えられています。
北欧・北米での頻度は10万人に対して30〜80人ですが、アジア、アフリカ諸国では少なく、わが国では10万人に対して 1〜4人です。若年成人に多く発症し、発症年齢は、30歳前後をピークに、全症例の約 8割が15〜50歳で発症します。5歳以前と70歳以降の発症は稀です。男女比は 1:1.3〜3.2 で女性がやや多いです。
中枢神経白質の障害に基づく様々な症候が出現し(空間的多発)、しかもこれらが再発・寛解を繰り返す(時間的多発)のが特徴的です。多発性硬化症に特異的な症候はありませんが、視力障害、運動麻痺、感覚障害などが様々な組み合わせで出現してきます。初発時の発症形式は、急性・突発性で、約1週間以内に症状が完成します。
視力障害としては、視神経病巣により片側または両側の視力低下をきたします。視神経炎発症時には、眼球運動時痛を伴うことが多く、乳頭黄斑線維が障害されやすいため、中心視力の障害が強いです。特にアジア人では、視力障害が高度になりやすいのが特徴で、両側全盲となる場合もあります。
運動麻痺としては、通常は上位運動ニューロン(錐体路)障害による痙性麻痺の型をとります。腱反射は亢進し、Babinski反射やChaddock反射などの病的反射がみられます。病変の高位により、痙性片麻痺(内包などの障害)、痙性四肢麻痺(頸髄病巣)、痙性対麻痺(胸髄病巣)を呈します。
感覚障害としては、異常感覚(ジンジン感など)、感覚鈍麻などが様々な分布でみられます。脊髄病巣ではレベルのある感覚障害、大脳病巣では顔面を含む半身の感覚障害を呈することが多いです。
多発性硬化症の治療
多発性硬化症の治療としては、以下のようなものがあります。
ステロイドや免疫抑制剤、インターフェロン・ベータで嫌な症状が軽くなることもあり、薬の副作用を過度に怖がる必要はないと思います。もし納得がいかなければ、診療経験が豊富な別の医師に意見を聞いてみてはいかがでしょうか。
質問者は脊髄炎の後遺症が強いので、多発性硬化症と症状がよく似た「視神経脊髄炎(NMO)」という別の病気でないか確認しておいた方が良いでしょう。
脊髄の磁気共鳴画像(MRI)で病変が映り、血液検査で「抗アクアポリン4」という抗体が陽性なら視神経脊髄炎で、インターフェロン・ベータは効きません。その場合は、ステロイドや血液浄化療法をお勧めします。
治療としては、急性期、寛解期の再発予防および対症療法に分けられます。
急性期には保険適用外であるがステロイドパルス療法が第1選択で、回復が不十分な場合、パルス療法の再施行か血漿交換(保険適用)を考慮します。急性期には体温上昇が症状の悪化を招くので、入浴は禁止し、発熱があれば解熱薬を投与します。
再発予防にはインターフェロンβが行われ、再発を30%減少させるといわれています。副作用としては、発熱、感冒様症状、注射部位の皮膚の発赤壊死、白血球減少、肝障害があります。
インターフェロンβが推奨され、国内ではベタフェロンが保険適用となっております。欧米では初発時から投与することが推奨されていますが、2年間に2回の再発または重篤な再発が1回あれば必ず投与します。
副作用が軽微で投与前に比べて再発の抑制があれば投与を継続します。再発が起きてパルス療法を施行する場合も、免疫抑制の増強効果が期待できるので投与は継続します。
このような治療が考えられ、主治医と相談の上、自身の症状や進行の具合から治療法を選択されてはいかがでしょうか。
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