読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
2年半前から幻聴が始まり、最近は「オレは隣人だ」などの男性の声が頻繁に聞こえて仕事が手につきません。心療内科の薬を飲みましたが治りません。(40歳女性)

この相談に対して、味酒心療内科の笠陽一郎先生は以下のようにお答えになっております。
幻聴は統合失調症の代表的な症状ですが、思春期から20代前半に発症するため、40代で発症したのであれば、統合失調症はまず除外されます。

幻聴は、他人の声が聞こえる典型的なものから、自分の考えが声となって聞こえる「思考化声」など、表れ方に大きな幅があります。聞こえる内容も、悪口が繰り返される被害妄想的なものから、あまり意味のない単語だけのもの、音楽や機械音などがあります。

原因も様々ですが、質問者の場合、女性の更年期に起こりやすい内分泌異常や、精神科などの処方薬、アルコールの影響などがまず考えられます。過剰な潔癖性などが表れる強迫性障害や、複数の自己を持つ解離性同一性障害などが背景にある人も、幻聴が起こることがあります。

また、対人関係を築きにくいアスペルガー症候群などの発達障害の人が、過剰なストレスを受けた時にも、幻聴のような症状が出現することが知られています。

幻聴とは、「人の声が耳元で聞こえる」など、実際には聞こえないはずの声を聴いたと体験する幻覚の一種です。

統合失調症をはじめ、非定型精神病、ヒステリー、SLE精神病、アルコールなどの中毒、てんかんなどの脳器質性精神障害、さらに、登山中の遭難などの限界状況、感覚遮断など、明らかな精神障害から正常者における特殊な状態まで、種々の病態でみられます。

統合失調症とは、思考・情動・意欲など人格全体に障害が及ぶ精神疾患を指します。妄想、幻覚、思考障害、緊張病症状、奇妙な行動などの陽性症状と、感情鈍麻、無感情、無欲、自閉、快感喪失などの陰性症状を示します。

いくつかの亜型があり、DSM-?やICD-10では診断基準が設けられ、妄想型、解体型、緊張型、鑑別不能型、残遺型の病型に分けられています。

症状としては、特に聴覚領域にみられる幻覚(幻聴)およびこれに対する本人の許容的態度がみられます。また、周囲で起こることに対する、自分に関係づけての奇妙な(多くは被害的な)意味づけ(妄想知覚)などもみられます。

幻覚について記載されている「Schneiderの一級症状」には、次のようなものがあります。
1)思考化声:自分の考えていることがそのまま声になって聞こえてくる。
2)対話性の幻聴:聞こえてくる声と対話が成立する。ただし、これにはもう1つのタイプがあり、自分のことを噂して話し合っている複数の声が聞こえてくる、という型もある。
3)自己の行為をそのつど批評する声
4)身体への被影響体験
5)思考奪取:自分の考えが抜き取られる。
6)感情面や意欲面への被影響体験など

これらの特徴をもった症状が現れます。

ほかにも、意志、感情、行動の領域における他者からの直接的な被影響体験、その他自分の精神の働きに、実体のない他者が介入すると体験される自我障害の徴候などがみられます。精神運動性興奮、昏迷、わざとらしい表情、姿勢など(緊張病症状)もみられます。

統合失調症の破瓜型、単純型は、思春期青年期に発症しやすいと言われています。そこで問題になるのは緩徐に進行する性格変化です。それまで、特にこれといって問題もなかった生徒、青年に、理由なしにいつとはなしにだらしがなく、無精になり、無責任となり、しかもそれらを一向に気にする様子もなく、成績が徐々に落ちていったり、仲間から孤立するようになったりの傾向が現れてきます。

上記のように、40歳代で突然に発症する、ということはやはり考えにくいように思われます。そこで、まずは内分泌疾患などの器質的な疾患を疑い、それらを精査によって除外する必要があるように思われます。

その後は、内服治療などで加療していくことが必要と考えられます。

治療については、以下のようなことが考えられます。
治療法や有効な薬の量はそれぞれ異なるため、原因をしっかり見極めることが大切です。

薬物治療では、幻覚、妄想を抑える抗精神病薬の服用が基本です。しかし、量が不十分では効かず、過剰に使うと、かえって症状が悪化する恐れもあります。

適切な薬の量は、体質によっても異なるので、主治医との粘り強い協力関係が欠かせません。治療を医師に丸投げせず、外来の度に、ご自分の状態を医師に正確に伝えることが大事です。

抗精神病薬には、定型抗精神病薬(上記の第1世代)および非定型抗精神病薬(上記の第2世代)などが用いられています。

主に、ドーパミンD2受容体拮抗作用を持つ抗精神病薬(日本では20数種類が使用できます)の投与が、陽性症状(幻聴が聞こえる、妄想にとらわれるといった健常な人には存在しない症状)を中心とした症状の軽減に有効であるとされています。

近年、従来の抗精神病薬よりも、副作用が少なく陰性症状にも有効性が高いなどの特徴をもった非定型抗精神病薬(第2世代)と呼ばれる新しいタイプの薬剤(リスペリドン、ペロスピロン、オランザピン、クエチアピン)が開発され、治療の主流になりつつあります。

具体的な治療法としては、抗精神病薬であるリスペリドン(リスパダール)、オランザピン(ジプレキサ)、塩酸ペロスピロン水和物(ルーラン)などが用いられます。効果が不十分な場合は、副作用に注意しながら至適用量まで増量していきます。

ただ、錐体外路性副作用(パーキンソン症候群、アカシジアなど)が出現した場合は、抗パーキンソン薬を追加投与するか、錐体外路性副作用の出現率が低いフマル酸クエチアピン(セロクエル)などに置換します。

不眠、不安・焦燥が強い場合は、ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬や抗不安薬などを併用します。

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