白血病を克服し、この秋にはモナコでの海外公演も成功させた歌舞伎俳優、市川團十郎さん(63)。しかし、ここに至るまでには再発や2度に渡る移植手術という試練を乗り越えなくてはならなかった。
末梢(まっしょう)血幹細胞移植の手術後、貧血の症状が続き、妹(市川紅梅)から同種細胞移植をすることになりました。
お医者さまもかなり迷いがあったと思います。要するに結果はやってみないと分からない。前の移植では復帰時期に太鼓判を押してくれた先生が、「うーん」と二の足を踏んでいるわけですから。
発病時の病院に愛着がありましたが、家族が心配してセカンドオピニオンを頂いた方がいいということで、今お世話になっている病院に変わりました。そのお医者さまも自分の判断が正しいか他の医師に聞いたっていうんですから迷うケースだったんです。
今回はミニ移植といわれる方法で、前の移植と比べると前処置は遙かに楽です。抗がん剤は悪い部分も壊す代わりにいい部分も壊すわけですから、ある程度の年齢になると使い過ぎはよくない。前の移植は白血球がゼロになって初めて幹細胞を移植しましたが、ミニ移植は白血球がそこまで落ちないうちに移植するんです。ですから抗がん剤の量が少ない。それを補填(ほてん)するため放射線を当てるんですけれど、これはきついんです。
当てた後、ものすごく気持ち悪くなります。大きな機械で全身に放射するので、頭にも当たる。すると脳が腫れるんです。被曝された方は本当に大変だと思いました。移植後は拒絶反応でとにかくかゆい。発疹で赤くなったり、白くなったり、何か食べ物にあたってアレルギーになったような症状が続くわけです。
何かやっている方が気が紛れるので、ベッドで三升屋白治(みますやはくじ)の名で歌舞伎舞踊の脚本『黒谷(くろだに)』を書きました。市川家は初代團十郎が三升屋兵庫の名で色々な脚本を書いていますので、それをもじって。五代目團十郎は「先祖の真似しかできないから」と白猿の俳名を使った。その「白」をもらって白血病とかけて「治まる」。親父(おやじ)の本名は治雄ですので父の字も組み合わせ、そんな思いでペンネームにしました。
この治療で血液型がA型からO型に変わりましたが、今年1月の舞台で再々復帰できました。その後は大変順調です。10月の検診で、お医者さまが「移植に関することは終わった」とおっしゃってくださいました。ただ、どうしてもGVHD(移植片対宿主病)という免疫拒否反応がありますが、非常に低レベルで今は少し免疫抑制剤を使っています。方向とすればいい形で、拒否反応があることで新しい病気が出てくることはないわけです。
私の場合、大変早い舞台復帰だったんですけれども、病気より、まず「いつ舞台復帰できますか」という話ばかりするのでお医者さまも閉口したそうです。
私たちの仕事は「元気だから明日から舞台やります」ってわけにはいきません。出ると言って急に出られなくなったら、周りの方にものすごくご迷惑をおかけしますから、半年ぐらい前から準備して慎重にやったつもりです。そういう強い目標があったことは非常にラッキーでした。
治療も大事ですが、口内炎予防などは自分自身です。それを気をつければ体力の消耗もぐっと少ない。お医者さまだけがこの病気を治すんじゃなくて、そういう努力も必要だって痛切に感じます。
再び舞台に立てる身になって、お役に立てることがあればできるだけやらせて頂こうと思っています。今月の国立劇場の公演に、移植を経験された方やドナーの方をお招きしたのもその一つ。少しでもリフレッシュして頂ければ、こんなうれしいことはない。
同じ病をした者同士、移植治療はハードと分かっていますから、さぞかし辛いだろうなとか、それをくぐり抜けた感覚が言葉には出ないけれども分かります。災い転じて福となすというのか、病気をしたことで、みなさんと会う機会を頂きました。
(市川團十郎、自分自身も病気予防の努力 「舞台復帰」の目標を支えに)
白血病では、何らかの原因で、血液幹細胞のあるレベルで異常クローンが発生します(白血病化leukemic transformation)。そのクローンの白血球が無限に増殖した結果、正常血液細胞の増殖が抑制され、代わって末梢血中に通常は認められない白血球(白血病細胞)が出現してきます。
また、病状が進行すれば、骨髄をはじめとする全身諸臓器に白血病細胞の増殖浸潤を来すこともあります。赤血球減少による貧血症状、白血球、特に好中球減少による感染症状、血小板減少による出血症状と胎生期の造血組織である肝臓、脾臓やリンパ節への白血病細胞の浸潤による腫大などがみられてきます。
白血病細胞は、その発生母地から骨髄性とリンパ性に二大別されます。さらに、それぞれ細胞の未成熟なものを急性、成熟しているものを慢性と呼んでいます。
