読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
全身の痛みが数年間続き、眠れない時もあり、かかりつけ医に「リウマチ性多発筋痛症じゃないか」と言われました。検査はまだです。何科を受診すればよいですか。(69歳女性)

この相談に対して、東邦大医療センター大森病院リウマチ膠原病センター長である川合真一先生は、以下のようにお答えになっています。
リウマチ性多発筋痛症は、リウマチという名前が付いていますが、関節が壊れることもある関節リウマチとは全く違う病気です。原因は不明ですが、高齢者に多く、首、肩、腰、太もものほか、時に胴体の筋肉の痛みや、こわばりが続き、関節痛や微熱、不眠などがみられることがあります。

単なる筋肉痛や関節リウマチと診断されて鎮痛薬などが処方され、いくつかの病院や診療所、鍼灸院などを転々としている患者さんも少なくありません。

しかし、この病気を念頭に、特徴的な症状や、血液中の炎症反応の上昇などを総合的に見れば、比較的容易に診断がつき、ほとんどが薬で治ります。医師や一般の方に正しく理解されることが大切です。

リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica;PMR)とは、高齢者にみられる、体幹近位筋群の激しい痛みとこわばりを主症状とする炎症性疾患です。現在の所、原因は不明です。

多くの症例は65歳以上で発症し、男女比は1:2で女性に多いです。主症状は全身の筋肉の痛みとこわばりがみられます。特に、体幹近位部の上肢帯、下肢帯がよく侵され、朝のこわばりもみられます。

全身倦怠感、微熱、食欲低下などの前駆症状に続き1-2週間のうちに症状が完成することが多いです。しばしば抑うつ状態がみられます。

検査では赤沈やCRPの著明な亢進がみられ、治療反応性の良い指標となります。関節炎や筋炎の所見はなく、リウマトイド因子や抗核抗体は陰性で、筋原性酵素は正常です。

リウマチ性多発筋痛症の約30%に側頭動脈炎を合併するとされ、その際には頭痛、視力障害、顎跛行を呈しますが、本邦では合併は少ないです。一方、側頭動脈炎の約50%にPMRの合併がみられ、PMRと側頭動脈炎は類縁の疾患と考えられています。側頭動脈炎の診断には浅側頭動脈の生検が必要です。

リウマチ性多発筋痛症の診断


上記のような症状を疑い(特に60歳以上の高齢者が、筋肉痛とこわばりを訴えた場合に疑う)、診断基準に照らし合わせて診断を行います。リウマチ性多発筋痛症の診断は、Birdらの基準が用いられます。
1)両肩の疼痛・こわばり
2)急性発症(2週間以内)
3)赤沈亢進(≧40mm/時)
4)朝のこわばり(≧1時間)
5)高齢(≧65歳)
6)抑うつ状態・体重減少
7)両側上腕筋の圧痛
これのうち
・3項目以上ある場合
・1項目以上と側頭動脈の異常所見がある場合
・疑診例でもステロイド剤の有効な場合
これらの場合は、確診例と診断される。


リウマチ性多発筋痛症の症状・所見は、非特異的であるため除外診断が必要で、時に高齢発症の早期関節リウマチとの鑑別が困難な時があります。また、リウマチ性多発筋痛症が腫瘍随伴症候群として発現することがあり、特にステロイド剤への反応性の悪い例(非定型PMR)では注意を要します。

リウマチ性多発筋痛症の治療


リウマチ性多発筋痛症の治療としては、以下のようなものがあります。
治療は多くの場合、比較的少量のステロイド(副腎皮質ホルモン)が使われ、すぐに良くなります。ただ、完治して薬が必要なくなるまでに2年くらいの期間がかかりますので、焦りは禁物です。一部の難治性の患者さんには関節リウマチの治療にも使われる免疫抑制剤「メトトレキサート」などが処方されます。

一般的に、この病気は単独で起こりますが、中には側頭動脈炎と呼ばれる膠原病や、がんを伴うことがあります。その理由は分かっていませんが、注意して診察する必要があります。また、一部の症状が関節リウマチ、多発性筋炎、線維筋痛症など別の病気と似ていることもありますので、リウマチの専門医を受診することをお勧めします。

少量のステロイド剤が劇的に奏効し、逆にステロイド剤の効果をもってリウマチ性多発筋痛症の診断がなされることもあります。

プレドニゾロン10〜20mg/日が著効を示し、翌日または1週間以内に疼痛は消失するといわれています。その後は、臨床症状(-)やCRP(-)を指標にステロイド剤を漸減します。減量が早すぎると再燃することが多いので、5mg/日程度の維持量を1〜2年間続けることが多いです。

ただ、閉経後の女性ではステロイド剤の副作用による骨粗鬆症を予防するためにビスホスホネート製剤の併用が望ましいといわれています。

側頭動脈炎を合併している場合、大量のステロイド剤が必要となります。プレドニゾロン50〜60mg/日を投与します。特に眼症状を有する症例では失明に至る危険があり、生検の結果を待たずにステロイド剤の大量投与となります。副作用として、胃潰瘍の予防に努める必要があります。

まずは、鑑別診断を行う必要もあり、リウマチなど膠原病の専門医を受診する必要があると考えられます。

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