見知らぬ番号からかかってきた電話に出てみると、相手の様子がどうもおかしく、何を言っているのかよくわからない――。そんな状況に遭遇したら、悪質ないたずら電話と考えたとしても不思議ではありません。しかし、このようなときに落ち着いて対応し、電話口の向こうで起きている緊急事態を察知、結果的に一人の男性の命を救ったという出来事がありました。

米放送局RTV6によると、インディアナ州のインディアナポリスの女子大生アクエリアス・アーノルドさんのもとに、一本の電話がかかってきたのは3月7日のこと。見覚えのない番号だと思いつつも出てみると、電話口からは荒い息づかいしか聞こえてきません。でも、いたずらにしては何かが違う。もしかしたら、なにか起きているのかもしれない。そう感じたアーノルドさんは、「どうしたのですか? 誰かに助けを求めているの?」とたずねたのです。

すると、相手からはやっと一言「はい」との返答。そこで、今度は彼女が911(日本の110番)に通報し、かかって来た電話番号とともに状況を告げ、緊急の救助要請をしました。

実は電話の主は、62歳のダン・オイエンさんという男性。自宅に一人でいた彼は、持病の脳腫瘍が原因で起こる意識障害に突然襲われたのです。そして医療機関に連絡を取ろうとしたものの、遠のく意識の中でダイヤルしたのは間違いの番号。

しかしアーノルドさんのとっさの対応で、救急隊員がオイエンさんの家に駆けつけました。その時点のオイエンさんの容態はてんかん発作を引き起こすまでになっており、会話も不可能な状態だったそうです。

オイエンさんは現在、介護施設に住まいを移し、知らせを受けたオイエンさんの家族も、遠い他州からお見舞いに駆けつけました。ただ、オイエンさんの余命はわずかと宣告されており、これが最後の訪問になるかもしれない、とのこと。それでも、最後にまた家族と顔を合わせることができたのも、アーノルドさんのおかげです。
(間違い電話が男性の命を救う、米女子大生が電話口向こうの緊急事態察知。)

脳腫瘍とは


脳腫瘍とは頭蓋内に発生する新生物の総称であり、原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に大別されます。

原発性脳腫瘍は、年間10万人当たり約10人程度発生するといわれています。男女差はなく、発症年齢は 5〜15歳と40〜50歳の2つのピークをもつといわれ、欧米に比較して日本では松果体の未分化胚細胞腫が多いといわれています。

原発性脳腫瘍の約1/3が脳内から発生する神経膠腫であり、脳内に浸潤性に発育するため根治的手術が不可能なため基本的に悪性と考えられます。

脳実質由来の神経膠腫、脳を包む髄膜から発生する髄膜腫、脳神経鞘から発生する神経鞘腫、脳下垂体前葉から発生する下垂体腺腫で原発性脳腫瘍の80%を占めます。

頭蓋内ではあるが脳実質外に発生する腫瘍としては髄膜腫(約25%)、下垂体腺腫(約15%)、神経鞘腫(約10%)が重要であり、これらは脳を圧排しながら成長するので根治的手術も可能であり良性腫瘍とされます。

それ以外に頭蓋咽頭腫(鞍上部)、胚細胞腫(松果体部、鞍上部など)、中枢神経系悪性リンパ腫などがあります(それぞれ約3%)。頭蓋咽頭腫、胚腫・胚細胞性腫瘍などは本邦に比較的多いです。近年では、悪性リンパ腫も増加傾向にあります。

脳腫瘍の症状は、頭蓋内圧亢進症状と局所神経症状があります。一般に脳腫瘍の症状は徐々に進行することが多く、急激な発症はむしろ血管障害を疑わせます。

しかし、脳室内腫瘍や小脳腫瘍は、急性水頭症による急激な頭蓋内圧亢進による意識障害をきたすことがあります。脳内病変がある場合、痙攣発作の原因となります。上記のケースでも、こうしたことが起こったのではないか、と考えられます。

痙攣発作は一般的には良性腫瘍に多くみられ(刺激性病変)、初発症状の場合も少なくありません。悪性腫瘍では痙攣発症も稀ではないが、麻痺などで発症することも多いです。

その他、以下のような症状が起こりえます。
下垂体や松果体近傍の腫瘍(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫など)では内分泌障害が初発症状となることもあります。下垂体近傍腫瘍では視力・視野障害で発見されることも多いです。

髄膜腫の好発部位は大脳半球部円蓋部、傍矢状部、大脳鎌、蝶形骨縁、小脳テント、鞍結節などであり、50歳以降の女性に多い。神経鞘腫は8割が小脳橋角部に発生し、聴力障害を初発症状とすることが多いです。

診断上、重要な検査としては、頭部のCTやMRI検査があります。主な腫瘍のCTおよびMRI所見では、いずれの場合も単純撮像では腫瘍周辺浮腫がよく描出され(CTでは脳実質より低吸収域、MRIではT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号)、造影剤投与により浮腫の中に腫瘍そのものが造影されてくるのが一般的です。

CT、MRIの所見から脳腫瘍の診断は比較的容易になってきましたが、すべての腫瘍性病変の確定診断は手術による腫瘍組織の病理学診断によってなされ、治療も原則としては、確定診断後に行われます。ただ、良性腫瘍では手術のみで診断・治療が完了することも多いです。

単なる間違い電話と判断されてしまっていたら、と考えると後ろ寒い思いをしますが、何とか一命を取り留めることができたようです。日頃、自分のことだけにかまけるだけでなく、周囲に目を配るといったことが重要だと教えてくれるニュースだと思います。

【関連記事】
脳腫瘍(グリオーマ)の少女が残したメッセージ

脳腫瘍の手術受けていた−沢田亜矢子さんの長女

呼吸中枢付近の脳腫瘍が原因−2年間しゃっくりが出た男