そのため、急性白血病の血液像は病的幼若白血球と少数の成熟細胞の2群からなり、両者の中間型が認められません(白血病裂孔)。これに対し、慢性白血病では白血病裂孔は認められず、少数の幼若細胞から成熟細胞まで各成熟段階の細胞が切れ目なく続いており、全体としてピラミッド型を示します。
急性白血病/慢性白血病の両者は臨床症状のうえでも相違が認められ、前者は比較的激烈であり、後者は比較的軽微となっています。
急性白血病の場合、急速に進行する貧血症状がみられます。明らかな出血部位のない場合、骨髄機能不全を考慮します。発熱や出血症状もみられ、下腿や衣類との摩擦部を中心に点状出血や紫斑が認められることもあります。これらの出血症状を認めたら、血算、PT、aPTT、フィブリノーゲンそしてFDPを測定します。
脾腫、肝腫、リンパ腫大、中枢神経症状などの臓器症状は、比較的発病から時間が経過した場合が多いです。歯肉の腫脹、皮膚浸潤や痔核(肛門部の浸潤)をみることもあります。
慢性骨髄性白血病では、白血球増多が進行すると、微熱、盗汗、体重減少がみられることがあります。慢性リンパ性白血病では、表在リンパ節の腫大で気づくことが多いです。ともに進行すると、脾腫が出現し、時に巨脾となります。
白血病の治療としては、以下のようなものがあります。
末梢(まっしょう)血幹細胞移植の手術後、貧血の症状が続き、妹(市川紅梅)から同種細胞移植をすることになりました。
お医者さまもかなり迷いがあったと思います。要するに結果はやってみないと分からない。前の移植では復帰時期に太鼓判を押してくれた先生が、「うーん」と二の足を踏んでいるわけですから。
発病時の病院に愛着がありましたが、家族が心配してセカンドオピニオンを頂いた方がいいということで、今お世話になっている病院に変わりました。そのお医者さまも自分の判断が正しいか他の医師に聞いたっていうんですから迷うケースだったんです。
今回はミニ移植といわれる方法で、前の移植と比べると前処置は遙かに楽です。抗がん剤は悪い部分も壊す代わりにいい部分も壊すわけですから、ある程度の年齢になると使い過ぎはよくない。前の移植は白血球がゼロになって初めて幹細胞を移植しましたが、ミニ移植は白血球がそこまで落ちないうちに移植するんです。ですから抗がん剤の量が少ない。それを補填(ほてん)するため放射線を当てるんですけれど、これはきついんです。
当てた後、ものすごく気持ち悪くなります。大きな機械で全身に放射するので、頭にも当たる。すると脳が腫れるんです。被曝された方は本当に大変だと思いました。移植後は拒絶反応でとにかくかゆい。発疹で赤くなったり、白くなったり、何か食べ物にあたってアレルギーになったような症状が続くわけです。
何かやっている方が気が紛れるので、ベッドで三升屋白治(みますやはくじ)の名で歌舞伎舞踊の脚本『黒谷(くろだに)』を書きました。市川家は初代團十郎が三升屋兵庫の名で色々な脚本を書いていますので、それをもじって。五代目團十郎は「先祖の真似しかできないから」と白猿の俳名を使った。その「白」をもらって白血病とかけて「治まる」。親父(おやじ)の本名は治雄ですので父の字も組み合わせ、そんな思いでペンネームにしました。
この治療で血液型がA型からO型に変わりましたが、今年1月の舞台で再々復帰できました。その後は大変順調です。10月の検診で、お医者さまが「移植に関することは終わった」とおっしゃってくださいました。ただ、どうしてもGVHD(移植片対宿主病)という免疫拒否反応がありますが、非常に低レベルで今は少し免疫抑制剤を使っています。方向とすればいい形で、拒否反応があることで新しい病気が出てくることはないわけです。
私の場合、大変早い舞台復帰だったんですけれども、病気より、まず「いつ舞台復帰できますか」という話ばかりするのでお医者さまも閉口したそうです。
私たちの仕事は「元気だから明日から舞台やります」ってわけにはいきません。出ると言って急に出られなくなったら、周りの方にものすごくご迷惑をおかけしますから、半年ぐらい前から準備して慎重にやったつもりです。そういう強い目標があったことは非常にラッキーでした。
治療も大事ですが、口内炎予防などは自分自身です。それを気をつければ体力の消耗もぐっと少ない。お医者さまだけがこの病気を治すんじゃなくて、そういう努力も必要だって痛切に感じます。
再び舞台に立てる身になって、お役に立てることがあればできるだけやらせて頂こうと思っています。今月の国立劇場の公演に、移植を経験された方やドナーの方をお招きしたのもその一つ。少しでもリフレッシュして頂ければ、こんなうれしいことはない。
同じ病をした者同士、移植治療はハードと分かっていますから、さぞかし辛いだろうなとか、それをくぐり抜けた感覚が言葉には出ないけれども分かります。災い転じて福となすというのか、病気をしたことで、みなさんと会う機会を頂きました。
