読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、市立札幌病院眼科部長である竹田宗泰先生は以下のようにお答えになっています。
網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion;BRVO)とは、網膜静脈の分枝に閉塞が起こり、扇状、火焔状の網膜表層出血、網膜浮腫を来す疾患です。
閉塞は動静脈の交差部に起こることが多く、閉塞領域が黄斑部に及んだ場合や黄斑浮腫を合併した際には、視力障害、視野障害を自覚するようになります。
原因としては、高血圧が危険因子となります。これは、網膜の動静脈が交差する部位は血管壁が共通であるために動脈硬化が静脈に波及しやすいからといわれています。また、交叉現象は上耳側に生じやすいため、本症は上耳側静脈域に好発します。
病態としては、動静脈交叉が多い上耳側静脈域の出血が多く、閉塞部位の末梢側で静脈が拡張して透過性が亢進し、出血や浮腫を生じ、綿花様白斑を生じます。この際生じた出血は、数ヶ月で出血は吸収されます。
静脈は白線化し、硬性白斑が残る網膜静脈分枝閉塞症では動静脈交叉にて静脈の閉塞と出血が生じるとともに、それより末梢では毛細血管が閉塞して無血管野となります。こうした病態には、動静脈交叉現象が関係していると考えられています。
動静脈交叉現象とは、高血圧性網膜症において、動静脈はその交叉部において外膜を共有しているために動脈壁が肥厚すると静脈が圧迫されて閉塞します。これより抹消では血液の鬱滞と出血が生じます。交叉現象は上耳側に多いとされています。このため、上記のとおりの好発部位が生じると考えられます。
無血管野領域とは、出血を来たした部位の網膜は毛細血管が閉塞し、のちに無血管野となるとされる。無血管野からは新生血管が増生することになります。
網膜静脈閉塞症のリスクファクターとしては、以下のような既往歴患者が当てはまるとされています。すなわち、緑内障(眼圧異常)、糖尿病、高血圧、血液疾患があります。合併症としては、硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離があります。
症状としては、霧視感が網膜静脈閉塞症の主たるものになります。これは黄斑部に液の過剰漏出が起こるためです。黄斑部とは網膜の中心であり、中心視力に関係する。黄斑部が過剰の漏出で腫れたら、かすんで見にくくなります。
飛蚊症も起こり、これは視界をさえぎる暗い点状の影です。網膜血管が正常に働かない時、網膜には異常血管(新生血管)が生えてきますが、これは破壊しやすいため、硝子体の中へ血液やその他の液性成分が漏出し、結果、飛蚊症の原因となります。
眼痛も起こることがあります。高度の網膜中心静脈閉塞症にときどき起こります。これは血管新生緑内障と呼ばれ、眼圧が著しく高くなるために起こり得ます。
検査としては、眼底を診察の後、血液検査や蛍光眼底検査を行う。蛍光眼底検査では、眼底の血管からの色素の漏出や血管の閉塞を調べる。また、潜在する全身疾患の状態を知るため、内科受診を勧める場合があります。
網膜静脈分枝閉塞症の治療としては、以下のようなものがあります。
現在の所は、網膜静脈閉塞症の根本的な治療はありません。出血や液性成分の漏出は自然に消退するため、眼科医は適当な間隔での経過観察を勧めることとなります。
進行状況によっては、レーザー治療などを行います。これは、硝子体出血や血管新生緑内障の予防のために行います。これらが一旦起こった状態では、レーザー治療で出血を軽減させたり、眼圧を降下させることは不可能である。そこで、硝子体出血や血管新生緑内障の危険がある患者にはこれらが起こる前にレーザー治療を行うことが有用であるとされています。
すなわち、無血管野領域に対して行ない、新生血管の増生を抑制します。また、ステロイドが乳頭静脈周囲炎に有効であるともされているため、薬物治療を行うこともあります。
また、合併症である硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離に対しても治療が必要となることがある。これらに関しては、網膜硝子体手術である、1) レーザー光凝固 2) 強膜内陥術 3) 硝子体手術などを行います。
