英国のある女性は今年7月、店で購入したハンバーガーが原因とみられる食中毒にかかり、腎不全を引き起こすほどの重篤な状態に陥った。医師の判断で昏睡状態を保ったまま治療を続けていた女性に、夫は生まれたばかりの息子のビデオを病室で流し続けると、女性は驚くほどの回復を見せたという。
32歳のカレン・モリスロー・クラットンさんが食中毒にかかったのは7月下旬のこと。ウェールズ地方北部のレクサムにあるフィッシュ&チップスの店で、ベジタリアンバーガーを購入して食べたカレンさんは、その後体調を崩して病院に運ばれる。診断の結果はO157による食中毒。その頃同じ店が原因と思われる食中毒のケースがほかにもあり、中には3歳の女の子も含まれていたが、女の子は約2週間の入院を経て退院している。しかし、カレンさんは発作や腎不全を引き起こし、最も重篤な状態に陥った。
カレンさんは回復のスピードが遅く、昏睡状態にした上で治療。そうした状態が5週間余り続いたのだが、このとき、彼女は死を覚悟していたという。治療を続けても病状が回復しない状況に諦めの気持ちが大きくなり、「私は死にたかった」(英紙デイリー・メールより)と当時を振り返っている。しかし、弱い気持ちに包まれたカレンさんに、夫ポールさんと、当時生後10週あまりの息子オリバーくんの存在が勇気を与えた。
カレンさんを見舞うポールさんは、オリバーくんが生まれたばかりの頃のビデオを持参。ベッドの側で流し続けた。感染の危険性から直接会うことができなかった息子の声は、昏睡状態にあっても「聞こえた」とカレンさんは言う。そしてカレンさんは「オリーの声を聞いて、生きなきゃって思った」(英紙デイリー・テレグラフより)と、息子の存在が生きる希望へと繋がったそうだ。
その後は急激な回復を見せ、3週間後には一般病棟に移り、オリバーくんとも待望の対面。入院から67日後にカレンさんは無事退院し、現在は自宅で静養中。寝たきりの生活で筋肉が弱り、肝臓に軽い障害が残っているものの、そのほかはほぼ完全な状態に戻ったという。
(昏睡状態で聞いた「息子の声」が生きる希望に、急激に病状が快方へ向かう。)
腸管系感染症の原因菌の一種である腸管出血性大腸菌(EHEC;Enterohaemorrhagic Escherichia coli)O157:H7あるいはO157:H-による感染症を、O157大腸菌感染症といいます。同様の病気はO157血清型によるものが全体の60〜80%程度を占めますが、他の血清型(O26、O111、O145など)によるものもあります。
潜伏期は2〜9日と長い。発熱(38℃以下のことが多い)、悪心、嘔吐、腹痛、水様下痢、やや遅れて血性下痢が出現し、出血性大腸炎といわれる病態を示します。
こうした感染症の一部では、血小板減少症、溶血性貧血、尿毒症を三主徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併することがあります。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、乳幼児期〜学童期の急性腎不全の重要原因疾患の1つです。溶血性尿毒症症候群(HUS)は、腸管出血性大腸菌(VTEC)感染者の約1〜10%の症例に発症し、下痢あるいは発熱出現後4〜10日に発症します。
発症までの経過としては、腹痛や血便の経過中にHUSを合併してくるものと、いったん消化器症状が消失した後に、血液・尿検査で異常所見が遅れて出現してくるものがあります。
Vero(ベロ)毒素などによる内皮細胞傷害と、それに引き続く血管炎の発症、血小板の凝集による血栓形成の結果、血栓性微小血管障害を生じ、腎障害、脳症を発症します。
頭痛、意識障害、痙攣などの中枢神経障害(患者の1/4〜1/3に出現)、肝機能障害、胆石、膵炎、稀にDICを合併することがあります。急性期の死亡率は2〜5%といわれています。
腸管出血性大腸菌(VTEC)感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断基準は、臨床的には
の3主徴をもって診断します。
随伴症状としては、中枢神経症状などがあります。また、HUSの病初期から3主徴の症状がすべてみられるとは限らず、そのうえ全経過を通して3主徴がすべて揃うものと揃わないものがあります。揃わないものは予後良好なことが多いですが、3主徴が揃わない場合にも死亡例があります。
溶血性尿毒症症候群の治療としては、以下のようなものがあります。
32歳のカレン・モリスロー・クラットンさんが食中毒にかかったのは7月下旬のこと。ウェールズ地方北部のレクサムにあるフィッシュ&チップスの店で、ベジタリアンバーガーを購入して食べたカレンさんは、その後体調を崩して病院に運ばれる。診断の結果はO157による食中毒。その頃同じ店が原因と思われる食中毒のケースがほかにもあり、中には3歳の女の子も含まれていたが、女の子は約2週間の入院を経て退院している。しかし、カレンさんは発作や腎不全を引き起こし、最も重篤な状態に陥った。
カレンさんは回復のスピードが遅く、昏睡状態にした上で治療。そうした状態が5週間余り続いたのだが、このとき、彼女は死を覚悟していたという。治療を続けても病状が回復しない状況に諦めの気持ちが大きくなり、「私は死にたかった」(英紙デイリー・メールより)と当時を振り返っている。しかし、弱い気持ちに包まれたカレンさんに、夫ポールさんと、当時生後10週あまりの息子オリバーくんの存在が勇気を与えた。
カレンさんを見舞うポールさんは、オリバーくんが生まれたばかりの頃のビデオを持参。ベッドの側で流し続けた。感染の危険性から直接会うことができなかった息子の声は、昏睡状態にあっても「聞こえた」とカレンさんは言う。そしてカレンさんは「オリーの声を聞いて、生きなきゃって思った」(英紙デイリー・テレグラフより)と、息子の存在が生きる希望へと繋がったそうだ。