(市川團十郎、自分自身も病気予防の努力 「舞台復帰」の目標を支えに)
白血病とは
白血病では、何らかの原因で、血液幹細胞のあるレベルで異常クローンが発生します(白血病化leukemic transformation)。そのクローンの白血球が無限に増殖した結果、正常血液細胞の増殖が抑制され、代わって末梢血中に通常は認められない白血球(白血病細胞)が出現してきます。
また、病状が進行すれば、骨髄をはじめとする全身諸臓器に白血病細胞の増殖浸潤を来すこともあります。赤血球減少による貧血症状、白血球、特に好中球減少による感染症状、血小板減少による出血症状と胎生期の造血組織である肝臓、脾臓やリンパ節への白血病細胞の浸潤による腫大などがみられてきます。
白血病細胞は、その発生母地から骨髄性とリンパ性に二大別されます。さらに、それぞれ細胞の未成熟なものを急性、成熟しているものを慢性と呼んでいます。
そのため、急性白血病の血液像は病的幼若白血球と少数の成熟細胞の2群からなり、両者の中間型が認められません(白血病裂孔)。これに対し、慢性白血病では白血病裂孔は認められず、少数の幼若細胞から成熟細胞まで各成熟段階の細胞が切れ目なく続いており、全体としてピラミッド型を示します。
急性白血病/慢性白血病の両者は臨床症状のうえでも相違が認められ、前者は比較的激烈であり、後者は比較的軽微となっています。
急性白血病の場合、急速に進行する貧血症状がみられます。明らかな出血部位のない場合、骨髄機能不全を考慮します。発熱や出血症状もみられ、下腿や衣類との摩擦部を中心に点状出血や紫斑が認められることもあります。これらの出血症状を認めたら、血算、PT、aPTT、フィブリノーゲンそしてFDPを測定します。
脾腫、肝腫、リンパ腫大、中枢神経症状などの臓器症状は、比較的発病から時間が経過した場合が多いです。歯肉の腫脹、皮膚浸潤や痔核(肛門部の浸潤)をみることもあります。
慢性骨髄性白血病では、白血球増多が進行すると、微熱、盗汗、体重減少がみられることがあります。慢性リンパ性白血病では、表在リンパ節の腫大で気づくことが多いです。ともに進行すると、脾腫が出現し、時に巨脾となります。
白血病の治療
白血病の治療としては、以下のようなものがあります。
白血病の治療の基本としては、最終的に白血病細胞をすべて根絶する“total cell kill”にあります。そのため、まず寛解導入療法で発症時10の12乗個存在するとされる白血病細胞を、10の9乗個程度に減少させ、完全寛解を目指す寛解導入療法、次いで地固め・維持療法から成る寛解後療法を複数回行い、白血病細胞の根絶を図ります。
寛解とは、永続的一時的を問わず、病気による症状が好転または消失することを指します。つまり、一般的な意味で完治せずとも、臨床的に「問題ない程度」にまで状態がよくなることを指します。
白血病の場合は、検査で白血病細胞が検出されない状態を指しているわけです。特に、完全寛解状態という、骨髄中の白血病細胞が5%以下で、かつ末梢血・骨髄が正常化した状態をいうこともあります。故に、再発してしまうこともあります。
寛解後早期には、地固め療法が行われることもあり、有効性が認められているようです。地固め療法は、寛解導入療法で使用された同じ薬剤の組み合わせで行われることが最も多いです。最近では、シトシンアラビノシド(CA)の大量療法が試みられ、有用性が確認されつつあります。
市川さんのケースでは、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia;APL)であったそうです。急性骨髄性白血病の中でも、急性前骨髄球性白血病の寛解導入には、ATRA(ベサノイド)による分化誘導療法が用いられています。
ATRAによる分化誘導療法は、今日ではAPLに特異的なt(15;17)の結果生ずるPML-RARαキメラ遺伝子を標的にした分子標的療法と考えられています。寛解に到達した後は、地固め療法を行いPML-RARαキメラ遺伝子を指標としてATRAあるいは新規誘導体Am80(アムノレイク)による維持療法を行います。
寛解後療法にもベサノイド単独あるいは化学療法と併用したほうが、再発率は低く長期成績も良いとされています。
上記では末梢血幹細胞移植を行った、とありますが、末梢血幹細胞移植とは、末梢血から採取した、血液細胞を作る幹細胞を移植片として行う造血幹細胞移植法です。骨髄移植と同様に、難治性血液疾患や、抗癌薬に反応する固形癌が主な適応となります。