新生血管抑制のため、アバスチン(一般名 ベバシツマブBevacizumab)を用いることもあります。アバスチンとは、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)という蛋白質を抑制するモノクローナル抗体です。
VEGFは、強力な腫瘍などの血管新生因子であるといわれており、VEGFはその受容体が血管内皮細胞表面に特異的に存在していて、なおかつ多種の腫瘍細胞で発現しているので、最も重要な血管新生因子と考えられています。
つまり、血管の細胞を増殖させる働きを持っており、VEGFの分泌が起こる部位に血管が伸びたり、新しい血管が形成されます(この現象を血管新生といいます)。
上記のように、まずはしっかりと検査を行い、その上で眼科医と相談し、どのような治療を行うか決定することが重要であると思われます。場合によっては、セカンドオピニオンを求めることもいいかもしれません。
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視力低下などの症状を訴える46歳女性−中心性漿液性脈絡網膜症
眼科レポート「網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)について」
右目の視力が0・1まで下がり、医療機関を受診したところ、「網膜静脈分枝閉塞症」と診断されました。どのような病気ですか。(79歳男性)
この相談に対して、市立札幌病院眼科部長である竹田宗泰先生は以下のようにお答えになっています。
目に入った光が焦点を結ぶ膜を網膜と言い、そこの静脈が詰まる病気を「網膜静脈閉塞症」と言います。静脈は枝分かれしていて、その部分が詰まるのが「網膜静脈分枝閉塞症」です。
静脈が詰まると、そこまで流れてきた血液がたまって出血し、網膜に浮腫が生じます。網膜の中心にある「黄斑」にまで浮腫が及ぶと、視力低下やゆがみなどの症状が出ます。
また、太い静脈が詰まると、網膜が酸素不足になり、新しい血管が発生します。この血管は細くてもろく、そこから眼球内部の硝子体に出血したり、網膜剥離を起こしたりします。
主な原因は動脈硬化です。生活習慣の改善や服薬により、血圧やコレステロール、また、糖尿病の場合は血糖値を管理することが必要です。その上で、いくつかの治療法があります。
網膜静脈分枝閉塞症とは
網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion;BRVO)とは、網膜静脈の分枝に閉塞が起こり、扇状、火焔状の網膜表層出血、網膜浮腫を来す疾患です。
閉塞は動静脈の交差部に起こることが多く、閉塞領域が黄斑部に及んだ場合や黄斑浮腫を合併した際には、視力障害、視野障害を自覚するようになります。
原因としては、高血圧が危険因子となります。これは、網膜の動静脈が交差する部位は血管壁が共通であるために動脈硬化が静脈に波及しやすいからといわれています。また、交叉現象は上耳側に生じやすいため、本症は上耳側静脈域に好発します。
病態としては、動静脈交叉が多い上耳側静脈域の出血が多く、閉塞部位の末梢側で静脈が拡張して透過性が亢進し、出血や浮腫を生じ、綿花様白斑を生じます。この際生じた出血は、数ヶ月で出血は吸収されます。
静脈は白線化し、硬性白斑が残る網膜静脈分枝閉塞症では動静脈交叉にて静脈の閉塞と出血が生じるとともに、それより末梢では毛細血管が閉塞して無血管野となります。こうした病態には、動静脈交叉現象が関係していると考えられています。
動静脈交叉現象とは、高血圧性網膜症において、動静脈はその交叉部において外膜を共有しているために動脈壁が肥厚すると静脈が圧迫されて閉塞します。これより抹消では血液の鬱滞と出血が生じます。交叉現象は上耳側に多いとされています。このため、上記のとおりの好発部位が生じると考えられます。
無血管野領域とは、出血を来たした部位の網膜は毛細血管が閉塞し、のちに無血管野となるとされる。無血管野からは新生血管が増生することになります。
