糖尿病患者は740万人、予備軍を含めると1620万人。ひたすら増加を続ける糖尿病の怖さは、合併症である。「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」を3大合併症といい、糖尿病患者のうち約30%は糖尿病腎症を発症する。今回はその糖尿病腎症をとりあげる。

糖尿病は血液中の糖が過剰な高血糖状態で、これが続くと他の悪因子も関与して、腎臓で血液をろ過する糸球体が動脈硬化を起こす。すると、血液のろ過能力が低下し、全身の臓器に悪影響を与え、腎不全に進んでいく。

そして、20代の若くて健康な人の腎機能を100として、30を切ると腎不全と診断され、10を切ると「透析療法」が必要となる。

腎不全から透析に移行する患者の原因疾患で最も多いのは糖尿病腎症で、約40%を占めている。2006年時点で透析を受けている人は約27万人で、毎年約1万人ずつ増え続けている。

透析療法とは、いわゆる人工透析のことである。今は「血液透析(HD)」と「腹膜透析(PD)」が行われているものの、血液透析が約96%を占めている。

このような状態にある日本と比べ、米国では糖尿病から腎症へ移行する患者数が多少減少し始めている。米国では微量アルブミン尿検査が一般化。アルブミンというたんぱくがごくわずか尿に出る時期がある。ここを見逃さずに治療を徹底するからである。

糖尿病腎症は進行度によってI期からV期までの5段階に分けられる。微量アルブミン尿が出るのはII期の段階で、ここがターニングポイントになる。実際、都内の糖尿病腎症の治療に力を入れている病院では、II期の段階で受診したうち、その後の9年間でIIIB期(III期はAとBの2段階)まで進行した患者は、ほとんどいなかったという。なお、通常はIIIB期まで進むと、その後の平均7年間で約7割の患者が透析に移行する。

腎不全への進行を徹底的に抑える治療の最大ポイントは、2点。
1)血糖を徹底して下げる。
糖尿病の専門医と二人三脚で治療に専念することが大事だが、基本は自分自身による摂取カロリーのコントロール。

2)微量アルブミン尿と血圧を下げる。
腎臓の専門医と共に歩む。低たんぱく食を継続して実行するのは、糖尿病腎症II期の段階では難しいので、薬物療法が行われる。

使われるのは降圧薬の「ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬」「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」。効果のある人では、たんぱく尿がスパッとゼロにもなるという。
(糖尿病腎症)

糖尿病性腎症とは


糖尿病では全身の小血管に特徴的病変が生じ、細小血管症と呼ばれる病態を呈することが多いです。その細小血管症が腎臓に起こり、腎糸球体血管の病変によって引き起こされた病態が、「糖尿病性腎症」であると考えられています。

病期としては、
1期(腎症前期):正常アルブミン尿であり、病理学的にはびまん性変化なし〜軽度である。
2期(早期腎症):微量アルブミン尿(30mg/日以上)がみられ、病理学的にもびまん性変化がみられ、時に結節性あり。
3期(顕性腎症):持続性蛋白尿がみられるようになる。病理学的に、びまん性変化は中等度であり結節性あり。
4期(腎不全期):高窒素血症となる。病理学的には、荒廃糸球体がみられる。
5期(透析療法期):透析療法中
このように分類されます。

臨床的には、軽微なアルブミン尿(微量アルブミン尿)で始まり、蛋白尿、浮腫、高血圧、腎不全といった徴候を呈しつつ、最終的には末期腎不全(腎死)に陥ります。本症のため、透析療法に導入される患者さんの数は年々増加しており、原因疾患の第1位を占めるに至っています。

蛋白尿がみられ、これは、糸球体血管内圧の上昇(糸球体高血圧)ないしは血管壁の陰性荷電の減少のため、アルブミンを主体とした蛋白尿が出現することになります。

糸球体病変が進行すると血管壁の構造が破綻し、グロブリンのような高分子血漿蛋白も尿中に漏れ出てきます。また、尿細管における再吸収能の低下も一部関与しているとされています。

さらに、蛋白尿が高度となると血漿蛋白濃度が低下し、血管外への水分移動のため浮腫が生じます。腎機能障害、特に糸球体濾過機能の低下も水分の体内貯留を増やして浮腫を引き起こす原因となります。

また、腎症の病期が進行するにつれて高血圧の頻度が高くなることから、基本的には腎性の高血圧と考えられます。ただ、インスリン抵抗性、アルブミン尿、高血圧が共にインスリン抵抗性症候群の徴候であるとされているので、インスリン抵抗性と関連した血圧上昇の機序も否定はできません。

メサンギウム領域の拡大は隣接する糸球体血管の内腔を狭窄・閉塞するために、糸球体濾過のための表面積が次第に減少し、糸球体濾過値(GFR)が低下する。その結果、体内に窒素代謝産物(クレアチニン、BUNなど)が蓄積して腎不全が生じてきます。

糖尿病性腎症の治療


糖尿病性腎症の治療としては、以下のようなものがあります。
まず、高血圧や高血糖は腎症の増悪因子となるので、HbA1c6.5%未満、血圧130/85mmHg未満を目標とし、蛋白尿が1g/日を超える場合には125/75mmHg未満にコントロールすることが望ましいとされます。

第1期(腎症前期)では、微量アルブミン尿は陰性ですが、腎生検では腎症に特徴的な組織学的変化がみられることもあるので設けられた病期です。治療の基本は血糖と血圧のコントロールであり、糖尿病初期における患者教育の成否はその後の治療に大きく影響します。

第2期(早期腎症)では、微量アルブミン尿が陽性であるが腎機能は正常の時期であり、治療は血糖コントロールとともに血圧管理が重要です。糸球体内の高血圧を是正し微量アルブミン尿改善の目的で、正常血圧患者にさえもアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)あるいはアンジオテンシン?受容体拮抗薬(ARB)などの降圧薬を投与することもあります。

第3期(顕性腎症)では、試験紙法にて蛋白尿が持続的に出現し腎機能も低下してくる時期です。時にネフローゼ症候群となり浮腫がみられることもあります。血糖のコントロールには原則として経口血糖降下薬ではなくインスリンを使用します。血圧の調節に加え、浮腫がみられれば食塩制限(6g/日)を行い、また蛋白制限食(0.8g/kg体重/日、摂取カロリーは30cal/kg体重/日)も必要になります。

第4期(腎不全期)は、腎機能が中等度以上低下し、血清クレアチニンが上昇する時期です。低蛋白食(0.6g/kg体重/日、摂取カロリーは35cal/kg体重/日)が施行されるべきです。また腎性貧血や低カルシウム血症・高リン血症などがみられることもある。透析導入は非糖尿病性腎疾患に比べて早期に行う方が透析導入後の予後がよいとされています。

第5期(透析療法期)では、透析療法を施行していても、腎症に特徴的な合併症が多いことから設けられた病期です。特に難治性低血圧の頻度が高いです。

透析導入になる前に、「たかが糖尿病」などと高をくくって放置するのではなく、積極的に生活習慣の改善や治療に臨んでいただければ、と思われます。

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