末梢静脈血中の幹細胞数は骨髄の約1/100と少ないですが、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)投与により、あるいは癌化学療法後の造血回復期には骨髄から末梢血に動員され一過性に骨髄と同程度にまで著増します。
この時期に献血用の成分分離装置で造血幹細胞を採取し、骨髄の代わりに移植するものです。なんといっても利点としてはドナーの負担が少なく、造血回復が早い、移植する幹細胞数を制御できるなどの理由で骨髄移植に代わる第二世代の造血幹細胞移植法になりつつあります。
市川さんのケースでは、まず自家末梢血幹細胞移植を行ったそうです。自分の幹細胞を用いて行う自家末梢血幹細胞移植は、一部の白血病やリンパ腫にも必要な治療法になりましたが、抗白血病効果が少ないため再発予防が課題でもあります。
その後、妹さんの血液により、同種末梢血幹細胞移植が行われたそうです。HLA型が一致したドナーからの同種末梢血幹細胞移植は、同種骨髄移植と同程度の優れた治療効果が得られますが、慢性移植片対宿主病(GVHD)が高率に合併するともいわれています。
再発の心配もゼロであるとは言えないというなかで、日々を懸命に過ごしていらっしゃるようです。これからもご自愛なさりながら、すばらしい舞台をつづけていただけたら、と思われます。
【関連記事】
白血病で闘病、亡くなっていた−マリー・トラバースさん
急性骨髄性白血病で治療していた−ノブハヤシさん
寛解とは、永続的一時的を問わず、病気による症状が好転または消失することを指します。つまり、一般的な意味で完治せずとも、臨床的に「問題ない程度」にまで状態がよくなることを指します。
白血病の場合は、検査で白血病細胞が検出されない状態を指しているわけです。特に、完全寛解状態という、骨髄中の白血病細胞が5%以下で、かつ末梢血・骨髄が正常化した状態をいうこともあります。故に、再発してしまうこともあります。
寛解後早期には、地固め療法が行われることもあり、有効性が認められているようです。地固め療法は、寛解導入療法で使用された同じ薬剤の組み合わせで行われることが最も多いです。最近では、シトシンアラビノシド(CA)の大量療法が試みられ、有用性が確認されつつあります。
市川さんのケースでは、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia;APL)であったそうです。急性骨髄性白血病の中でも、急性前骨髄球性白血病の寛解導入には、ATRA(ベサノイド)による分化誘導療法が用いられています。
ATRAによる分化誘導療法は、今日ではAPLに特異的なt(15;17)の結果生ずるPML-RARαキメラ遺伝子を標的にした分子標的療法と考えられています。寛解に到達した後は、地固め療法を行いPML-RARαキメラ遺伝子を指標としてATRAあるいは新規誘導体Am80(アムノレイク)による維持療法を行います。
寛解後療法にもベサノイド単独あるいは化学療法と併用したほうが、再発率は低く長期成績も良いとされています。
上記では末梢血幹細胞移植を行った、とありますが、末梢血幹細胞移植とは、末梢血から採取した、血液細胞を作る幹細胞を移植片として行う造血幹細胞移植法です。骨髄移植と同様に、難治性血液疾患や、抗癌薬に反応する固形癌が主な適応となります。
末梢静脈血中の幹細胞数は骨髄の約1/100と少ないですが、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)投与により、あるいは癌化学療法後の造血回復期には骨髄から末梢血に動員され一過性に骨髄と同程度にまで著増します。
この時期に献血用の成分分離装置で造血幹細胞を採取し、骨髄の代わりに移植するものです。なんといっても利点としてはドナーの負担が少なく、造血回復が早い、移植する幹細胞数を制御できるなどの理由で骨髄移植に代わる第二世代の造血幹細胞移植法になりつつあります。
市川さんのケースでは、まず自家末梢血幹細胞移植を行ったそうです。自分の幹細胞を用いて行う自家末梢血幹細胞移植は、一部の白血病やリンパ腫にも必要な治療法になりましたが、抗白血病効果が少ないため再発予防が課題でもあります。
その後、妹さんの血液により、同種末梢血幹細胞移植が行われたそうです。HLA型が一致したドナーからの同種末梢血幹細胞移植は、同種骨髄移植と同程度の優れた治療効果が得られますが、慢性移植片対宿主病(GVHD)が高率に合併するともいわれています。
再発の心配もゼロであるとは言えないというなかで、日々を懸命に過ごしていらっしゃるようです。これからもご自愛なさりながら、すばらしい舞台をつづけていただけたら、と思われます。
【関連記事】
白血病で闘病、亡くなっていた−マリー・トラバースさん
急性骨髄性白血病で治療していた−ノブハヤシさん