網膜静脈閉塞症のリスクファクターとしては、以下のような既往歴患者が当てはまるとされています。すなわち、緑内障(眼圧異常)、糖尿病、高血圧、血液疾患があります。合併症としては、硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離があります。
網膜静脈分枝閉塞症の診断
症状としては、霧視感が網膜静脈閉塞症の主たるものになります。これは黄斑部に液の過剰漏出が起こるためです。黄斑部とは網膜の中心であり、中心視力に関係する。黄斑部が過剰の漏出で腫れたら、かすんで見にくくなります。
飛蚊症も起こり、これは視界をさえぎる暗い点状の影です。網膜血管が正常に働かない時、網膜には異常血管(新生血管)が生えてきますが、これは破壊しやすいため、硝子体の中へ血液やその他の液性成分が漏出し、結果、飛蚊症の原因となります。
眼痛も起こることがあります。高度の網膜中心静脈閉塞症にときどき起こります。これは血管新生緑内障と呼ばれ、眼圧が著しく高くなるために起こり得ます。
検査としては、眼底を診察の後、血液検査や蛍光眼底検査を行う。蛍光眼底検査では、眼底の血管からの色素の漏出や血管の閉塞を調べる。また、潜在する全身疾患の状態を知るため、内科受診を勧める場合があります。
網膜静脈分枝閉塞症の治療
網膜静脈分枝閉塞症の治療としては、以下のようなものがあります。
まず、強いレーザー光を網膜に照射し、網膜にやけどを作る治療です。新しい血管の発生や黄斑部の浮腫を抑えるのに効果的です。
また、黄斑浮腫や網膜剥離を起こしている場合、硝子体を切り取り、網膜を元の位置に戻す手術が効果的である場合があります。
さらに、新しい血管の発生を抑える薬を目に注射し、黄斑の浮腫を抑える治療法もあります。ただ、保険は適用されません。
相談者は、視力が0・1とかなり低下しており、治療が必要です。閉塞部分や浮腫の状態、発病の時期、経過などで治療法は異なります。主治医と相談し、最善の治療を行ってください。
現在の所は、網膜静脈閉塞症の根本的な治療はありません。出血や液性成分の漏出は自然に消退するため、眼科医は適当な間隔での経過観察を勧めることとなります。
進行状況によっては、レーザー治療などを行います。これは、硝子体出血や血管新生緑内障の予防のために行います。これらが一旦起こった状態では、レーザー治療で出血を軽減させたり、眼圧を降下させることは不可能である。そこで、硝子体出血や血管新生緑内障の危険がある患者にはこれらが起こる前にレーザー治療を行うことが有用であるとされています。
すなわち、無血管野領域に対して行ない、新生血管の増生を抑制します。また、ステロイドが乳頭静脈周囲炎に有効であるともされているため、薬物治療を行うこともあります。
また、合併症である硝子体出血、血管新生緑内障、網膜剥離に対しても治療が必要となることがある。これらに関しては、網膜硝子体手術である、1) レーザー光凝固 2) 強膜内陥術 3) 硝子体手術などを行います。
新生血管抑制のため、アバスチン(一般名 ベバシツマブBevacizumab)を用いることもあります。アバスチンとは、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)という蛋白質を抑制するモノクローナル抗体です。
VEGFは、強力な腫瘍などの血管新生因子であるといわれており、VEGFはその受容体が血管内皮細胞表面に特異的に存在していて、なおかつ多種の腫瘍細胞で発現しているので、最も重要な血管新生因子と考えられています。
つまり、血管の細胞を増殖させる働きを持っており、VEGFの分泌が起こる部位に血管が伸びたり、新しい血管が形成されます(この現象を血管新生といいます)。
上記のように、まずはしっかりと検査を行い、その上で眼科医と相談し、どのような治療を行うか決定することが重要であると思われます。場合によっては、セカンドオピニオンを求めることもいいかもしれません。
【関連記事】
視力低下などの症状を訴える46歳女性−中心性漿液性脈絡網膜症
眼科レポート「網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)について」