その後は急激な回復を見せ、3週間後には一般病棟に移り、オリバーくんとも待望の対面。入院から67日後にカレンさんは無事退院し、現在は自宅で静養中。寝たきりの生活で筋肉が弱り、肝臓に軽い障害が残っているものの、そのほかはほぼ完全な状態に戻ったという。
(昏睡状態で聞いた「息子の声」が生きる希望に、急激に病状が快方へ向かう。)
溶血性尿毒症症候群とは
腸管系感染症の原因菌の一種である腸管出血性大腸菌(EHEC;Enterohaemorrhagic Escherichia coli)O157:H7あるいはO157:H-による感染症を、O157大腸菌感染症といいます。同様の病気はO157血清型によるものが全体の60〜80%程度を占めますが、他の血清型(O26、O111、O145など)によるものもあります。
潜伏期は2〜9日と長い。発熱(38℃以下のことが多い)、悪心、嘔吐、腹痛、水様下痢、やや遅れて血性下痢が出現し、出血性大腸炎といわれる病態を示します。
こうした感染症の一部では、血小板減少症、溶血性貧血、尿毒症を三主徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併することがあります。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、乳幼児期〜学童期の急性腎不全の重要原因疾患の1つです。溶血性尿毒症症候群(HUS)は、腸管出血性大腸菌(VTEC)感染者の約1〜10%の症例に発症し、下痢あるいは発熱出現後4〜10日に発症します。
発症までの経過としては、腹痛や血便の経過中にHUSを合併してくるものと、いったん消化器症状が消失した後に、血液・尿検査で異常所見が遅れて出現してくるものがあります。
Vero(ベロ)毒素などによる内皮細胞傷害と、それに引き続く血管炎の発症、血小板の凝集による血栓形成の結果、血栓性微小血管障害を生じ、腎障害、脳症を発症します。
頭痛、意識障害、痙攣などの中枢神経障害(患者の1/4〜1/3に出現)、肝機能障害、胆石、膵炎、稀にDICを合併することがあります。急性期の死亡率は2〜5%といわれています。
溶血性尿毒症症候群の診断
腸管出血性大腸菌(VTEC)感染に伴う溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断基準は、臨床的には
1)溶血性貧血:破砕状赤血球を伴う貧血でHb10g/dL以下
2)血小板減少:血小板数10万/μL以下
3)急性腎機能障害:血清クレアチニン濃度が、年齢別基準値の97.5%値以上で、各個人の健常時の値の1.5倍以上の上昇
の3主徴をもって診断します。
随伴症状としては、中枢神経症状などがあります。また、HUSの病初期から3主徴の症状がすべてみられるとは限らず、そのうえ全経過を通して3主徴がすべて揃うものと揃わないものがあります。揃わないものは予後良好なことが多いですが、3主徴が揃わない場合にも死亡例があります。
溶血性尿毒症症候群の治療
溶血性尿毒症症候群の治療としては、以下のようなものがあります。
保存的療法(輸液、透析、高血圧に対する対応、輸血、場合によっては抗菌薬)が、治療の主体となり、全身管理を行います。
保存的療法としては、体液管理、電解質管理が重要になります。輸液過剰にならないように容量負荷、高血圧、血清Na値の変動に注意する必要があります。また、高K血症や低K血症を伴う場合があり、血清K値が3.0mEq/L未満にはKの補充を行います。
また、HUSでは、病初期には尿細管障害が出現しますが、その後急速に腎糸球体に障害が進展し、乏尿・無尿に至ることがあるので、血液透析開始の時期が遅れないように注意する必要があります。
血液透析の絶対的適応としては、無尿・乏尿、ほかの方法でコントロールできない溢水、高血圧、電解質異常、アシドーシスなどが挙げられます。
急性脳症に対する治療としては、痙攣に対しては、第1選択としてジアゼパム(セルシン )、第2選択としてフェニトイン(アレビアチン)を用います。脳浮腫に対しては、除水や容量負荷に注意しながらグリセオールを用います。
抗菌薬としては、病初期に1週間以内の短期間に限ってホスホマイシン(FOM)[16歳以上では、ノルフロキサシン(NFLX)なども〕を投与します。
その他、血漿交換療法、γ-グロブリン製剤、抗菌薬、抗血小板薬、プロスタグランジンI2、血漿輸注、ビタミンE、ハプトグロビンなどを用いることもあります。
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保存的療法としては、体液管理、電解質管理が重要になります。輸液過剰にならないように容量負荷、高血圧、血清Na値の変動に注意する必要があります。また、高K血症や低K血症を伴う場合があり、血清K値が3.0mEq/L未満にはKの補充を行います。
また、HUSでは、病初期には尿細管障害が出現しますが、その後急速に腎糸球体に障害が進展し、乏尿・無尿に至ることがあるので、血液透析開始の時期が遅れないように注意する必要があります。
血液透析の絶対的適応としては、無尿・乏尿、ほかの方法でコントロールできない溢水、高血圧、電解質異常、アシドーシスなどが挙げられます。
急性脳症に対する治療としては、痙攣に対しては、第1選択としてジアゼパム(セルシン )、第2選択としてフェニトイン(アレビアチン)を用います。脳浮腫に対しては、除水や容量負荷に注意しながらグリセオールを用います。
抗菌薬としては、病初期に1週間以内の短期間に限ってホスホマイシン(FOM)[16歳以上では、ノルフロキサシン(NFLX)なども〕を投与します。
その他、血漿交換療法、γ-グロブリン製剤、抗菌薬、抗血小板薬、プロスタグランジンI2、血漿輸注、ビタミンE、ハプトグロビンなどを用いることもあります。
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