読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
10年近く前から月に1、2回程度、のどの奥のひだの間に白い塊がつきます。家庭医学書では「慢性扁桃炎」とありましたが、どうすれば塊がつかなくなりますか。(65歳女性)

この相談に対して、自治医大病院・耳鼻咽喉科教授である市村恵一先生は、以下のようにお答えになっています。
免疫を担う臓器で、俗に「扁桃腺」とも呼ばれる扁桃のうち、のどのひだの間にあるものを「口蓋(こうがい)扁桃」と言います。鼻や口から入ってきた細菌などの刺激を常に受け続けるため、誰でも慢性的に軽い炎症を起こしていますが、炎症に加えて口臭や微熱などの症状が出た場合には、「慢性扁桃炎」と診断されます。

慢性的な炎症を繰り返していると、扁桃からはがれた細胞や白血球、細菌の死骸、食物の残りかすなどでできた「膿栓」という白い塊が、口蓋扁桃の表面に開いている多数の小さな穴にたまります。特に症状がなければ放置して構いませんが、膿栓では常在菌がとても繁殖しやすいので、独特の嫌なにおいが気になったり、膿栓がたまってのどの違和感が続いたりする時は、耳鼻咽喉科外来での治療の対象と考えられます。


慢性扁桃炎とは


扁桃は、そもそもアーモンドの種子の形に似ているため、アーモンドの別称である「扁桃」と命名されました。口蓋弓の中間にある陥没に位置する口蓋扁桃と舌根にある舌扁桃、咽頭円蓋にある咽頭扁桃はまとめてワルダイエルの咽頭輪と呼ばれます。

慢性扁桃炎は、急性炎症の反復を原因とする慢性化した口蓋扁桃の炎症を指します。喫煙、塵埃といった持続する物理・化学的刺激、慢性副鼻腔炎なども誘因となります。

ふだんの症状はないかあっても軽度で、咽頭不快感、異常感、微熱などがみられ、急性炎症を反復します。所見としては、扁桃の表面は肥厚し凹凸が著しく、前口蓋弓から軟口蓋にかけて発赤がみられます。腺窩内に膿栓をしばしば認め、圧迫すると膿汁が流出します。

急性炎症を起こすと、悪寒戦慄を伴う高熱を発し、咽頭痛、嚥下痛を伴うことがあります。食事摂取が困難となり、全身倦怠感、頭痛、関節痛、頸部痛も伴います。耳への放散痛もみられることはあります。

慢性扁桃腺炎の治療


慢性扁桃腺炎の治療としては、以下のようなものがあります。
治療は、専用の器具で吸引するか、口蓋扁桃の表面を洗浄します。膿栓は一度除去できても、再びたまるので、処置を繰り返さなければなりません。

また、風邪などの感染症による急性炎症を繰り返したり、腎臓病の「IgA腎症」など、他の病気の病巣になったりしている場合は、全身麻酔で口蓋扁桃を取り除く手術が必要になります。

予防には、免疫機能を下げる寝不足や過労を避け、飲酒や喫煙を慎むことも大切です。うがいには、膿栓を直接とる効果はないものの、口蓋扁桃の周辺環境を清潔にして常在菌の繁殖を抑える点で有効です。

ウィルス性の扁桃炎には特効薬はなく、補液、栄養管理、消炎鎮痛といった対症療法がとられますが、細菌感染の併発が多いので抗生物質投与は必要となります。この場合の投与日数は5〜7日間程度です。EBウイルス感染が疑われるときには、ペニシリン系は皮疹を誘発するので避けます。

また、現在の扁桃炎の反復に対しての扁桃摘出術の適応は論議のあるところですが、幼児期の扁桃炎による熱性痙攣誘発については絶対的適応とし、習慣性扁桃炎(年に4〜5回以上程度)、扁桃周囲膿瘍反復は相対的適応とみなされています。
 
習慣性扁桃炎の扁桃炎罹患回数からの定義はなされていませんが、おおよそと了解されています。扁桃摘出をするとその後の発熱、咽頭痛の発作は激減してきます。しかし、長期経過をみると、小児では扁桃摘出にかかわらず、2年すると発熱・咽頭痛発作の罹患頻度は同じになります。ただし、9歳以降になっても反復する例、特に成人例では自然軽快はまずありません。

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