読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
歩くと足が痛み、「閉塞性動脈硬化症」と診断されました。当初、足の親指が、壊死しそうな状態と言われました。血流をよくするため自転車に乗っていますが、今後、どうしたらいいですか。(61歳男性)

この相談に対して、社会保険小倉記念病院・血管外科副部長である隈宗晴先生は、以下のようにお答えになっています。
閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化により、主に下肢の動脈が狭くなったり詰まったりし、血流が悪くなる病気です。

症状は、血流の程度により、軽い順に、症状がない(1度)、歩くと痛み休むと治る(2度)、じっとしていても痛い(3度)、潰瘍(かいよう)や壊死を起こす(4度)の4段階に分けられます。

質問者は、相談の内容から4度だと考えられます。足の切断が必要になる恐れがあり、血流を改善させる治療が必要です。

閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans; ASO)とは、腹部大動脈または四肢の主要動脈が粥状硬化病変のために狭窄または閉塞して、四肢に慢性の循環障害をきたす疾患です。

国内の国立循環器病センターにおける20年間のまとめによると、同施設の年間症例数は増加傾向を続けており、1980年代前半は年間40例前後であったものが、1990年代前半には年間100例にまで増加しているそうです。

粥状動脈硬化の危険因子を背景としていますが、特に喫煙の影響が顕著です。上肢には少なく、下肢動脈系の大腿動脈、膝窩動脈、腸骨動脈、腹部大動脈の順に多いですが、通常は複数の病変を認められます。病理学的には、粥状硬化病変の潰瘍形成・石灰化・出血・血栓付着のために内腔が閉塞または狭窄を起こしています。

安静時には血管内腔断面積が75%以下になると血流減少が起こります。運動時には安静時の10倍以上の血流が必要とされるため、歩行時などには運動に見合った血流が供給できなくなると、虚血症状が出現することになります。この状態が持続すると側副血行路が発達し始めます。

粥状硬化巣の破裂、血栓形成で急性閉塞が起こった場合には、急激な虚血のために突然罹患側の激しい疼痛で発症します。

症状としては、間欠性跛行が特徴的です。これは、一定の距離を歩くと下腿の筋に疲労感・疼痛が生じます。休息により数分で軽減するので、再び歩行が可能となります。

安静時疼痛は虚血の進行に伴います。筋肉・皮膚・神経の虚血症状で虚血性神経炎になると夜間臥床時の疼痛を訴えます。男性で、インポテンツを伴うものは Leriche(ルリッシュ)症候群と呼ばれます。

症状と重症度を表すのには、Fontaine(フォンテーン)分類が用いられます。
I度 :冷感、しびれ感
II度 :間欠性跛行
III度:安静時疼痛
IV度 :虚血性潰瘍・壊死形成

このような分類により、重症度判定が行われます。

視診では四肢、指の色と形態を観察します。蒼白、チアノーゼ、皮膚・筋の萎縮、爪の変形、潰瘍病変の有無を観察します。触診では、罹患側で皮膚温が低下し、動脈の拍動も減弱または消失しています。体表面から通常、触知可能な動脈を触診し、特に左右差を比較します。

聴診では血管雑音を頸部、鎖骨下、腹部、鼠径部、四肢で聴取します。これらは主に狭窄病変において聴かれますが、完全閉塞していればその部位では聴かれないことになるので注意が必要です。また、有意狭窄でなくても動脈内腔の不整や蛇行による乱流のために聴かれる場合も多いです。

血圧測定は聴診器またはドプラ血流速計を用いて四肢の各部で行います。正常上肢の血圧に対しての比を求めて血圧比(pressure index)とします。

足関節/上腕血圧比(ankle-brachial pressure index; API)は一般的に用いられています。正常APIは > 0.9 です。上肢での左右差は 20mmHg 以上、下肢の分節的血圧測定法では大腿上部、膝上部、膝下部、踝上部の血圧測定を行い、15 mmHg 以上の血圧低下部位から狭窄を推定します。

超音波検査ではBモード法で動脈病変部の狭窄を内腔の形態から観察可能です。さらに、カラードプラ法、パルスドプラ法を併用して、乱流の有無、血流速波形・血流速度記録を行って狭窄・閉塞病変部を診断します。

X線CTでは、血管の内腔・壁の性状がわかると同時に、周辺臓器との関連が検討可能となります。3次元再構築を行えば立体的な情報が得られます。また、MRアンギオグラフィー(MRA)では非侵襲的に動脈の走行,狭窄部位が推定可能です。

確定診断は、血管撮影によって行います。血管造影は病変部より中枢側にカテーテルを留置し、造影剤を注入します。狭窄・閉塞病変の部位,範囲,程度,側副血行路が最も正確に診断可能です。近年では、これらの診断からカテーテル治療へと応用されています。

治療としては、以下のようなものがあります。
その方法として、「血管内治療」と「バイパス手術」があります。

血管内治療は、太ももの付け根の血管から細い管(カテーテル)を挿入し、さらにバルーン(風船)を入れて狭くなった血管を広げて血流を良くします。局所麻酔で行いますが、再び狭くなる「再狭窄」が起きる場合があります。

一方、バイパス手術は、血管の詰まった部分を迂回するよう、自分の静脈や人工血管を縫いつける手術です。体への負担は大きいですが、狭くなったり詰まったりした部分や長さなどにかかわらず、治療できます。

詰まった動脈の範囲が長かったり、ひざより下であったりする場合などはバイパス手術が適しています。

自転車こぎなどの運動は、症状が軽い2度までの人には効果がありますが、3~4度と進行している場合、かえって症状を悪化させることがあり注意が必要です。治療法などについては、血管外科の専門医によく相談してみてください。

閉塞性動脈硬化症の治療戦略には、1)末梢循環障害への対策に加えて、2)生活習慣病・動脈硬化性危険因子への対策、および3)他臓器循環障害への対策の「三本柱」が重要となります。

1)末梢循環障害への対策としては、循環障害を無侵襲診断(足関節・上腕血圧比:ABPIは0.9未満で異常、血管エコー検査)や低侵襲診断法(トレッドミル検査、MRA、CTAなど)で病態・重症度を評価し、個々の病態に応じた方針を決定します。

重症例ほど積極的な治療(外科治療など)を選択しますが、頻度の高い間欠性跛行例では一般的処置、理学療法(運動療法など)、薬物療法(アスピリン、チクロピジンなどの抗血小板薬、血管拡張薬、抗凝固薬が投与されてきましたが、近年はシロスタゾール、プロスタグランジン製剤などの登場で有効率も向上しています)、その他、血管内治療(PTA)、外科的治療、血管新生療法なども行われています。

2)生活習慣病・動脈硬化性危険因子への対策としては、まず喫煙、高脂血症、糖尿病、高血圧などの生活習慣病を放置したままでは、病変進行や症状増悪などの原因となり、治療の障害(再発も含めて)にもなります。そこで、適切な対応(禁煙、運動・食事療法・薬物療法など)が必要となります。

また、全身の合併症は生命予後やQOLを低下させるため、脳血管障害(合併率30%)、虚血性心疾患(合併率40%)の予防(抗血小板療法が有効)や合併時の診療(各臓器虚血の治療)も必要となります。

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