読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
38度前後の高熱と、ひどい頭痛、のどや耳、歯の痛みが10日以上続き、「亜急性甲状腺炎」と診断されました。どんな病気ですか。(40歳女性)

この相談に対し、群馬大病院内科教授である森昌朋先生は以下のようにお答えになっております。
甲状腺がウイルスに感染して炎症を起こし、一時的に甲状腺ホルモンが増える病気です。炎症により細胞が破壊され、細胞に蓄積されていた甲状腺ホルモンが血中に過度に放出されて症状が出ます。初期には質問者のように発熱があり、甲状腺のある、のど仏の下に痛みが出たりします。

多くは甲状腺が広範囲に腫れてきますが、中には腫瘍(しゅよう)のように腫れてくることもあり、その腫瘍が甲状腺内を移動することもあります。汗をかきやすい、動悸(どうき)がする、脈が速い、手が震える――などが症状の特徴で、イライラと神経質になったり、軟便・下痢になったりする人もいます。

血液検査では、炎症の指標となるCRPや、甲状腺ホルモンの値が上昇し、甲状腺細胞の破壊の有無が分かる「サイログロブリン」の数値も上昇します。

甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる「バセドウ病」や「無痛性甲状腺炎」、甲状腺腫瘍からホルモンを過剰分泌する「プランマー病」のほか、甲状腺ホルモンを含んだやせ薬の服用などでも似た症状が出ます。

特にバセドウ病には、亜急性甲状腺炎では服用してはいけない甲状腺ホルモンの働きを抑える薬が使われるため、しっかり区別する必要があります。


亜急性甲状腺炎とは


亜急性甲状腺炎は、肉芽腫性甲状腺炎あるいは本症の発表者の名前からde Quervain thyroiditis(ドゥ・ケルヴァン甲状腺炎)などとも呼ばれますが、亜急性甲状腺炎という名前が一般的です。

亜急性甲状腺炎とは、ウイルス感染によると考えられている甲状腺の炎症のため、甲状腺の腫大と圧痛をきたす疾患です。ちなみに、急性・亜急性・慢性甲状腺炎はそれぞれ別々の疾患で互いに移行することはありません。

ただ、ウイルス感染による甲状腺の炎症と考えられていますが、いまだ原因ウイルスは同定されていません。上気道感染などのウイルス感染と思われる前駆症状があることや、発症時期に季節性があること、無治療でも自然に治癒することなどがウイルス感染であることを示唆しています。

好発年齢は30〜50代で、男女比は1:3〜6で女性に多い(40歳代の女性が最も多い)です。HLA-Bw35と強い相関があるともいわれています。

症状としては、炎症による全身症状として、発熱(特に朝方は低く、夕方に上昇する弛張熱をきたすことが多い)がみられます。しばしば39〜40℃の高熱を認めます。また、他の感冒様症状を伴うことが多いです。

炎症による局所症状としては、前頸部痛および前頸部腫脹、特に、甲状腺部および甲状腺から下顎部、耳介後部にかけて放散する痛みがみられます。前頸部腫脹は甲状腺の腫脹によるものです。

通常、片葉に始まり次第に両葉に広がるため、一側性の腫脹のこともびまん性の腫脹のこともあります。腫脹部位の自発痛、圧痛が強いことが多いですが、稀にあまり痛みを訴えない例もあります。疼痛はしばしば反対側に移動します。

甲状腺機能亢進症による症状としては、動悸、息切れ、全身倦怠感、体重減少などがみられます。

甲状腺機能検査では、急性期には甲状腺機能亢進症となるため、血清freeT3および freeT4高値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)低値、サイログロブリン高値となります。

甲状腺放射性ヨード摂取率は 5%以下と著しく低下します。回復期では、血清freeT3および freeT4正常〜低値、TSH高値、サイログロブリン高値となりますが、その後すべて正常化します。

免疫血清検査としては、通常は甲状腺自己抗体は陰性です。稀に、抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体(抗ミクロソーム抗体)、TSHレセプター抗体などの一過性の軽度上昇を認めることがあります。

甲状腺超音波断層撮影では、腫脹・圧痛部位に一致して境界不鮮明な低エコー領域を認めます。甲状腺細胞診では、多核巨細胞や類上皮細胞を認められます。

亜急性甲状腺炎の治療

通常の治療では炎症を抑える薬を用います。症状が強い時はステロイド(副腎皮質ホルモン)で、効果や血液検査の結果を見ながら少しずつ減らしていきますが、服用を急にやめてしまうと約30%が再発します。

治療としては、上記のように 副腎皮質ステロイド剤を内服します。ただ、軽症例では消炎薬を投与します。具体的には、プレドニゾロン錠(5mg)を1日30mg を三回で内服します。翌日には症状消失します。1〜2週で20mgに減量し、その後1〜2週間ごとに5〜10mgずつ減量します。

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